DISCUSSION —— 保育園に入れないのは「待機児童」問題じゃない、「官製失業」だ

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Junko Kimura/Getty

今年も保育園入園の「不承諾通知」が多くの親のもとに届いた。

昨年の「保育園落ちた」ブログから1年。待機児童問題は解消されるどころか、「ますます深刻化している」と感じる親たちも少なくない。国は、自治体は本気でこの問題を解決しようとしているのか。3月7日、衆議院議員会館で開かれた「#保育園に入りたいを本気で語ろう」集会。この問題の本質とは何か。保育事業を運営するNPO法人「フローレンス」の代表 駒崎弘樹氏と、海外の保育事情に詳しい日本総研の池本美香氏がこの問題を論じた様子を報じる。司会は4月よりBUSINESS INSIDER JAPAN統括編集長に就任する浜田敬子氏。


浜田 雑誌「AERA」で初めて「保育園に入るための活動=保活」という言葉を使ったのは2010年でした。毎年、保活の取材をしてきましたが年々、状況が年々悪くなっているのを肌で感じています。これまで待機児童の問題にどうかかわってきたか、自己紹介もかねてお話しいただけますか。

駒崎 待機児童問題を解決しようということで、「おうち保育園」という小規模認可保育所を15園やっていて、まさにこの問題とダイレクトにかかわっています。

昨年、「保育園落ちた日本死ね」で、社会がようやくこの問題に気づいたなという感じがしました。でも1年たって、今年もまた不承諾通知が乱舞しているわけです。何なんですか、「不承諾」って。自治体は保育サービスを提供しないといけないという義務が、児童福祉法に書いてあるんです。義務を、自治体が履行していない。つまり自治体が法律違反をしているという状況なんですね。親や子どもが悪いんじゃないんです。行政や、制度が悪いんです。

「待機児童」問題ではないんです。自治体が保育サービスを提供できないことよって退職を余儀なくされ、失業させられているという「官製失業」なんです。政治が本気を出さなければいけないのに、本気がまだまだ足りないということです。だから、その足りなさに対して、足りないとちゃんと声を上げていきましょう。

池本 わたしは子どもにかかわる政策を専門に、20年くらいやってきました。わたし自身、5年前に2人目の子どもが待機児童になって、これは大変な問題だと気づいた。

海外と比較しながら、日本の制度はどうあるべきかと考えていますが、海外では保育園は「親が働く時に預ける場所」ではなくて、子ども、乳幼児の教育機関として作っているということがわかってきました。日本でもそういった根本的な保育観の転換が必要で、それをやらないと待機児童問題の根本的な解決にならないのではないか、と考えています。

浜田 よく待機児童の問題の原因として「潜在需要を掘り起こしてしまい、需要が予測できなかった、ニーズが上回った」という言い方がされますよね。働きたい人が増えていることも予測して作ればいいのに、なぜ、ずっと、数が足りない状況が続いているのでしょうか。

駒崎 まず「いたちごっこ論」はウソなんです。どういうことかというと、待機児童の定義が自治体ごとに違う。保育園に入れなかったために育休を延長した人を待機児童から除外するなどして、実際より小さく見せよう、小さく見せようとしている数字なんですね。結局、そのウソの数字を目標にしているから、実際はもっともっと需要があるのに、足りなくなる。わかりきったことなんです。

最初から、小学校の定員分、保育園を作ればいいんですよ。諸外国では幼児教育の場所としてあるわけだから、子どもの数だけ作ればいい。しかし日本では限られた人のための施設ですよ、という建前をまだ捨てずに、低い目標値をわざと作って、まだ足りませんでした、と言っているんです。

自治体は本気で作りたいと思っているのか

浜田 自治体はそもそも、保育園を作りたいと思っているのか。本当のところどうなんでしょうか。

駒崎 建前と本音があると思います。建前として、「うちの自治体はがんばってますよ、200人定員増やしましたよ」って言うんです。でも、もっと増やせばいいじゃんというと、「いやお金がね~」と言う。たしかに例えば世田谷区ではすでに3000億円の予算のうち300億円が保育関連の予算になっていて、2年後には450億円になるという急膨張をとげている。そうすると、なかなか自治体でそのコストもちきれない状況にもなってしまっている。一方、こういう不安もある。今これだけたくさんの保育園をつくっても、15年後、20年後、子どもが減って余ったらどうしよう。これ不良資産になっちゃうよね、と。いずれ子どもは減るんだから、それまでだましだましやっておけば、なんとかなるんじゃないかと思ったりする。この二つの懸念から、自治体は100%本気ではなく、国がアクセルを踏んでも自治体の側で若干、ブレーキを踏んでいるという状況はあると思いますね。

浜田 国から補助金が増えるとか財政的な支援があれば、もうすこし保育園を作ろうというインセンティブは自治体には働くんですか。

駒崎 そうですね。少なくともそこは、じゃあ、作ろうかという風になっていきますよね。

浜田 都心部では近隣住民の反対もあり、保育園の用地確保も難しいです。財源以外にも解決できない問題もあるのでは。

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「#保育園に入りたいを本気で語ろう」集会

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駒崎 壁になっているのが、保育士不足の問題と、用地・物件の問題ですよね。保育士不足は簡単にいうと処遇が低いから、なり手がいないという話。この春からようやく処遇を6000円あげることになった。たった6000円かと思うが、今まではなかったことですからいいことです。もう1つ、用地の話ですが、いろいろやりかたがあるんですよ。たとえば1ヘクタール以上もある都立公園に作る。これもようやく、一昨年くらいからやり始めた。それから、都が持っているこまぎれの物件もたくさんあるんです。たとえば清掃事務所で物品を置いていたようなところ。いちどリストを出してもらったことがあるんですが、これ使えるじゃん、という物件もかなりある。ところが管理者が、これはゴミを置いているんでだめです、とか言ったりするんです。小池百合子都知事は、そういった東京都の土地を1カ所に集めて情報発信していこうということもやり始めています。

浜田 待機児童の問題の根底には、政治家や日本社会に「子どもは家で女性が育てろよ」という根強い考えがあるのではと思うんです。こうした根本の価値観は、変わるんでしょうか。

駒崎 変えないと、日本の未来ないですよね。日本は残念ながら女性議員の数も少ない。家事と育児は全部人任せにしてきたようなオッサンたちが政治をやっている。しかもそれが残念なことに、世代を超えて引き継がれているところがある。「女性は家で子どもを見てるのが幸せですよねえ。え、違うんですか?」みたいな、そういう押しつけと抑圧がこの国には満ちていると思っています。われわれは価値観の戦いをしなきゃいけない。特に男性は「3年間抱っこし放題」とかほざいているんじゃなくて、お前が抱けよと(会場から拍手)、声を大にして言ってかなきゃいけないと思っています。

保育園は貧困対策、財政問題にも効果的

浜田 池本さん、海外ではそもそも待機児童という言葉や発想がないということですが、どうなっているんでしょうか?

池本 たとえばニュージーランドでは、政府は待機児童をなくすっていう話じゃないんです。働いていない人、来たくない人まで子どもは保育園に預けに来て下さいという、そういう呼びかけになっている。子どもにとって必要な施設だから整備しているっていうことなんですね。 むしろ保育園が貧困対策として非常に重要と位置づけられています。まず保育園に来てもらって、子どもを見ててあげるから就活をしてくださいと、どんどん就労を応援するんですね。

ノルウェーでもかつて、保育園に行かずに家庭で育てるという選択肢もあるんじゃないかと、家庭で育つ子にも国が手当を出すという制度をやっていたことがあります。しかし実際やってみると、家庭で育てられた子どもはほかの子どもと会う機会が少なかったり、親もストレスが増え、経済的にも苦しかったりして、子どもにいいことがなかった。それで、保育園に行く権利を子どもに与える、という政策に転換したんです。

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子どもを遊ばせながらディスカッションを聞く親たちも。

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浜田 ニュージーランドでは何が変化のきっかけになったんですか?

池本 ニュージーランドはもともとは専業主婦が多くて、保育の質も悪くて、女性の就業率が上がらない国だったんです。そこへ財政が危機的な状況になり、お金を有効に使うにはどうするか、という議論のなかで保育園の重要さが強調されたんですね。子どもの教育のための施設として位置づけ直し、お金もきちんと入れて、女性が働けることにしようと転換した。それが1980年代のことです。

いまの日本もまったく同じですよね。財政的にすごく危機的な状況にもかかわらず、女性が働けない。ニュージーランドにならって、保育園を子どもの教育の観点から位置づけて整備することは、日本の財政にもすごくプラスになると思っています。

駒崎 アメリカでも、0~5歳の保育や乳幼児教育というものが、どんな効果をその子にもたらすのかという追跡調査をちゃんとしていて、その結果が出てき始めています。結果は驚くべきもので、良質な保育を受けた子どもたちは犯罪率が低く、生活保護率も低く、所得も高かった。乳幼児期に国家予算を投入しておけば、後でめちゃめちゃ得するんだよというのがデータとして出てきたんですね。保育への投資は子どものためになる、そして社会のためになるんだということがわかってきた。だから、来たくない人も来て下さいということが言えるわけなんです。

なのに、いまだに日本の政治家と話すと、「いやー、一部の働きたい親のためになんでそんなの作んなきゃいけないんですか」みたいなことをいまだに言ってる。3周ぐらい議論が遅れてるということです。

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「#保育園に入りたい」と参加者みんなで声をあげた。

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池本 日本では保育園のイメージを変えないといけないと思っています。年配の方になぜ関心をもっていただけないのかというと「保育園というのはかわいそうな子どもがいくところ」というイメージがあるんですよね。保育園は子どもにとって、あまり良くない場所だということ、それがスタートになってしまっている。スウェーデンの保育園に行った時、1つのグループが15人くらいの小規模で、そこに複数の部屋があり、保育時間もコンパクトでした。スウェーデンって専業主婦がいない国で、みんな働かされて大変だよな、と思って行ったんですけど、みんな保育園に預けるために働いているんじゃないか、と思うくらい保育園がすばらしかったんです。「保育園はかわいそう」というイメージをなくしていく、そのためには保育時間を短くしたり、質を上げたり、ということももっと考えなくちゃいけないと思っています。

駒崎 待機児童という言葉は死語にしましょうよ。こんな言葉を子どもたちの世代に引き継いではいけないと思うんです。僕たちの世代で、この問題に終止符を打つことが親であるわれわれの責務だと思う。男も女も、父も母も、働いている、働いていない、関係なく、みんなで声をあげたいと思います。


駒崎弘樹氏 —— 訪問型の病児保育サービスを手がけるNPO法人フローレンスを2004年に設立。2010年からは待機児童問題の解決のため、空き住戸を使った小規模認可保育所「おうち保育園」を展開する。著書に「働き方革命」「社会をちょっと変えてみた」など。

池本美香氏 —— 日本総合研究所調査部主任研究員。少子化にかかわる保育・教育政策や労働政策が専門で、海外の保育政策にも詳しい。編著に「親が参画する保育をつくる —— 国際比較調査をふまえて」「子どもの放課後を考える―諸外国との比較でみる学童保育問題」など。

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