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大企業にオープン・イノベーションは本当に可能か? SXSW 2017で「家電の再定義」を提案したパナソニック アプライアンス社の挑戦

2017年3月10日、テキサス州オースティンで、サウス・バイ・サウスウエスト(以下SXSW)2017が開幕した。

同フェスティバルは音楽、映画、インタラクティブからなる世界最大規模のイベントだ。ダウンタウンの中心街に会場が散在し、オーディエンスはその中からお目当ての展示やワークショップを探して移動する。

街の中心にあるオースティン・コンベンション・センターでは、展示とキーノート・セッションが行われ、近辺のホテルではカテゴリー別のセッションが開催される。また、街のいたるところでは、企業によって建物一棟が貸し切られ、特設展示場が設営される。見どころの1つだ。

会場には先端テクノロジーをいちはやく体験しようと来場者らが列をなす。また、ある会場ではバンドやDJを招きビールとカクテルがふるまわれる。

目抜通りの6thストリートには、多くの企業ブースが出展し、また夜ともなると 音楽が絶えない。飲食を楽しみながら、カルチャーからテクノロジーまで分野を 横断して議論が交わされ、新たなイノベーションの種子が蒔かれる。まさにSXSW を象徴する通りでもある。

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3月11日から2日間、あいにくの雨となったSXSW2017。

Hiroto Kobayashi / BUSINESS INSIDER JAPAN

そんな6thストリートの一角にある建物の一階に、Panasonic House@SXSWがオープンした。ここからパナソニック アプライアンス社のオープン・イノベーション・プロジェクト「ゲームチェンジャー・カタパルト(以下GCカタパルト)」から生まれたアイデアが世界に向けて披露されるのだ。10日夜のプレオープンを皮切りに、施設内に多くの人たちが訪れた。

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6thストリートに出現したPanasonic House@SXSW。ライブハウスやバーが立ち並ぶ通り沿いの一角だ。

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Panasonic House@SXSWを正面玄関から見たところ。

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そもそも、このGCカタパルトとは何か? それは社内外の共創を目指して立ち上げられたプロジェクトの名称だ。そのミッションには、「オープン・イノベーション」「新しい価値の提案」「新しいアイデアを生み出す風土や働き方」が掲げられている。今回、8つのプロジェクトが展示され、2016年4月の社内公募で集められ、最終選考に残ったものや、ニューヨークのパーソンズ芸大とのコラボレーションなどが提案される。

BUSINESS INSIDER JAPAN が、その中身に迫る。

家電で社会課題を解決? パナソニック アプライアンス社が行うイノベーションの姿とは?

「食や健康、住まい方を事業として行っているわれわれには、社会に対する責任があります。実は海外でも、冷蔵庫や洗濯機は単なる家電製品としか見られていない。しかし、わたしたちは家電のイノベーションを通じて社会課題を解決できると思っています」

そう語るのはGCカタパルト代表の深田昌則氏だ。

これまで海外マーケティングを担当してきた深田氏は、2014年にカナダより帰国し、日本でかつてのようにイノベーションが起きていないことにショックを受けたという。

その後、さまざまな提案を行う中、経営陣から「2025年のアプライアンス社の未来を考える」という課題を与えられ、中堅社員のグループで提案した新規事業を模索するための活動が、このGCカタパルトの原型である。

GCカタパルトは2016年6月に社内から次代のビジネスアイデアを募ると、そのなかから8つのプロジェクトを選んだ。各チームは、ビジネスモデルの検証と同時にプロトタイプ制作までを行い、このSXSWではじめて世界にお披露目する。

そんなGCカタパルトが目指す、家電のイノベーション像とはなんだろうか? 深田氏は語る。

「料理にはカロリーを摂るための料理と、人生を楽しむための料理があります。ルーティーンである料理がテクノロジーにより簡単にできるようになると、余裕が生まれ、次に人は新しいライフスタイルを生み出すクリエイティブな料理に挑戦したり、より社会課題を解決したりすることに努力しようとします。そういったバランスの変化を意識し、どう変えていくのか、これがGCカタパルトの核となるのです」

たとえば、「DeliSofter」。これは高齢や事故のため咀嚼することが難しい嚥下障害や摂食障害をもつ人々を対象に、通常の食事をそのまま軟らかく調理できる専用機器だ。

「DeliSofter」開発者の1人、小川 恵さんは嚥下障害を持つ家族を抱える悩みから、同プロダクトを考案した。

「嚥下障害者のためのレトルト食品は高額のため、一食買うだけでもかなり家計への負担が大きく、作るのも手間になります。しかし、家族は皆と同じものが食べたいと思っています」

「レトルト食品では肉じゃがもカレーも味が判別できないため、食欲が促進されず、なかなかタンパク質が取れません。最悪の場合、低栄養になって、危険な状態に陥ります。嚥下障害を持つ家族にもほかの皆と同じように食べる喜びを与えたくて、本プロダクトを思いつきました」(小川さん)

そんな小川さんのアイデアに共感した1人に水野時枝さんがいる。彼女は、長寿が多い鹿児島県徳之島で生まれ育った経験から、「人生の最後まで家庭の味を食べられたら、という想いが一緒になった」と語る。

小川さんは神戸工場に勤務、水野さんは草津工場で品質管理に従事し、職場も異なる。彼女たちにとって、今回が初めての商品開発であり、小川さんは海外出張は初めてで、2人にとってSXSWも初めての体験となる。

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小川 恵さん(右)と水野時枝さん(左)。中央にあるのは、DeliSofterのデザインプロトタイプ。

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2人は、社内の協力をあおぎ、企画からデザインモックまで4カ月をかけて行った。鶏の唐揚げを軟化すべく、さまざまな社内機器で調理に挑戦したという。作られた介護食を医師や看護師に食べてもらい、小川さんの家族にも入れ歯を外し、歯茎だけで食べられるかを確認した。

そのような行程を経て、「DeliSofter」のプロトタイプが完成した。会場で彼女たちは、来場者に向けて軟化させたブロッコリーをふるまい、自ら本サービスを訴求した。

「ここまでやるのか!」SXSW流儀のアピール

「The Ferment」は、誰でも簡単に発酵食が調理できる専用機器と専門家の手になる発酵食の調理キットからなるサービスだ。

UXデザインを専門とする山本尚明さんと、家電量販店でレンジや炊飯器の営業経験を持つ浦 はつみさんが開発に携わった。

山本さんは途上国で酒づくりのプロジェクトを担当した経験から、発酵の面白さに魅せられた。

一方の浦さんは、家電販売の現場にて発酵機の必要性を痛感していたという。そんな2人は、3年前から本アイデアを温め続け、昨年GCカタパルトに応募した。

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The Fermentの開発に携わる山本尚明さん(左)と浦 はつみさん(右)。

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発酵食品のキットをスマホのアプリからブルートゥース経由でコントロールする。発酵用機器。

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The Fermentはシェフのレシピ選定、発酵食品キット購入から機器の温度管理、感想の共有まで1つのアプリで制御する。

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「The Ferment」は、スマホアプリ1つだけで、食材の入手から発酵管理、調理までを行うことができるサービスである。これまで手間だった発酵食づくりを、簡単に誰でも楽しめるようにする。

「これまでは機器だけを販売しておしまいでした。しかし、この『The Ferment』は、発酵レシピを考案するシェフと食材パートナーとを消費者につなげるコミュニティづくりをサービス事業として発想しました。そこに価値があります」(山本さん)

浦さんは自作の歌を披露し、会場内を大いに沸かせた。ほかの開発者も「ここまでやるのか!」と目を丸くする。

SXSWのある常連出展者は言う。「SXSWはほかの展示会と違い、展示を業者や代理店任せにして開発者が身を潜めていればよいわけではありません。開発者が自らアピールしなければ、誰も耳を傾けてくれません」

山本さんに来場者の反応について聞いてみた。「甘酒をふるまいました。砂糖を使っていないと知ると、皆驚いていました。女性やビーガンの方からも好評です」

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共創を呼びかけるThe Fermentからのお知らせ。

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「CaloRieco」は調理した食事から具材や調理法を識別し、カロリーや栄養素を自動計測する専用機だ。電気情報関連の技師である越智和弘さんが独りで取り組んでいたアイデアに、同じ部署の海藏博之さんが加わった。

2人はもともと運動機器などの開発を手がけていたが、消費カロリーだけではなく、食事にも取り組む必然を感じていた。また、越智さんは糖尿病患者の方の食事療法の大変さを知り、それを支援したいという思いで始めたという。

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CaloRiecoの専用機をはさみ、海蔵博之さん(左)と越智和弘さん(右)。

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「CaloRieco」についての来場者たちの反応を聞いてみた。

「糖尿病の方やダイエットに関心のある人以外にも、反応が良かったのは予想外でした。アメリカ人は大きな家に住んでいるので、製品のサイズを気にしないと思ったら、すごく気にしていることがわかったことも発見でした(笑)」(越智さん)

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越智和弘さん(右)と海蔵博之さん(左)。

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ビジネスモデルを転換せよ —— 大企業のリーンスタートアップ、前線で闘う知財技能士

「Bento@YourOffice」は、ランチ難民救済のために生まれたプロジェクトだ。オフィスにある冷蔵庫を利用し、そこへの「置き弁」を可能にする。ポイントは、専用機器の購入やリースをする必要がないという点だ。商品の供給は社外パートナーと提携し、パナソニック アプライアンス社が行うのは、IoT機器とアプリの提供である。それにより、「スマートロック」「スマートペイメント」「在庫状況のモニタリング」といったサービスを実現する。

わかりやすく説明しよう。

従来の置き弁は、金銭と商品の数が合わないなど不都合があった。また集金の人件費がかさむことや、冷蔵庫内の状況把握も大変だった。このサービスを導入することで、ユーザーは先にアプリから代金を支払い、それにより冷蔵庫のスマートロックが解除され、商品を受け取ることができる。さらにクラウドでは個々が購入した商品データを取得できるため、アプリを介して栄養についてのレコメンドも可能だ。また、提携パートナーは在庫状況を常時モニタリング可能となる。

つまり、このサービスが意味することは、ユーザーと社外の事業者にとってのマルチサイド・プラットフォームということだ。同社にとって未踏のビジネスモデルである。

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Bento@YourOfficeは、シンプルなIoTキットを既存の冷蔵庫や箱に取り付けるだけ。写真はレゴで作られた箱に装着したセンサー類。

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開発に携わる真鍋馨さんは、GCカタパルトの事業開発リーダーでもある。本社の経営企画に在籍、その後冷蔵庫事業に携わっていたが、GCカタパルトには自分から志願したという。モノを売るだけのビジネスではなく、コトを起こすビジネスへの転換を行うために、本プロジェクトを起案したと語る。

「社外パートナーに提案したのが昨年10月でした。そこから2カ月でプロトタイプを完成させ、年明けから実験を開始しました。3月にプレスリリースしたのが本プロジェクトです」と真鍋さん。まさにベンチャー企業並みのスピード感だ。

「Bento@YourOffice」を真鍋さんと一緒に開発した井上貴之さんは、一級知的財産管理技能士の資格をもつ。エンジニアやデザイナーの多いプロジェクトのなかでは変わり種とも言えよう。

「今回のように社外の事業者と提携する場合、ウィン・ウィンのビジネスモデルを構築しなければなりません。その際、立ち上げ段階から、わたしのような技能者が入る必要があります。通常だと、すべて決まった後に契約書が法務部に回ってきますが、事業の立ち上げ時には自分から現場に出向く必要があります」

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Bento@YourOfficeの開発者、真鍋 馨さん(右)と井上貴之さん(左)。

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井上さんは、「グーグルやアップルなどのグローバル企業と闘うには、まず先に知財や法務も動かねばなりません」と続ける。「サービスや商品だけではなく、ビジネスモデルの構築も同時に行うことが重要です」

そこには、これまでの大手企業と中小企業の取引のようなやり方は通用しない。互いが安心し、相互にシナジーを発揮するための契約書づくりが欠かせない。

「デザイナーやエンジニアのように、知財の専門家もビジネスの立ち上げから関わることで、一緒に世界と闘えるのです」(井上さん)

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Bento@YourOfficeは冷蔵庫ならずとも、箱の形をしたものなら、すべて応用可能だ。たとえばシェアハウス内での居住者同士による物品や図書の貸し借りも想定している。

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家電が問いかける、新たなライフスタイル

GCカタパルトの出展会場となるPanasonic House@SXSWの片隅には、毎日来場者から各プロジェクトへの投票が行われている。自分のお気に入りのプロジェクトがあれば、付箋に感想を書いて投票できる。来場者からダイレクトなフィードバックがもらえるのもSXSW的だ。

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各プロジェクトについて感想が書かれた付箋がそのまま人気投票となっている。あくまで、ゲームなのだが一喜一憂してしまうチームメンバーたち。

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連日、人気を呼んでいた「MonStyle」を見てみよう。ユーザーが自分のお気に入りの一着だけを、衣類を傷つけることなく自宅で洗浄できる新たな衣類ケアシステムだ。

現場で説明を行っていた安藤真理子さん、大倉さおりさん、大野はるかさん、秦 枝里子さん、黄 翠燕さんに話を聞いた。

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右が1枚から洋服を洗浄できる筐体。左はお香の形をした専用洗剤。

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彼女たちによれば、本プロジェクトはGCカタパルトよりも前からのアイデアだったとのこと。技術、企画、マーケティング、デザインと、それぞれ専門領域が異なる彼女たちは、本業の合間にSkypeなどでも連日、本アイデアを検討していた。

フレグランスがそれぞれ違うお香のような形の洗剤や、エフェクターと呼ぶUVカットや防水などの添加剤などを「MonStyle」のために考案し、洗剤メーカーとも共創した。

「洗剤といえば、単なる消耗品だったけれど、それをオシャレや楽しみに転換したかった」(大野さん)

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MonStyleについてお話をおうかがいした、スタッフの方々(左から順に)泰 枝里子さん、黄 翠燕さん、大倉さおりさん、大野はるかさん、安藤真理子さん。

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「MonStyle」のUIやプロダクトの質感は、これまでの家電とは一線を画している。海外の反応も上々だ。もしかしたら、デザイナーズホテルなどに設置するなど、都市生活者以外のビジネスユースも取り込めるのではないだろうか。

これまでの真逆へ。β版が未来を創る

AMP(アンビエント・メディア・プレーヤー)は、テレビモニタとしてではなく、住空間に溶け込み、自身の好みにあったアート映像を流し続けるまったく新しいメディアプレイヤーと、キュレーションされたコンテンツを配信する事業アイデアだ。

展示場には、リビングルームをそのまま再現した空間がつくられ、そこに正方形のモニターが置かれ、美しい映像を流し続けていた。

「AMPは、アンビエント(環境)というライフスタイルで訴求すれば受け入れられると信じています」と語るのは、谷口 旭さんだ。

本プロジェクトは始動してから3年が経過したものだ。GCカタパルトにより、ようやく事業化への希望が見えた。テレビ開発に携わる谷口さんを含めたエンジニアが10人で始めたプロジェクトから始まったという。

「最初は、テレビそのものへの危機感から企画が始まりました。テレビには、情報だけではなく、違う価値を載せられるのではないかと、私たちは考えていました。実際に、ネットなどで入手した映像コンテンツをモニターから流し、それに別の音楽をつけて観たら、とてもおもしろかったのです。そのようなコンテンツをキュレーションして配信するのが、このAMPなのです」

モックアップは、最初16:9のサイズだったが、それだと画面をしっかり観なくてはいけないという雰囲気を醸してしまう、と谷口さんは語る。画面以外に余白を残して正方形にしてみたら、しっくりきたそうだ。余白のパネル内にスピーカーを入れて、アンビエント作品に適した音響づくりを行ったのが、こだわりの部分だ。

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AMPが展示されるスペースはリビングルームを模したレイアウトに。連日、興味を持った来場者がプロトタイプの前に集っていた。

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AMPには、それに向けて配信する新しい映像作品のプラットフォーム構築が欠かせない。そのためのコンテンツ・キュレーションに社外パートナーを選んだ。今春にイタリアのミラノサローネでの出展も決まっているとのこと。

「MonStyle」「AMP」は、家電からの、まったく新しいライフスタイルの提案だ。エンドユーザーに降りていくまでに時間はかかるかもしれないが、美術館やカフェ、こだわりのあるユーザーたちにとって魅力的に映るだろう。

各製品の訴求には、「MonStyle」ならデザイナーズ・ホテルへ、「AMP」なら美術館など、まずは事業者に対するマーケット・クリエーションから始めるのがよいのでは、と伝えてみた。

「はい。やめたら失敗だと思います。階段を登るような感じでいけば、いけると外部のメンターに言われて勇気をもらいました」(谷口さん)

入り口近くで日本酒を置いていたのは「Sake Cooler」のプロジェクトだ。名前のとおり、日本酒を最適な温度に保つ機器で、ボトルを挿入すると蔵元の情報や日本酒に適した料理が表示される。

もともとお酒が大好きという幸 裕弘さんは、SXSWに向けてわかりやすさで日本酒をテーマに本プロジェクトを考案したという。今回、幸さんはハッシュタグが印刷された「おちょこ」を来場者に配っていた。それによってソーシャルメディアからも感想が検索できる。

「これまでの商品開発とは逆に、コンセプトから提案して、さまざまな声を聞きながら今後の方向性を探っていきたいと思います」(幸さん)

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Sake Coolerと幸 裕弘さん

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今回、ウェアラブルの分野でもオープン・イノベーションが促進されていた。昨年5月にニューヨーク市にある有名な美術大学パーソンズと提携した授業の一環として、大学院生24名を集め、6チームを編成、勝ち残ったチームによる展示だ。それらは心と体の健康(ウェルネス)の支援をテーマにした一連のプロジェクトとなる。

「SLEEPWISE」は睡眠改善を、「Göbie(ゴービー)」はジェスチャーだけでコミュニケーションが行えるデバイスだ。後者は簡単な遊びによって人とのつながりを構築する。

また、アメリカの有名大学とのワークショップで生まれたアイデアをベースに急遽3週間で開発したというウェアラブル・デバイスも展示されていた。体の傾きや声のトーンなどから、プレゼン時のコーチングなどを行うものだ。開発者の森本高志さんは、「未完成のものでも出展してみたかった。コンセプトを提示したうえでパートナーが見つかるといい」と語る。

また、GCカタパルトの開発リーダーを兼務する秋元伸浩さんは、「いままでパナソニックでは、未完成のプロダクトを出展するといった前例がありません。メンバーにとって、大きな刺激になったのではないでしょうか」と今回の出展について語る。

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ウェルネス関連の開発メンバー 左から小川智輝さん、浅野花歩さん、秋元伸浩さん、森本高志さん。

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2017年のSXSWは1つの転換点として記憶される

通年ならば汗ばむほどの気候だが、SXSW2017は2日間に渡り冷たい雨が降り注いだ。吐く息も白くなるほどの肌寒さだ。しかし、3日目になりようやく、テキサス南部の強烈な日差しが顔を見せ、街は本来の陽気さを取り戻し、街路に多くの人々が溢れかえった。

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連日の雨にもかかわらず、会場内は多くの来場者やメディアが訪れた。各プロジェクトに質問が飛び交う。

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そんななか、深田代表に話を聞いた。初日は雨天にもかかわらず連日満員で入場に行列ができるほどの来場者がPanasonic House@SXSWを訪れていた。彼の表情は明るい。

「反響は大きかったです。アメリカでも驚くほど、多くの人たちが社会課題解決に興味を示してくれました。発酵食や衣類ケアのイノベーションなども、想定していたよりも違和感なく受け入れられて意外でした。嬉しかったです」

実は展示会場を訪れた外国人男性に、今回のGCカタパルトの取り組みへの印象を聞いてみた。30歳代の彼は次のように答えてくれた。

「ぼくはヨーロッパから来たけど、パナソニックは世界的なブランドで誰でも知っているよね。まず、思い浮かぶのがテレビと家電。そんな彼らが新しい挑戦を行っていて、消費者としてすごく興味深かった。トレードショーではない、このSXSWには、すぐ先のアイデアが溢れている。だから、次に彼らが何をするのか、ぼくにも理解できた気がする」

今回、展示された8点のプロジェクトは、さらなる審査を経て選別される。今後、残ったものだけが、本格的な商品・サービスとして事業推進されていく。

深田代表は語る。

「毎年、この挑戦は繰り返されます。スタートアップ・アクセラレーションと同じように、社内で繰り返され、卒業生が次のプロジェクトのメンバーにアドバイスを与える。それにより、イノベーションを起こすのだといったムードが社内に醸成されていくのが、1つの狙いでもあります」

イノベーションにおいて、大企業にもスタートアップにもそれぞれ違う抑圧や困難が存在する。しかし、それぞれを跳ね除けるロバストネス(頑健性)をもたなければ、どんな競争にも生き残ることはできないだろう。

深田代表は、GCカタパルトに人事や経理など、さらに多くの部署からも参加してほしい、と述べる。国籍、キャリア、スキルなど多様な出自を持つ人材こそが大企業の資産でもある。今後、このSXSW経験者のなかから未来の経営幹部が現れるかもしれない。あるいは、この経験を糧として大きく成長し、日本のイノベーションをリードする人材もいるだろう。

それに加えて、リーンスタート、迅速な開発、世界への問いとそこからのフィードバック、共創の促進……。そんな作法をパナソニック アプライアンス社が身につけた未来を想像してみたい。2025年からバックキャストしたとき、2017年のSXSWは1つの転換点として記憶されることは間違いない。

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終了間際のPanasonic House@SXSW。スタッフたちはその日のフィードバックを受けた後、さらに夜はSXSWらしい新しい出会いの場を経験する。そして、また翌日早朝から現場に臨む。

Hiroto Kobayashi / BUSINESS INSIDER JAPAN

文・写真:小林弘人( BUSINESS INSIDER JAPAN )

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