NASAの予算案に署名したトランプ大統領
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- ドナルド・トランプ大統領は、2017年のNASAの移行認可法案に署名。
- 新しい法律では、2033年までの火星到達という目的達成のため、NASA向けに195億ドルの予算を求める。
- しかし、その内容からは、トランプ政権がカットしようとしている「地球科学ミッション」の分野が抜け落ちている。
3月21日、米国政府は約7年ぶりとなる米航空宇宙局(NASA)の長期計画を承認した。
同時に、トランプ大統領はS.442として知られる2017年のNASAの移行認可法案に署名。その法案の内容は、NASAに年間195億ドル(約2兆1700億ドル)の予算を求めるものだ(2016年には、国家予算の0.5%に相当する193億ドルがNASAに割り当てられた)。
トランプ大統領は3月21日のツイートで、以下のようにコメントした。「この法案に署名することで、NASAのコアミッションである人類宇宙探査、宇宙科学、そして宇宙技術の発展に国家がサポートできることを光栄に思う」
しかし、この「コアミッション」から、NASAが創設以来取り組んできたある分野が抜け落ちている。地球科学だ。
大気の時代の終わり?
NASA Earth Observatory
1958年に制定され、NASAが創設されるきっかけともなった国家航空宇宙法では、「大気中の現象に関する知識の拡大に貢献する組織」として新たな宇宙機関の設立が呼びかけられた。
NASAのミッションには、気候研究も含まれている。長年蓄積されたデータから、 人類の活動が温暖化と地球の気候変動を加速していると科学的合意が得られているにもかかわらず、トランプ大統領や政権幹部たちは、その事実を認めていない。
Business Insiderのラフィー・レッツァー(Rafi Letzter)の報告によれば、NASAはこの地球科学ミッションに「過去6期の共和党政権および5期の民主党政権と、友好的に取り組んできた」
しかし、新法案では地球科学という単語は言及すらされていない。
今後、いくつかのNASAの主要なプロジェクトの予算もカットされる可能性がある。その中には、 地球観測衛星 (PACE)、 軌道上炭素観測衛星(OCO-3)、 ディープ・スペース・クライメイト・オブザーバトリー(ディスカバーDSCOVR)、および放射収支観測機(CLARREOパスファインダー)のミッションなども含まれる。
これらの4つのプロジェクトでは、天候、気候変動、海洋生態系といった地球科学分野の重要な監視や予測が行われている。もし、これらのプロジェクトが中断されれば、人々の生活のサポートや野生生物の保護、またさまざまな国々の長期的な環境変化の予測とその準備に多大な影響がおよぶことは想像に難くない。
この予算カットが現実のものになるかはまだ分からない。なぜなら、S.442は承認されたものの、2018年の予算年度における配分額が確定する前に、長く複雑な予算編成プロセスが残されているからだ(2018年の予算年度は2017年10月1日から2018年9月30日まで)。
トランプ大統領の新予算案では、NASAが国家から受け取るべき予算は議会が求めた予算より4億ドル低い年間191億ドルとされた。一方で共和党グループは、トランプが気候変動の科学的事実を認識するよう、圧力をかけている。
NASAの新たなロードマップ
フロリダ州ケープ カナベラルから打ち上がるスペース・ローンチ・システム
NASA's Marshall Spaceflight Center
新法案はNASAに「2030年代に人類を火星上、もしくはその周辺に到達させる」プランをつくるよう求めている。さらに法案では人類を月、火星、そしてその先の宇宙へ送り込むための巨大ロケット、スペース・ローンチ・システム(SLS)の継続的な開発を促している。
トランプ大統領は就任演説で「宇宙の謎を解明する準備はできている」と述べ、 火星の有人探査の支援を表明した。さらに政権当局は、2020年代までに月の大規模開発と往復旅行をNASAに実現させると発表している。
法案の署名を受けて、アメリカ天文学会は予算195 億ドルの簡単な内訳を公開した。その中には、宇宙探査費用、宇宙ステーションの運用費用、科学研究にかかる出費などが含まれている。146ページにわたる文書の中の注目すべきトピックを以下にまとめた。
- 「宇宙探査の実現の保証」:2018年のSLSとオリオン宇宙船の無人打ち上げ、それに続く2021年の月の有人探査、さらに月や火星旅行といったミッションの実現。
- 「火星への旅」: 2033年までに火星に人を送りこむためのロードマップをNASAに要求。またこの項目では、オバマ大統領が推進してきた小惑星リダイレクトミッション (小惑星を地球周回軌道にけん引し、宇宙飛行士に惑星岩を探索させる計画)からNASAは手を引くよう呼びかけている。
- 「有人宇宙飛行探査、その目標と目的」 :「人類のプレゼンスを地球低軌道外に永続的に拡大していくこと」をNASAのミッションと定める。
- 「航空学」 :NASAは航空学、極超音速航空機研究をけん引していく存在であるだけでなく、超音速航空機の研究から「グローバル市場を開拓し、新たな交通手段を可能に」しなければならない。
- 「火星探査機2020」:「ある惑星に生命が存在していたかを判断するために」車サイズの探査機を使用するというNASAの計画を議会は支持する。
- 「エウロパ」:氷に覆われた木星の第2衛星エウロパへ軌道衛星を送るというNASAの計画を承認 (エウロパには温かな地下海がある可能性があり、そこに生命の存在が期待されている)。
- 「議会による政策目的の改定承認」:以前の法律を改正し、「生命の起源、進化、分布、および宇宙の将来の研究」をNASAのミッションとして加える。
- 「太陽系外惑星探査戦略」:太陽系外惑星を探査するためにジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などの精密機器をどのように使うかを説明するようNASAに求める。
- 「地球近辺物体」 :キラー小惑星を見つけるプロジェクトを推進するよう、NASAに求める。
- 「ラジオアイソトープ発電システム」:深宇宙ロボットに使われる非常に希少な核燃料プルトニウム238を作る計画と、原子力探査計画についてのレポートを提出するようNASAに請う。
[原文:Trump just signed a law that maps out NASA's long-term future — but a critical element is missing]
(翻訳:Rio Nishiyama)