Mihnea Stanciu/Flickr
米国の金融街は自動車ローン市場に懸念を示している。 フィッチ、ムーディーズ、モルガン・スタンレー、みずほフィナンシャル、Evercore ISIが最近公表した市場分析は、自動車ローンの延滞率の上昇がもたらす悪影響が、自動車メーカー、消費者、そして債券市場の一部など、広範囲に広がる可能性を示唆している。今、知っておくべきポイントは以下の点だ。
- サブプライム自動車ローンの延滞率は過去7年で最高水準。
- 銀行が手を引き始め、貸し出し基準の緩い金融機関が参入してきている。
- リース後に返却された車両が市場になだれ込み、中古車価格が大幅に下落。
- 含み損を抱えた下取り車の割合が過去最高。
- 自動車ローンの資産担保型証券は危険水域に近づいている。
- 自動車ローンの資産担保型証券市場における、より信用の低い層を対象にした「ディープ・サブプライム・ローン」の占める割合が増大 。
フィッチ:「ローン返済の不履行は、サブプライム部門でより急激に進むだろう」
Fitch
フィッチによると、サブプライムローンの60日以上の延滞率は過去7年で最高となっている。みずほフィナンシャルの米チーフエコノミストSteven Ricchiuto氏は、サブプライム自動車ローンの貸倒率が2016年1月の7.9%から、今年1月には9.1%に跳ね上がっている点を指摘した。ニューヨーク連邦準備銀行のブログLiberty Street Economicsは昨年11月、サブプライム自動車ローンの債権回収率の悪化に注目し、警告している。
「サブプライム自動車ローンの回収状況が著しく悪化している。約600万人が自動車ローンを90日以上延滞している 」
フィッチ:「リスク性向が高く貸し出し基準が緩い、経営基盤の不安定な独立系自動車ローン業者が増えている」
Fitch
銀行が自動車ローン市場から手を引いている一方、新たな金融業者が参入している。
「2016年には独立系金融機関とクレジットユニオンの融資が最も伸び、年末時点でそれぞれ20.5%と25.4%のシェアを獲得した」とフィッチ。とりわけ独立系金融機関の伸びは著しく、1年間で18.9%から20.5%にシェアを伸ばしている。フィッチはこうした業者について、「よりハイリスクで査定が緩く、安定性が低い自動車ローン会社の増加が、サブプライム部門の信用力の低下につながる」と懸念している。
フィッチ:「2017年2月に中古車価格は1.6%下落した。この下げ幅は2008年11月以降最大」
Fitch
自動車ローンの返済延滞が増えている一方、、中古車価格は下がっている。
「全米自動車ディーラー協会(NADA)の中古車価格指数(8年落ちまでの車両を対象とした卸価格を算定)は2016年に6%以上低下した。2017年2月には前年同期比8%低下し、8カ月連続でマイナスとなった。中古車価格は1.6%下落しており、下落幅は2008年11月以降最大だった」
Evercore ISI:「中古車価格が急激に下落」
Evercore ISI
リース後に返却された車が出回り、供給過剰となった結果、中古相場が急激に下落し、中古車価格の低下を招いている。Evercore ISIによると、その状況はフォードの資料からも明らかだ。フォード・クレジットのCFO マリオン・ハリス氏は「価値の低下は需要ではなく、供給の問題だ」と述べている。リース後返却された車が中古車市場に大量供給され、9月と10月の値崩れにつながった。最近の中古車価格の落ち着きは、供給が一服したからかもしれない。
ムーディーズ:「負債が残った下取り車の割合は過去最高」
Moody's
ムーディーズのレポート(3月27日)は、自動車リース会社が下取り車の含み損を次の自動車ローンに組み込んでいる実態を紹介した。例を挙げてみよう。
- A氏は100ドルのトラックを80ドルのローンを組んで購入する。
- A氏がトラックを下取りに出す時点で、トラックの価値は半分になっている。
- 一方、A氏はそれまでにローンを10ドルしか払っておらず、車両を(買値の半分の)50ドルで下取りに出すと、なお20ドルの負債が残る。
- A氏は、次の車を購入する際に、20ドルの負債も新たなローンに組み込む。
ムーディーズによると、含み損を抱えた下取り車の割合は最高水準となっており、金融会社は下取り車に残っている負債を、新しく購入する自動車ローンに組み込まざるを得ない。その結果、新しく自動車を購入する際の借入額が増え、デフォルトに陥った場合の損失額も増大するおそれがある。
モルガン・スタンレー:「プライムローン、サブプライムローン資産担保証券(ABS)の60日以上の延滞率はそれぞれ0.54%、4.51%。後者は金融危機時のレベル(4.69%)に近づいている。
Morgan Stanley
自動車ローン向けABSは危険水域にあり、サブプライムローンABSのデフォルト率は、金融危機後のピークに近づいている。モルガン・スタンレーは「自動車ローンABSのプライムとサブプライムにおける60日以上の延滞率はそれぞれ、0.54%と4.51%となっている。デフォルト率も同様に上昇しており(プライム:1.52%、サブプライム:11.96%)、金融危機時に迫っている。デフォルト率と損失率の上昇に伴い、年間の貸倒率も上昇すると予想される」 と分析している。
モルガン・スタンレー:「信用力の低い人向けのディープ・サブプライムローンが増加」
Morgan Stanley
モルガン・スタンレーは、延滞率の増加の要因は、FICOスコア(クレジットスコア)が500を下回る消費者向けの高リスクな「ディープ・サブプライム」取引の増加だと指摘する。 「証券化市場では、我々がディープ・サブプライムと位置付けるFICOスコアが平均550以下の人向けのローンの比重が高まっている。事実、サブプライム自動車ローンABSでディープ・サブプライムの占める割合は2010年の5.1%から2016年には32.5%に増えた。2012年以降に新規参入した金融業者が、ディープ・サブプライムローンの取引を増やしている」
source: Fitch 、Evercore ISI 、 Moody's 、Morgan Stanley 、 Flickr
(翻訳:十河亜矢子)