Google Cloudのプロダクトマネジメント副責任者 サム・ラムジ氏
サム・ラムジ氏(Sam Ramji)はマイクロソフトに在籍していた当時、少し変わった業務を担当していた。彼の仕事は、マイクロソフトが長年脅威だとみなしてきたLinux開発のオープンソースコミュニティと自社の橋渡しだった。 「私は変人だった」とラムジ氏はBusiness Insiderに話す。そんな彼がGoogle Cloudのプロダクトマネジメント副責任者に就任してから4カ月が経過しようとしている。
Google Cloudは、グーグルのサーバーインフラを利用して、開発者がスーパーコンピュータの機能を利用できるサービスだ。 グーグルはオープンソースプロジェクトが大好きな会社として知られているが、現在ラムジ氏がグーグルで行っていることは、マイクロソフトで行っていたことと「それほど変わらない」(同氏)。グーグルがマイクロソフトやアマゾンよりも優れたプラットフォームであることを開発者に説明し、グーグルの製品を使ってもらうよう「橋渡し」をすることが今の彼の役割だ。
それは簡単な仕事ではない。しかし、グーグルの創業者、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが2004年に宣言した「グーグルは従来型のありふれた会社ではない。我々は1つになるつもりはない」というビジョンに従う限り、開発者の人気を勝ち取ることができるとラムジ氏は話す。 つまり、グーグルは「企業YではなくGoogle Y」になることで、クラウドコンピューティングサービス業界1位の「アマゾンウェブサービス(Amazon Web Service)」や2位の「Microsoft Azure」に勝利することができるとラムジ氏は考えている。
Google Cloudの責任者ダイアン・グリーン氏
Business Insider
企業向けに強化
仮想化ソフトウエア大手VMWareの共同創業者兼元CEO ダイアン・グリーン(Diane Greene)氏の指揮の下、Google Cloudは大企業への販売を積極的に行い、競合との差を詰めることに成功した(グリーン氏は2015年にGoogle Cloudの責任者に就任した)。 今後ラムジ氏がやるべきことは非常にシンプルで、全ての開発者が利用したいと思うサービスを作るだけである。官僚的でスピード感のない巨大企業で働くプログラマーでさえ、平日夜や週末などを利用して頻繁に個人プロジェクトを行っている。「企業で働く開発者は週末も開発者だ」とラムジ氏は話す。
そしてこれがグーグルの戦略にとっての鍵になるという。顧客となりうる企業のIT部門がマイクロソフトやアマゾンのサービスに満足しており、Google Cloudに移行する理由が見当たらなかったとしても、開発者コミュニティーに出向いて、開発者に直接試してもらうことがラムジ氏の戦略である。 ラムジ氏は、大企業向けにGoogle Cloudをアップデートした成果を強調する。Google Cloudは顧客が独自に所有しているカスタマーデータセンターと統合できるようになり(ハイブリッド・クラウド)、さらにアマゾンやマイクロソフトなど、他社のサービスとも連携できるようになった。
「企業は自社のソフトウエア設計と連携できるクラウドサービスを必要としていて、その解決策がハイブリッド方式なんだ」とラムジ氏は語る。
待ち受ける困難
ここまでが戦略である。ラムジ氏は開発者にGoogle Cloudを使ってもらうための具体的な策を練らなければならない。
「Google Cloudはまだ十分に認知されているとは言い難い。そのギャップを埋めるためにも、我々が提供する『入り口』は素晴らしいものでなければならない」ラムジ氏が非営利ソフトウェア組織Cloud Foundry FoundationのCEOを辞めて現職に移ったのは、 Google Cloudが、競合サービスと比較して「安くて速い」というのを頻繁に聞いたからだ。
Google Cloudは素晴らしいパフォーマンスを誇る。しかし、広告やマーケティングによって、主要クラウドプラットフォームの機能は似たり寄ったりとのイメージが形成されており、この印象を乗り越えるにはさらなる努力が必要だ。 開発者向けにサービスを無償提供したり、使い方を説明する豊富な資料を用意したり、コミュニティーに積極的に参加していくことで良い方向に向かうだろうとラムジ氏は予想する。Google Cloudのエンジニアは「Reddit」や「Hacker News」などのような、開発者がよく利用するオンライン掲示板をチェックし、問題解決を助けたり、アドバイスを行うようにしているという。
Googleのデータセンター
また、グーグルはエンジニアやシステムアーキテクトを顧客に組み込むために、複数のプログラムを運営しており、顧客の自社製品の開発を支援する活動も行なっている。
「売り上げが出る前も出てからも、我々は素晴らしいサービスを提供し続ける」とラムジ氏は話している。
グーグルの強みを活かす
グーグルには説明しきれないほどの強みがあるという。ラムジ氏は大小さまざまなIT企業で幹部として勤務した経験があり、業界を熟知している。そんな彼が常々感動しているのが、グーグルには非常に多くの優秀で情熱を持った人材が集まっていることだ。 ラムジ氏は、グーグルのことを「子どもの自主性を育む学校」のようだとたとえている。
グーグルのUrsHölzle(Google Cloud Next '17の基調講演)
グーグルの従業員の多くがGoogle Cloudに配属され、しばらく働いた後、Google Docsや検索広告、自動運転車部門に移る。その逆もある。こうして異なったスキルを持つ優秀な人材の流動性を確保している。
「特定の職種のための採用ではなく、グーグル全体のための採用を行っているんだ」とラムジ氏は語る。
しかしグーグル内での人材の流動性の高さが時には障害になることもある。グーグルに長くいると、グーグルのペースで働くことに慣れてしまう。大企業の多くはグーグルのようなスピード感で開発を行っていないので、Google Cloudの顧客のニーズがつかみにくくなる可能性があるという。
「加速しすぎて車輪が取れてしまっては意味がない」とラムジ氏は言う。
[原文:This ex-Microsoft exec is charged with making programmers love Google]
(翻訳:Satoru Sasozaki)