東芝経営危機はアメリカでどう報じられたか?

―― 筆者の津山恵子氏はニューヨーク在住のジャーナリスト。ライター、作家、写真家の顔も持つ。アメリカの社会、政治、ビジネスを日本の読者に向けて執筆する。近著は「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。


原発

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Sean Gallup/Getty Images

「ウェスチングハウス、写真で見る130年の歴史」———。

東芝傘下の米ウェスチングハウスが米連邦破産法第11条の適用を申請した3月29日、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が掲載したスライドショーだ。この特集で、ウェスチングハウスの破綻がいかにアメリカ市民にとってショッキングだったかがわかる。東芝の経営不振問題はCNNなどの米主要ニュース局が報じることはほとんどなかったが、ウェスチングハウスの破綻は、終日マーケット関連として報じた。

WSJでは、同社の前身ウェスチングハウス・エレクトロニクスを創立した発明家ジョージ・ウェスチングハウスの白黒写真が見られる。彼は1886年、自分の発明をビジネスにするための電力事業会社を立ち上げた。その後、電力送信網、テレビ・ラジオ放送網、家電などに事業を拡大。1969年には、月面探査機アポロが月面着陸した有名な動画を撮影したビデオカメラも供給している。スライドショーで見ると、アポロの宇宙飛行士がカメラを片手で持っており、当時としては驚くほど小型だ。

今回経営破綻したウェスチングハウスは、この伝統的な電機・電力総合事業の原子力部門が切り離されて、東芝が2006年に買収した原子力事業子会社だ。

米連邦破産法第11条の適用申請は、日本の民事更生法に相当し、債務を一掃して破産管財人のもとで再生し、会社自体は消滅しない。2008年のリーマン・ショックの後、自動車米最大手ゼネラル・モーターズ(GM)さえも申請し、現在はよみがえっている。借金をチャラにする限り、経営が破綻しなければ適用申請は不可能だ。

憧れのプレスバックスポンサー

東芝もアメリカ市場での存在感を少しずつ失ってきた。それを顕著に感じるのは、毎年1月、ネバダ州ラスベガスで開かれるハイテク家電市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」だ。私が初めてCESを取材した2004年、報道陣にタダで配られたプレスバッグは、ライトグリーンとクリーム色のエコカラーで、タイヤがついた小型リュックだった。報道陣にしか配られないが、広大なフロアを歩いていると、一般参加者から「それはどこに行ったら買えるのか」とよく聞かれた。

そのプレスバッグのスポンサーが東芝で、「TOSHIBA HD DVD」と大きなロゴが縫取りで書かれていた。当時の次世代DVDの規格で、ソニー/松下電器産業(当時)の「ブルーレイ」と激しい争いを繰り広げていた最中だ。CESに来る数千人にも上る取材陣が、「HD DVD 」のロゴ付きのスタイリッシュなバッグを持って会場を歩くだけで、とてつもないインパクトがあった。

しかし、2008年1月4日、CES開催に先駆けたプレスデーの日、DVD販売トップのワーナー・ブラザーズが、ブルーレイへの一本化を表明。常に午前中に設定され、多くの報道陣が詰めかける東芝のプレスイベントは、まるでお通夜のようだった。会見場で記者らの足元にあったのは、青とシルバーのプレスバッグで、この年も「HD DVD 」の縫取りがあった。直後の2月、東芝はHD DVDからの撤退を発表する。東芝はその後、プレスデーのイベントからも撤退した。

ターゲットとなるフラッシュメモリー事業

東芝がCESでの存在感が徐々に後退していく中でもなお、アメリカ人記者の間では、テレビの高級ブランド「REGZA(レグザ)」などへの評価は高かった。友人記者からは「なぜ、その技術力をもっとうまく宣伝できないのか」という声をよく聞いた。しかし、テレビが大量に売れる時代は過ぎ去っていた。CESでは、東芝の数倍の展示面積を持つ韓国のLG電子、サムスン電子などが、もっと消費者にアピールする「曲面テレビ」などを出し、テレビを見る楽しさをうまく見せる派手な展示をしている。

ウェスチングハウス関連の多額損失を穴埋めするため、東芝は世界シェア2位のNAND型フラッシュメモリー事業を売却することを発表している。NAND型フラッシュは、すべてのモノがインターネットにつながる「internet of things(IoT:モノのインターネット)」、サイバーセキュリティ、人工知能(AI)などのコアとなる技術で、今後の成長期待は極めて高い。買収に名乗りを上げているのが、アメリカの名だたる大企業だ。報道によると、アップル、グーグルの親会社アルファベット、アマゾン、投資会社シルバー・レイク・パートナーズ、半導体メーカーのブロードコムなどの名があがる。

かつて東芝は、CESでプレスデーの目玉だった。早朝のイベントに、世界中の記者が集まって発表を待ち、ムンムンとした雰囲気があった。ところが、アメリカの企業ウェスチングハウスの損失で、経営危機に陥った。一方で、同社の有力ビジネスが、アメリカのハイテク企業の「ターゲット」となっている。海外の企業を買収したものの、うまくガバナンスが働かず、経営危機の引き金となり、事業を売却しようとすれば、逆に海外企業の買収の「目玉」とみられる。技術力で優れたものを持ちながら、日本企業の事業の統率やマーケティングのまずさが日本の技術流出につながっている。

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