シリア難民はクックパッドで故郷の味を作る —— 家庭料理の価値を広める海外戦略

アメリカの空爆でさらに混迷を極めるシリア情勢。2011年の内戦開始以来、すでにシリアから欧州などに脱出した難民は500万人を超える。多くの難民は故郷に帰れる見込みもないまま、今の祖国の様子をどう思っているのだろうか。実は日本国内で月間6300万人以上が利用するレシピ検索サイト「クックパッド」が今、ドイツに住むシリア難民の間で人気だ。彼らは今、遠く離れた地で故郷の味を検索している。

クックパッド・アラビア語版

クックパッド・アラビア語版。文字が右から左へ綴られるアラビア語は、デザイン上も苦労が多かったという。

cookpad

東京・恵比寿に本社を構えるクックパッドが、ドイツに住むシリア難民たちの間で同社の検索サイトが使われていることに気付いたのは、今年1月のことだ。同社のブランディング・広報担当VPの小竹貴子氏は明かす。「各国から集まるデータを整理していたら、アラビア語による利用者数が多い国のリストにドイツが入っていることに気付いた。これをきっかけにデータを分析していくと、シリアからドイツに逃れてきた難民がクックパッドを利用していることがわかってきた」

Batoul_Syrian Cookpad user

クックパッド・アラビア語版のレシピを見ながら調理を進めるBatoulさん。

Batoulさん提供

戦禍を逃れ、2年前から母親や兄弟たちとドイツで暮らすBatoulさん(17)は、クックパッドを利用するシリア難民の1人だ。シリアの伝統的なスイーツのレシピを検索していた時にクックパッドの存在を知ったと言う。「クックパッドはわたしのような主婦や若い女性が、シリアの伝統的な料理や新しい料理を作って、そのレシピを共有しているので、安心して利用できる。クックパッドに掲載するために、料理中たくさんの写真を撮るので、わたしのクックパッド好きは家族も知っている」と話す。

「クックパッドには簡単なレシピが豊富にあるところが気に入っている」と話すのはSoso Samman(30代)さんだ。ドイツで落ち着くまでに、いくつもの国を夫や3人の子どもと渡り歩いたと言う。「戦争によってシリアを離れざるを得なかったが、クックパッドを通じてシリア料理のレシピを共有できるのはうれしい。アラブの人たちとコミュニケーションを取るきっかけにもなっている」

「世界中のレシピを集めたい」

今後5年間で100カ国に展開する計画を持つクックパッド。同社が海外事業をスタートさせたのは、今から3年前の2014年にさかのぼる。展開先を決める際の判断基準は、その言語を使う人がどのくらいいるかと、家庭で料理を作る文化があるかどうかの2つだといい、スペイン語版とインドネシア語版から始まった。アラビア語版はその翌年、15年にスタートしている。これまでに英語やフランス語、ハンガリー語など計17言語を63カ国で展開中だ。

海外の月次利用者数は3500万人を超え、日本国内でバレンタインデー前に普段の約1.5倍と最も利用が増えるように、海外ではクリスマスやラマダン(イスラム教徒が行う約1カ月間の断食。ほとんどのイスラム教徒は日の出から日没までの飲食を絶つ。最終日には家族や友人で集まり、豪華な料理を囲んで断食の終わりを祝う)といったイベントの前にアクセスが伸びるという。クックパッドではこうした各地のトレンドをつかんで、その時期はイベント関連の料理レシピをトップページに集めるなどの工夫をしている。

クックパッド・インドネシア語版

クックパッドのインドネシア語版

cookpad

同社の海外事業は、基本的に現地のレシピ投稿サイトを買収する形で展開されてきた。例えばアラビア語版はハラ・ラバキ氏ら4人の共同創業者がレバノンで2010年から展開していた「Shahiya.com」を15年に買収。インドネシア語版は、 スギヤント・ウィドジャヤ氏とストゥリノ・ミサワ 氏というソーシャル・アントレプレナーの兄弟がインドネシアで2011年から展開していた「Dapurmasak.com」を2014年に買収したもので、いずれも「料理を通じた『食』で、社会を変えたい」という思いを共有できたことが、買収につながったという。サイト名は買収後いずれも「クックパッド」のブランド名に統一される。

「クックパッドのような家庭料理のレシピ検索サイトは、もともと世界にあってしかるべきサービスだ」。そう語るのは、海外事業を担う執行役の保田朋哉氏だ。「レシピ検索サイトはインフラのような存在。むしろ日本国内で閉じている理由がない。海外進出の目的は、事業を大きくすることよりも、家庭料理の価値を広げることだ」という。

「経済が成長するに従い、消費者の購買力が伸びれば、外食は増えていく。ファストフードの流れは止められない。ただ先進国では近年、家庭料理の価値を見直す動きも広がってきている。開発途上国の人々には経済成長の過程で、今ある素晴らしい家庭料理の価値も守ってもらいたい。クックパッドがその役に立てればうれしい」

一方、同社は海外展開で得られた知見を日本のサービスに反映することも考えている。保田氏は言う。

「例えば『英語版』とひとことで言っても、アメリカやイギリス、その他さまざまな場所で利用されている。同じ単語でも綴りが違ったり、同じ動作でも使う単語が違うこともある。利用者に人気のレシピも味付けの好みも、利用者がどこに住んでいるかによって異なる。日本の場合、綴りや表現にさほど違いはないかもしれないが、利用者が作りたいと思う料理や味付けは、地域ごとに違いがある。こうした『地域性』の概念は日本語版でも将来的に取り入れていきたい」

クックパッドの2016年12月期の決算によると、1月~12月の売り上げは、前年比26.3%増の168億4500万円。営業利益は50億1200万円で、前年に比べ21.6%減少した。2016年10月には、衣料品やキッチン用品などのeコマースを手掛ける子会社のセレクチュアーを京王百貨店に売却、EC事業を終了した。創業20周年を前に、同社は国内においては料理とは直接結びつかない事業を整理し、海外においてはイギリスのクックパッド・インターナショナルを持ち株会社とし、海外事業全般を総括する第二本社と位置付けた。なお、2017年12月期の業績予想は「事業を取り巻く環境等の変化に応じて機動的に判断していくため、合理的に算定することは困難」として、開示していない。

小竹氏はこう話す。

「人々の笑顔や絆、健康を作り、現地のライフスタイルや産業に社会的インパクトを与えることもできる。それが料理なのです」

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