メガバンク若手の転職希望者急増、現実は嫁・親ブロックで内定辞退も

年末年始の休みに将来を考えて、転職について家族会議を開いた人も少なくないだろう。2017年は空前の人手不足で転職市場が沸いたが、これまで安定、高収入の勤務先と目されて来たメガバンクの20〜30代から転職エージェントへの登録や相談がハイペースで増えているという。

仮想通貨は盛り上がり、銀行業務はAIに置き換わるとの指摘がメディアをにぎわせている。3メガバンクが数年かけて大幅な業務量削減する方針も明かされた。先行きに不安を感じた若年層を中心に、転職を検討するムードが高まっているようだ。

しかし、転職を思いとどまるよう説得する嫁・家族ブロックはじめ、大企業ならではのハードルもある。

メガバンク

メガバンクを取り巻く環境は大きく変わりつつある。

Reuters

登録者急増、転職先も多様化

「秋以降のメガバンク出身者の人材登録(転職希望)はいつもよりもハイペースで増加しています」

エンエージェントや海外人材に特化したエンワールド・ジャパンを展開する、エン・ジャパンの担当者はいう。中でも目立つのはリテール(個人部門)や窓口業務の担当者という。

2017年秋、みずほフィナンシャルグループ(FG)が10年で1万9000人分の業務量削減を発表したのをはじめ、三菱東京UFJ銀行、三井住友FGと3メガ合算で、数年かけて約3万2000人分の「業務量削減」方針が報じられた。

メガバンク側は決して人員削減という文言は使わないが、リストラの文字が頭を駆け巡った社員は少なくないはずだ。

実際リクルートキャリアの調査では、銀行・信託銀行・政府系金融機関出身による転職サービスへの登録者数は、2008年度下期を1とすると2017年度上期では5.8と約6倍に達している。

背景として、リクルートキャリアの金融ハイキャリアグループのキャリアコンサルタントの水谷努さんは、

  1. マイナス金利の長期化によるメガバンクの構造不況
  2. AI活用による業務の見直し
  3. フィンテックの台頭による環境変化

などが不安を高めていることを指摘した上で、「いわゆるミレニアル世代はのし上がって行こうというより、ワークライフバランスのライフ重視の傾向がある。出世よりも社会貢献という意識が強く、昇進のためには全国転勤は当たり前という社風にそぐわない人も出てきている」と話す。

「転職先が広がっているのも特徴です」

同じく金融ハイキャリアグループマネジャーの福元崇之さんはこう指摘する。

金融業界からの転職志望者推移

リクルートキャリア

リクルートキャリアでは 2015年度上期で金融業界出身者の転職先は4割以上が金融業界だった。しかし、2017年度上期では金融業界へのスライドは 26%にとどまり、転職先はコンサルティング、建設・不動産、人材・教育など多様化している。

「どの業界も空前の人手不足。メガバンク出身者は財務諸表が読めてきっちりした教育を受けていると見られており、採用ニーズは高い」(福元さん)

珍しくない内定辞退

ただ、だからと言って大量の転職者が生まれている状況ではない。エージェント各社によると、内定辞退や選考途中にとどまることが多いのも、メガバンク出身者に特有の傾向だという。原因として目立つのが、家族の反対だ。

「たしかに、安定した大手企業に入ったのになぜ転職するのか、という奥様の反対は一部ありますね。また、ご家族や奥様、そのご実家も公務員や銀行員というケースは多く、メガバンクがいいとの価値観から、転職を思いとどまるよう説得されることは珍しくないです」(リクルートキャリアのコンサルタント、水谷さん)。だから何度も、家族や周囲との相談状況を確認するという。

嫁ブロックに親ブロック、妻の実家ブロックまでの総攻撃で転職を断念するということか。

さらにエン エージェントのコンサルタントはこう明かす。

「メガバンクのリテール営業であれば、20代で年収は700万円を超える。そこを下げられない人も多く、そうなると正直、紹介先が難しい」

妻はお客様、説得に2年

「勤務先、妻、自分の親という3つの反対に遇いました。メガバンクのことは好きだったので自分自身が悩んだこともあって、結局転職までに2年かかりましたね」

ITマーケティングのフロムスクラッチで財務など管理部門担当の執行役員を務める、堤洋介さん(33)は、8年間勤めたメガバンクを3年前に退職し、立ち上げ3年の同社にやって来た。3万5000人の大企業から30人程度の会社という転職経験者だ。

堤さん

メガバンクからベンチャーへ移った堤さん。年収は1桁変わったが、心は決まっていた。

撮影:滝川麻衣子

リテール営業として新卒で入行。関東圏の支店に配属された堤さんは、顧客のデータを丹念に分析し、入行数年で全国3000人のリテール担当でトップの営業成績を叩き出す。29歳で支店長代理という、スピード昇進も果たした。

ただ、自分の目指すものとメガバンクでのキャリアの乖離は、入行4〜5年目で感じていた。

個人の金融リテラシーを上げて世の中を変えたいと思って来たのですが、本当に意思決定する立場になるためには、銀行は年数がかかる。経営層に行こうとなると20年です。正直、その頃の社会は想像がつかない

知人のツテをたどって、フロムスクラッチの代表と会ったときに、組織の熱量を実感し、「自分の想いを実現するには、これだ」と決める。

そこから周囲の説得に2年かけた。

1. 勤務先

実は一番、理解してもらえた。考え直せと引きとめられたものの話を重ね、やがて「そこまで言うならがんばってほしい」とまで言ってもらえた。

2. 妻

転職の決意を告げた時は第二子を妊娠中。年収も一桁変わる。会社の安定性もさることながら、共働きの妻は、堤さんが転職後にさらに忙しくなることにも不安を覚えたようだ。

「転職先に連れて行き、奥さんのいる社員と夫婦同士でランチをセッティングしたり、転職先の財務諸表や実行計画を見せたり。妻をお客様と思って納得してもらえるまで、丁寧に説明を繰り返しました」(堤さん)

3.親

最後まで反対したのは親かもしれない。自らも事業をしていた父親は「お前がリスクを負うことで苦労をするのは家族なんだぞ」と、難色を示した。それでも結果を出して必ず家族を守ると説得を続けた堤さんに、最後には「理解はするけど応援しない」とだけ告げたという。

転職から3年が過ぎた今、時間はかかったが「自分の覚悟を問う期間だった」と当時を振り返る。ファーストキャリアのメガバンクについてはこう言う。

「今でも感謝しています。自分の基礎を作ってくれた会社ですから」

これが家族の守り方

「周囲のビルにそれぞれ、同じメガバンクの出身者がいますね」

六本木の東京ミッドタウン界隈の見晴らしのいいビルにある、IT系人材サービスのVISITS。そこで働くエグゼクティブディレクターの男性(34)は言う。

旧知の社長が経営しているVISITSの事業に強く惹かれたことをきっかけに、メガバンクを離れることを決めた。妻が産後に体調を崩した時期でもあり、国内外に転勤のないことも大きかった。

現在は妻の実家の関西に家族の拠点を移し、週4日は東京の本社、週1日は関西の顧客を回り、週末は家族と過ごす生活だ。

「年収は半分ぐらいになりました。それでも、最低限家族を養っていけるし、いずれダブルインカムにすれば何も困らない。これが私にとっての家族の守り方でした」と、屈託がない。

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「信念がないなら、不安を理由に出ない方がいい」

Reuters

メガバンクに象徴されるような大企業出身者の転職について、リクルートキャリアの福元さんはいう。

「新卒で人気の高い業界に就職すると、周囲からすごいねと言われた価値観から抜け出せない人も少なくない。すると『大手の求人を紹介してほしい』というような他人の目を気にした転職活動になり、つまずいてしまう。一方、将来こうなりたいから逆算して自分軸で転職する人は、転職後にやりたいことを実現して活躍するケースが多い」

長寿化が進み人生100年時代と言われる現代で、個人のキャリアは長くなる一方、企業の寿命サイクルはどんどん短くなっている。生涯1社で勤め上げるキャリアが現実的ではなくなってきているのは事実だ。

とはいえ、メガバンク出身のVISITS勤務の男性はいう。

「メガバンクの先行きがどうなるかは誰にも分かりませんが、現状は巨大な収益を上げ続けている。先行きが危ないというような、ホラーストーリーであおることに意味はない。本当にやりたいことがあれば出ていくし、信念がなければ不安を理由に出ない方がいい

出るもとどまるも、正解はない。ただ、自分の未来は自分の手にある。

(文・滝川麻衣子)

編集部より:初出時、リクルートキャリア作成の「金融業界出身者の登録者数推移」のグラフは、マイナス金利導入を2012年度上期としていましたが、正しくは2015年度下期でした。グラフを差し替えました。2017年1月26日14:00

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