資金調達「ICO」の “いい規制”で日本に資金は集まるのか:2018年急上昇ワード

2017年に大きな注目を集めた仮想通貨を使って資金調達をするICO(Initial Coin Offering)。この手法に2018年、一定の規制が入るかもしれない。

といっても、中国のような全面的な禁止ではなく、一定のルールの下でICOを実施できる環境整備が主眼だ。業界団体が自主的なルールを設ける検討も進んでいる。

仮想通貨取引所の国内最大手bitFlyer(ビットフライヤー)の加納裕三社長は、登壇したカンファレンスの中で、「ICOについても、いいレギュレーション(規制)をつくっていただいて、日本に資金が集まるような形をつくって、そこからイノベーションを起こしていければいいと期待している」と、金融庁に規制を促すともとれる発言をしている。

加納裕三氏

bitFlyerの加納裕三社長。

撮影:小島寛明

ICOは、企業などがインターネット上でトークン(引換券に相当)を発行し、トークンを販売することで事業に必要な資金を集める。トークンセールとも呼ばれている。トークンは取引所で売買され、事業の進展などに応じてトークンの価値は上下する。トークンを発効する企業は事業計画書にあたる「ホワイトペーパー」を公表し、投資をする人はそれを基に事業の成長性などを判断する。

加納氏のICOの規制に関する発言があったのは、2017年12月21日に東京で開かれたカンファレンス「REG/SUM」でのことだ。「金融規制の方向性とグローバル対応」がテーマのセッションで、金融庁の佐々木清隆総括審議官も登壇した。

日本の仮想通貨ブームは、規制が大きな要因

このセッションで加納氏は「日本は仮想通貨大国と言われているが、これはレギュレーションが各国に先行してできたというところが大きい」と述べている。

加納氏の言う「レギュレーション」は、2017年4月の資金決済法改正だ。「仮想通貨法」とも呼ばれる法改正で、bitFlyerやCoincheck(コインチェック)のような仮想通貨と法定通貨を交換する取引所などに対して、「仮想通貨交換業者」として金融庁への登録が義務付けられた。同年12月26日までに16社が登録されている。

実際に、仮想通貨交換業者の登録が始まったのは同年9月末のことだ。この時期から仮想通貨の代表格とされるBitcoin(ビットコイン)の円建ての取引が増えた。一時、世界全体の取引の過半を上回ったこともあった。

佐々木清隆・金融庁総括審議官

金融庁の方針について説明する佐々木清隆総括審議官

撮影:小島寛明

加納氏の言うように、金融庁幹部も円建ての取引の活発化の背景として、日本での法整備の進展を挙げている。確かに、多くの人にとっては、実態の見えない取引所で仮想通貨を売買するより、金融庁の監督下に入る登録業者を使った方が安心だろう。

ICO、自主ルール制定の動きも

業界団体の日本ブロックチェーン協会の代表理事も務める加納氏は「ICOについて、何かしらの規制をしないといけないんじゃないかというお声を多々いただく。ICOの自主規制をもう一度考え直し、投資家保護と新しい資金調達を議論し、なんらかの自主的な規制を設けたいと思っている」と述べた。

同じ壇上の佐々木総括審議官は「我々のミッションはなにかというと、経済の成長、国民の富の増大。それにつながるような、金融市場、金融機能の育成が必要だと考えている」などと述べ、ICOについての具体的な発言は避けた。

Bitcoin Image

撮影:今村拓馬

現時点で、当局による規制なのか業界団体の自主規制のどちらが本筋なのかは、まだ見えてこない。

ICOを検討する企業側は、規制を巡るさまざまな動きに神経をとがらせる。ネット証券大手の幹部は「ICOの実施を予定していたが、金融庁の動向を見極めたいとして実施を延期した企業があるようだ」と話す。

ICOは、企業でも個人でも世界中から資金調達ができるようになった点で、意義あるイノベーションだ。

日本で過度な規制が導入されれば、規制の厳しい国をスルーして、国外でのICOの実施を選択する企業が増えるだけだ。業界団体の自主規制も、血気盛んなスタートアップ企業を完全にコントロールできるかというと、なかなか難しいものがあるだろう。

加納氏が言うように、日本に適切な規制が導入されれば、国内でのICOの活性化にとどまらず、日本のICO市場に世界中から資金が集まってくる可能性がある。

「勝手格付け」でICO市場活性化目指す

金融情報を提供するモーニングスターは2017年10月に、ICOの格付けを始めた。経営陣はどんな人たちか、プロジェクトに新規性、成長性はあるか、システムのセキュリティは担保されているかなどを調査し、格付けをする。朝倉智也社長は「いまは出せばトークンが上がる状況だが、トークンの本源的な価値を、第三者の立場で評価する勝手格付けだ」と説明する。

朝倉智也社長

ICOの勝手格付けに取り組むモーニングスターの朝倉智也社長。

撮影:小島寛明

いまのところ、格付けが完了した日本のICOはない。格付けに必要な情報を得るため、ICOを実施する企業に質問票を送るなど調査を進めているが、調査票が戻って来ないことや、戻ってきても十分な回答が得られないこともあるという。

朝倉氏は「まだまだ日本のICOは混沌としているが、充実した情報を提供することで市場のすそ野を広げていきたい」と話す。

(文・小島寛明)

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