2018年は、人の仕事がデジタルに置き換えられる元年となりそうだ。住まいから買い物、遠方に出かける旅行までもが「無人化」で実現できる社会は遠くない。
一方で、深刻な人手不足に悩む日本にとっては救世主となりえるのかもしれない。
「人類を滅ぼす」を言ったロボットのソフィア。人間は本当に淘汰されるのか。
Denis Balibouse/Reuters
人々の生活の基盤、その1つは何といっても住まいだろう。
不動産業界は長らくテクノロジーとは無縁、業界の慣習などがもっとも根強く残っている分野の一つだった。賃貸物件を探す時、相変わらずの古典的な手続き、非効率な業務に、払いたくもない手数料を払っている実感はないだろうか。
だが、そこにも無人化の波は押し寄せている。
仲介業者の「伝言ゲーム」を自動化することで、家探しは「無人」に近づく。イタンジの執行役員の野口真平さん。
撮影:木許はるみ
「仲介業者中抜きの時代が来ます」
そう話すのは、不動産テックの「イタンジ」執行役員の野口真平さんだ。
家探しの古典的な手続きを自動化する。
出典:イタンジ
「空いていますか」
現在は、仲介業者は始終、ホームページに掲載している物件の「空き確認」を管理会社に電話で問い合わせている。管理会社は、各仲介業者から電話を受ける業務で手一杯。内見予約は、業者間でファックスと電話でやりとり。入居申込書は紙ベースで。
このように「産業別で見ても、不動産業界のICTスコア(ICT化の進展スコア)はかなり低い」(野口さん)。
イタンジは、「nomad cloud」と「Cloud ChintAI」という2つのサービスで、まず仲介業者と入居希望者のやりとりを自動チャット化し、物件の空き確認の電話を自動応答化する。さらに内見予約や申し込みをネット上で可能にする。これらのサービスにより、入居までのプロセスの大部分を人の手を介さずにできるとしている。
セルフ内見の不正防止にスマートキー
nomad cloudにはすでに200社の仲介業者が登録しているが、まだ都内の10%の物件に使用されているに過ぎない。Cloud ChintAIも大半の業者に普及しているとは言い難い状況だ。
イタンジは、スマートキーボックスと内見予約を連動させるシステムを広げていく。
出典:SQUEEZEがサービスを提供する「mister suite」のホームページ
イタンジではこれらのサービスの導入企業を、2018年は現在の2倍にしたいという。年度末(2017年度)にかけての繁忙期までには、仲介業者と管理会社、保証会社に情報が共有される申し込みのシステムを始める予定だ。
野口さんは、家探しの「無人化」が実現するタイミングは、「スマートキーが普及した時が、ブレイクスルー」と話す。安易に入居希望者自身にセルフ内見を許してしまえば、鍵の情報が流出し、部屋をホテル代わりに使ったり(イタンジによると、仲介業者で実際に発生したトラブルという)、違法な物を受け渡ししたりする不適切な行為が発生してしまう可能性もある。
スマートキーを導入して、管理者がパスワードを随時変更することで、まずは不適切な行為を防ぐ第一歩になる。イタンジは2017年12月、クラウドソーシングサービスの「SQUEEZE」と連携し、スマートキーボックス「igloohome」とイタンジの内見予約を連動させるシステムを、仲介業者向けに広げていくという。
無人自動運転の公道実験も
運転手が「無人」の社会が実現する?
撮影:木許はるみ
住まいの次は、移動手段。
自動運転技術ベンチャー「ZMP」は、2020年の「無人タクシー」の実現に向け、2018年は「無人運転の開発を加速させる年」(ZMP担当者)。2017年12月には運転席に誰も乗っていない自動車を、初めて公道で走らせる実証実験を東京や愛知で行った。
2017年12月、日本科学未来館で行った実験。運転席が「無人」だ。
撮影:木許はるみ
車から数メートル離れたプレハブに、遠隔監視・操作の設備がある。
撮影:木許はるみ
2017年12月に日本科学未来館で行った実証実験では、車から数十メートル離れたプレハブで、代わりのドライバーが遠隔監視した。監視室には、左右前後の画像がディスプレイに映し出され、ハンドルもある。
自動車には、カメラ、ミリ波レーダー、赤外線レーザー、レーダー、GPSなどを搭載。天候に弱いなどの各センサーの弱点を、それぞれ補い、物を認知する。
実はこの車、初の公道実験の際は、各種メディアを騒がせたが、運転席に人が乗っている状態の実験なら、毎月のように「かなりの頻度で」(同社担当者)、お台場を走り回っている。基本的には自動運転だが、例えば、故意に人が飛び出してくるケースなど、運転手が操作する事態もあるという。
2018年は、運転席が「無人」の実証実験を、各地で目にすることができるのか? 残念ながら、担当者は具体的な実験の予定は教えてくれなかった。
現在のシステムでは、自動車1台につき、遠隔の部屋で運転免許を持った1人が監視(操作)しているが、法律や技術が整えば、ゆりかもめのように、「遠隔で、1人のオペレーターが複数台をモニターするようなシステムにしたい」(同社担当者)という。
韓国では出入国自動化のスマート空港
無人化の運転はZMPに限らない。
ソフトバンクグループの「SBドライブ」も2017年12月に、運転席のない自動運転シャトルバスの試乗会を開いた。東京23区の公道では初めてだった。報道によると、名古屋大学発のベンチャー「ティアフォー」も米半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)と業務提携し、ハンドル、アクセル、ペダルのない完全自動運転車を開発、2018年春に実証実験をするという。
移動の無人化といえば、2018年1月18日開業予定の韓国・仁川空港第2ターミナル。スマートエアポートとして、セルフチェックインや自分で荷物を預ける「セルフバックドロップ」などの設備を強化し、出入国の「無人化」を強化するという。
身近なところでは、ローソンが2018年春ごろから、深夜にレジを無人化する実験を始める。客はスマホの決済アプリを使って料金を払う。
物流や流通現場では深刻な人手不足が日本の大きな課題になりつつある。無人化は人手不足職場や長時間労働職場、そして過酷環境の働き方にとっての課題解決につながると期待されている。
2018年は実用化、実証実験、研究開発と、「無人化」というキーワードがニュースを席巻しそうだ。
(文:木許はるみ)