上司なしルールなし管理しない「ホラクラシー経営」とは?:2018急上昇ワード

ダイヤモンドメディア

役職や階級、あらゆる管理をなくすと、会社に何が起きるのか。

提供:ダイヤモンドメディア

猫も杓子もの勢いで働き方改革が叫ばれ、一斉オフィス消灯や政府主導のプレミアムフライデーと迷走気味の一面も否めなかった2017年。一律の働き方改革に疑問の声も上がっていた事態から、2018年は「管理しない経営」に注目が高まりそうだ。

その名はホラクラシー経営。近年、日本でも導入する会社が増えつつある。

上司部下の区別なし、会社は社員を管理しない、働く時間も場所も休みも自分次第——。自律と自由を追求する経営は、働き方改革に新たな扉を開くのか?

ないもの尽くしの引き算経営

「月曜、火曜はけっこう人がいるのですが、週後半にかけて(社員は)自宅にこもって行く傾向がありますね。今日は金曜日なので、人は少ないです」

東京・南青山にある、不動産テックのダイヤモンドメディアのオフィスを訪ねると、武井浩三社長はそう話しながら、職場を案内してくれた。社員数は約30人のはずなのに、オフィスに姿はまばら。ポツンポツンといる社員が静かにデスクトップ画面に向かっていた。

同社はホラクラシー経営を導入して10年。年功序列で封建的なピラミッド型の「ヒエラルキー」に対し、ホラクラシー」は肩書きや序列をなくし、意思決定を分散化させるという概念だ。

22歳で立ち上げた会社を1年で潰した経験から「本当に価値ある企業」を求めてきた武井さん。海外企業の事例からいち早くホラクラシー経営の手法を取り入れ、今ではサムスンなど海外の大企業やフランスのビジネス団体も視察に訪れるという。

武井浩三社長

海外からも視察に来るというホラクラシー経営で10年目を迎える。

撮影:滝川麻衣子

ダイヤモンドメディアでは、いつ出社してどこで何時間働くかは、すべて社員に委ねられている。なんのルールも縛りもない。

「一応、僕が社長ですが、上下関係はありません。経営方針も相談しながら決めていくので、権限は社員に等しくあります」(武井さん)

定時や役職どころではない。ダイヤモンドメディアは通常の会社にありそうなものがなく、ないものがあるのだ。


人事部も勤怠管理もなし、採用はチームごと

1.ない

  • 明文化された企業理念やビジョンがない
  • 人事部がない
  • 働く時間、場所、休みの決まりがない
  • 上司や部下といった階層がない。リーダーは自然発生
  • 決められた肩書きはない。自分が考える
  • 労働組合の概念がない。経営と労使は融合

2.ある

  • 社長、役員の選挙制
  • 全ての社員が全ての社内データにアクセス可能
  • 決済の裁量は個人判断
  • 採用は受け入れチームが自由に行う
  • 会社の財務状況は全てオープン
  • 全員の給料はパフォーマンスに対し市場で相場を見て決める
  • 社員の希望に応じて、提携企業との社員トレード制度の利用が可能

チームごとにスラックやチャットワークといったビジネスツールを駆使して、コミュニケーションは密に取る。社員全員が集まるのは、月に1回の納会のみだ。

勤怠管理などもしない。

「市場の相場に照らし合わせて成果は給与に反映されますし、会社の業績が下がれば自分たちに返ってくる。サボる社員はいないですね」(武井さん)

副業ももちろんOK。「誰が入社するかを僕が決めることもありません。この人、来週から社員です、とチームに言われたら、へえ、そうなの、と」(武井さん)

ホラクラシー経営の結果として

・組織化によるストレスが少ない

・組織へのコミットが強くパフォーマンスが高い

・人材の自浄作用が起こる

など「無理がない上に自然といい方向へ向かう」と、武井さんは説明する。

経営ビジョンを定めない代わりに「顧客に喜ばれるものを提供する」という判断を積み上げ、不動産サービスのサイト制作や管理業務のIT支援で、軒並み大手不動産管理会社・仲介会社を顧客に、売上高は2年連続で前年同期比2桁増を維持している。

結果を出さない社員の面倒はみない

ホラクラシーへの注目度の高まりは「ものすごく感じている」(武井さん)と言う。

2017年は毎月のようにメディア取材、講演依頼が数件あり、国内外から企業や団体の視察が訪れたという。民間主催のホワイト企業大賞にも選出された。ただ、世の中の働き方改革には違和感もあるという。

「ホワイト企業といえば、時短だったり福利厚生が手厚かったりと思われがちですが、ホラクラシー経営は本人が働きたければ何時間も働くこともあ りますし『この会社に合っていないかもしれないね』と正面切って言われる、 シビアな面もあります」

そこに、年功序列の予定調和や、結果を出さない社員の面倒を見続けるウェットさはない。

オフィスビルのイメージカット

予測不可能な時代、テクノロジーの進化に支えられたホラクラシー経営は一つの解になるかもしれない。

撮影:今村拓馬

ルールが会社から消える日

ホラクラシー経営は、米オンラインコマースのザッポス、Airbnbなどシリコンバレー企業が導入したことで注目されてきた。日本でも近年、じわじわ導入企業が増えている。

ウェブ制作の面白法人カヤックや、ソフトウェアサービスのソニックガーデンは、よりフラットでルールや管理のない組織づくりを掲げるホラクラシー的経営で知られる。売り上げ目標やノルマ、ホウレンソウ(報告・連絡・相談)がないことで有名な電気設備資材の未来工業も、ホラクラシー的経営だ。

カヤック人事部長の柴田史郎さんは、

「組織全体のルールをできるだけ少なくし、何かあれば各事業部ごとに勝手にルールを作っていい。一方で採用にこだわり、ブレーンストーミングは徹底するなどのカヤックらしさは持っていたい。目標達成の『確実性』と、面白そうなことがあれば反応する『順応性』の両立ができている

と、そのメリットを話す。

ダイヤモンドメディアの武井さんは2018年にホラクラシー経営が「さらに来る」と、肌身で感じているという。

「10年間、同じことをずっとやってきたのですが、以前は『へえ、ユニークだね』という反応で終わりでした。それが賛同企業も全国に増え、反応が確実に変わってきた。変化が激しく予測不能な社会には、変化に素早く対応できる流動性を持たせたホラクラシー経営が適している

2018年を境に、上司や管理、ルールの数々が、あなたの会社からも少しずつ姿を消していくかもしれない。

(文・滝川麻衣子)

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