「雇い止め・派遣切り」 リーマン氷河期世代を直撃する:2018急上昇ワード

2018年、非正規雇用者(契約社員・派遣社員・パート・アルバイトを含む)を対象とした大規模な雇い止め・派遣切りが起こるかもしれない。私たちが知っておくべきこととは?

若者

日本学生支援機構が2014年に行った調査によると、大学生の50%以上が奨学金を受給している。「借金を背負って社会に出ている」若者たちの不安は大きい。

写真:今村拓馬

タイミングは3月と9月

NPO法人・POSSEの佐藤学さん

NPO法人・POSSEの佐藤さんは「2018年に大量の雇い止めが起きれば大きな社会問題になる可能性がある」と指摘する。

写真:西山里緒

「(2008年、リーマンショック後に起こった)年越し派遣村の時に比べて、いまは若い世代の貧困率も高まっています。2018年、雇い止めが全社会的に起これば、当時以上に失業して路頭に迷われる方が出てくる可能性がある

若者の労働問題を取り扱うNPO法人・POSSEの佐藤学さんはこう語る。

なぜ今、雇い止めがクローズアップされているのか。

雇い止めとは雇用期間が決められている従業員に対し、企業側が契約を更新せずに辞めさせることだ。

例えば企業の経営が悪化した場合、最初に人員整理の矛先を向けられるのが、パートやアルバイト、契約社員などの非正規雇用の従業員。企業側が雇用の調整弁としていることが問題視されていた。

それを防ぐために、2013年4月に改正労働契約法が、2015年9月末に改正労働者派遣法が施行された。この法律は、全国で約1400万人と推計される有期雇用者(非正規雇用の中でも、雇用期間に定めのある人)の雇用の安定を目的に作られたもの。

改正労働契約法は有期雇用者の雇用契約が繰り返し更新されて通算5年を超えた場合に無期契約に転換できる権利を与えた。一方で改正労働者派遣法は、同じ派遣先で継続して働ける期間の上限を原則3年とし、それを超える派遣社員に対しては、派遣元に「雇用安定措置」(雇用を継続させるための措置、その中には「派遣先への直接雇用の依頼」も含まれる)を義務付けた。

無期転換の申し込みができる場合

無期転換の申し込みができるケース(1年契約で働いていた人の場合)。

出典:厚生労働省「労働契約法改正のポイント」

改正労働契約法の施行から5年に当たるのが2018年4月、改正労働者派遣法の施行から3年に当たるのが9月末。順次、無期契約への切り替え(無期転換)の申請が出てくることが想定されている。懸念は、無期転換を避けたい雇用主が、切り替え申請前のタイミングで大規模な雇い止めや派遣切りを行うのではないか、という点だ。

派遣労働者を対象とする労働組合・派遣ユニオンの担当者も不安の声を漏らす。

「今の時点ですでに、勤続24年、17年、5年の派遣スタッフが同じ雇用先から同時に派遣切りされる、というケースも出てきています。(無期転換申請直前の)2018年3月と(改正労働者派遣法の経過措置期間が終了になる)9月が焦点になるのではないかと思っています」

特にリーマンショック後の就職氷河期に就活しなければならなかった世代には、就活に失敗し、非正規雇用者にならざるを得なかった人も少なくない。雇い止めはこの層を直撃することにもなりかねない。

製造業は転換せず、飲食・小売は無期に転換か

実際にどのような業種が雇い止めを行う可能性があるのか。

車の製造業者

製造業などは生産調整をしやすくするために、期間従業員を雇用してきた。

写真:patarapong saraboon / Shutterstock

製造業などグローバルな競争にさらされている産業は、世界的な景気の変動に左右されやすい。生産調整をしやすくするために、半年程度の契約を繰り返す期間従業員を多用してきた。

だが、こうした期間従業員を無期転換すると生産調整がより難しくなってしまうため、雇い止めをする可能性がある、と前出の佐藤さんは指摘する。

実際にトヨタ自動車やホンダなど大手自動車メーカーは、有期雇用者が無期転換しづらくなるように法改正後に自社ルールを変更しているという報道も出ている。

逆に人手不足が深刻なサービス業、特に福祉分野や飲食・小売業などは無期転換を推進していく可能性があると、佐藤さんは語る。

例として、2017年9月にエステ業界大手・エステティックTBCと労働組合「エステ・ユニオン」の間に締結された「無期転換労働協約」を挙げた。人手不足の業界では無期転換を積極的に推進することによって雇用の安定をアピールし、他社との差別化を図ることができるというメリットがある。

派遣社員の場合でも、同じ派遣会社と継続して通算5年以上雇用契約を結んでいれば、改正労働契約法が適用され、2017年4月から派遣会社に無期転換申請ができる。

一方で「仕事を自由に選べて縛られない、という(派遣社員の)メリットが薄まってしまうという声もあるので、どれだけの人が無期転換を申請するかはまだわからない」と人材派遣会社・リクルートスタッフィングの広報は語る。

大切なのは「知って、行使すること」

大学という場所ではすでに「闘い」が始まっている。

東京大学

大学と労働組合との闘いは始まっている。

写真:今村拓馬

2013年、主要大学が無期転換防止のため、雇用期間を最長5年にする規則を定めたことを発端として、東京大学などと労働組合との団体交渉(労働組合が労働条件の改善などを求めて使用者側と交渉すること)が始まっている。

首都圏大学非常勤講師組合の委員長・松村比奈子さんは「東大が5年の雇い止めルールを撤廃する決定をしたことは大きい。他の大学にも大きな影響を及ぼすと思う」と語る。

「早稲田・東大との団体交渉を通じて支援者が増え、メディアでも取り上げられるようになったことで、交渉力が高まった。(大学以外の)他の業界でも団結して交渉ができれば、立法趣旨は雇用の安定性なのだから、その趣旨に合った結果が望めるはず」(松村さん)

法律そのものの周知も課題だ。連合が2017年4月に行った調査によると有期労働者の84.1%が「無期転換ルール」の内容を知らなかったことがわかった。

前述の佐藤さんはこう呼びかける。

「ブラック企業問題などでも、訴えれば勝てるのに、違法・不当なことに泣き寝入りしている若い世代はすごく多い。権利を知って、行使することが大切。もしできなければ(弁護士やNPOなど)支援者とつながり、それを実行できるようにしてほしい」

(文・西山里緒)

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