米の先制攻撃は?韓国への秋波の意図は?北朝鮮情勢読み解く3つの視点

北朝鮮情勢が年明け早々から一気に動き出している。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が元旦から新たな外交戦術を打ち出した。2018年は昨年に引き続き、北朝鮮に関連して波乱の1年が予想される。今後の展開を正確に予測するのは難しいが、考えられるキーポイントを示してみたい。

金正恩氏

金正恩委員長は2018年元日の「新年の辞」で韓国との関係改善に言及した。写真は北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)が発表。

KCNA/via REUTERS

(1)南北関係の改善

金正恩委員長は2018年元日の「新年の辞」で突如、韓国との「南北関係の改善」を強調。2月9日に開幕する平昌冬季五輪については「大会の成功を心から望む」と述べ、選手団の派遣をめぐって韓国と協議する考えを表明した。

北朝鮮はこれまで韓国の文在寅大統領の対話の呼び掛けにも応じず、度重なる弾道ミサイルの発射実験や核実験に踏み切ってきただけに、予想外の南北協議の呼び掛けとなった。

一部の専門家の間には、3月に予定されている米韓合同軍事演習の中止をもくろみ、北朝鮮が平昌冬季五輪に合わせて、何らかの挑発的な行動に走るのではないかとの見方さえあった。実際、北朝鮮には1994年~96年の米朝交渉時、米韓合同演習「チームスピリット」を中止させた成功経験もある。

聖火引き渡し

金正恩委員長は、平昌五輪への北朝鮮代表チームの派遣にも言及し始めた。

REUTERS/Costas Baltas

しかし、2018年は新年早々から北朝鮮が韓国に接近する形となった。北朝鮮はなぜこのタイミングで韓国との関係改善に舵を切ってきたのか。

北朝鮮はかねてから国際的な孤立を深めたり、唯一の同盟国・中国との関係が極度に悪化したりした際には「危機脱出戦略」として南北対話に向かってきた経緯がある。例えば、1983年のラングーン爆弾テロ事件で国際的に孤立した際には、事態打開のため、2年後に南北離散家族の再会を実現させた。南北対話が窮地脱出に利用されてきた(逆に北朝鮮が危機を脱すると、南北対話は中断されてきた)。

北朝鮮は2017年11月29日の新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」の発射後、10回目となる国連の制裁決議を受け、国際的に孤立を深めてきた。

一方、ティラーソン米国務長官が同年12月12日のワシントンでの講演で、米中両軍による朝鮮有事の際の具体的な危機対応策が練られていたことを示す発言をして、世界を驚かせたばかりだ。もし米軍が朝鮮有事の際に北緯38度線を越えて北朝鮮側に進入したとしても、「状況が整えば南側に撤退すると中国に確約した」と述べたのだ。

北朝鮮にしてみれば、朝鮮戦争をともに戦い、かつては「血の同盟」とも呼ばれていた中国が、北朝鮮崩壊を前提にアメリカと半島有事を議論していたことが白日の下にさらされたことは、完全な裏切り行為に等しいはずだ。

孤立を強めた北朝鮮はこれまでも、日米韓の連携を断つ「分断外交」や「くさび外交」をしばしば展開してきた。今回も、北朝鮮に融和的な文政権をターゲットに、共同歩調で北朝鮮に圧力をかけて対峙してきた3カ国の連携を分断する狙いがあるとみられる。

(2)さらなる弾道ミサイルの発射実験か

金正恩委員長は新年の辞で、アメリカ本土全域が核攻撃の射程圏内にあり、「核のボタンが私の机の上に常にある」と威嚇、核弾頭と弾道ミサイルを量産して実戦配備に拍車を掛けるよう指示した。

北朝鮮がICBMの実戦配備を初めて宣言した格好だが、筆者が東京特派員を務めるイギリスの軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」では、北朝鮮はいまだ米本土を核攻撃できるICBMの能力を示していないと判断している。

火星15

北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)が2017年11月30日に発表した、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」の発射打ち上げ。

KCNA/via REUTERS

北朝鮮はこれまで、7月の2度にわたる「火星14」と11月の「火星15」の計3回のICBMの発射実験を強行、すべて通常より高い角度で打ち上げる「ロフテッド軌道」だけで発射してきた。

ジェーンズでは、北朝鮮が米本土を狙うICBMを完成させるには、最大射程範囲(フルレンジ)で飛ばす発射実験が必要だとみている。ただ、北朝鮮が「ミニマムエナジー軌道」と呼ばれる射程距離を重視して、日本列島を越えて地平線により近い形で発射しても、北朝鮮には飛翔距離の測定や着弾の正確さ、残存性などを確かめる手段がないとみられる。

北朝鮮は、これまでの弾道ミサイル発射実験のパフォーマンスのデータを西側メディアの報道を通じて得て、評価している可能性が大きい。

仮に自らの力で、フルレンジのミサイル発射実験を評価するならば、距離計測船(レンジシップ)と呼ばれる船がミサイル着弾が予想される場所の近くで待機し、レーダーやテレメトリー信号などを使って情報を収集しないといけない。船を出すことでミサイルの飛翔経路や再突入体(RV)の最終的な着水地点なども初めて把握できることになる。

北朝鮮が11月に発射した火星15は、大気圏に再突入する際、複数に分解していた可能性が高い。専門家の間でも、北朝鮮はいまだICBMの実戦配備には欠かせない大気圏再突入技術が確立していないとみられている。

ワシントンもまだ北朝鮮のICBM能力に疑問符を付けている。

マティス国防長官は12月15日、火星15について、アメリカにとって現時点ではまだ切迫した脅威ではないとの見方を示した。北朝鮮が発射直後に米本土全域を攻撃できる火星15の発射実験に成功したと主張し、「国家核武力の完成」を宣言したにもかかわらずである。

北朝鮮としては、「米本土が核攻撃の射程圏内にある」ICBMの能力を何が何でもアメリカに認めさせる必要がある。核抑止力を高め、将来のアメリカとの平和協定締結や国交正常化実現のために2018年、さらなるICBMの発射実験を繰り返す可能性が高い。

(3)アメリカの先制攻撃はあり得ない

ワシントンにいる「ホワイトハウス番」の外国人記者仲間や複数の米シンクタンクによると、トランプ政権は現在、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を筆頭に、主にホワイトハウス発で北朝鮮攻撃の情報を意図的にメディアに流しているという。

北朝鮮は既に水爆という核兵器に加え、炭疽(たんそ)菌やペストといった生物兵器、サリンなどの化学兵器を既に保有しているとみられている。アメリカは果たして北朝鮮に先制攻撃ができるのか。

ミドルベリー国際大学院モントレー校不拡散研究所のジェフリー・ルイス所長は、トランプ大統領やマクマスター大統領補佐官らが2018年も対北朝鮮攻撃をブラフ(ハッタリ)として言い続けるが、メインシナリオとして戦争はないだろうと予測する。ルイス所長は「北朝鮮が核保有国」だとし、北の核ミサイルのelimination(排除)ではなく、limitation(制限)に向かわざるを得ないと指摘している。そして、北朝鮮に対する先制攻撃のオプションが事実上、既に閉ざされているとも述べている。

米情報機関である国防情報局(DIA)の最新分析によると、北朝鮮は2017年7月時点ですでに最大60発の核爆弾を保有するという。さらに、12月10日付のワシントン・ポスト紙の調査報道記事は、北朝鮮は天然痘や炭疽菌を使った生物兵器の開発を進めていると伝えている。「北朝鮮は、核抑止力については公然と訴えているが、化学兵器や生物兵器は常に手の内を見せないで秘密裏に開発。真の(使用)オプションの1つになっている」との専門家の見方が紹介されている。

トランプ大統領

年末年始を過ごしたフロリダ州パームビーチからワシントンに戻るトランプ大統領。トランプ氏のツイッターなどの発言に世界中が振り回される日々が続く。

REUTERS/Jonathan Ernst

西側のメディアではあまり報じられていないが、金正恩委員長は新年の辞で、「私たちは平和を愛する責任ある核強国として侵略的な敵対勢力が私たちの国家の自主権と利益を侵害しない限り、核兵器を使わない」と述べている。「核兵器が攻撃目的ではなく、自衛のための抑止力」とする北朝鮮のこれまでの主張を改めて示した格好だ。

日米のメディアの中には、ペンタゴンが北朝鮮攻撃の作戦シナリオを練ったり、準備したりしていることから、「戦争前夜」のごとく米朝開戦をあおる報道もある。しかし、作戦シナリオの作成は軍としては当たり前のことで、万が一の場合にどこを攻撃し、どの施設を破壊するかは常日頃から検討し作戦を練っていくことは大事な任務の1つで、実際に戦争を始めることは別問題だ。

しかし、日本では、カウボーイ的にアメリカに北朝鮮を攻撃してやっつけてほしいという期待があまりに大きいように思える。

いざ開戦となれば、核や生物化学兵器を使った悲惨な戦争になりかねず、この見方は日韓の被害リスクを軽視していると言わざるを得ない。

アメリカや日本をはじめとする西側諸国は、世界での核拡散ドミノを恐れ、北朝鮮を核保有国として正式には認めないものの、北朝鮮相手に悲惨な戦争を始めるより望ましいとの理由で、好むと好まざるとにかかわらず、北朝鮮の核保有を事実上容認していくことになるとみられている。

(文・高橋浩祐)

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