高速バス会社超えたウィラー、原点は「Facebookオフライン型」コミュニティ

ピンク色の高速バスで知られるウィラー(WILLER、本社:大阪市)が事業拡大のアクセルを踏み込んでいる。過去10年で売上高を5倍の約175億円まで伸ばし、市場からは株式上場を期待する声が聞こえてきた。

1994年に前身の西日本ツアーズとして創業し、高速ツアーバスの運行でビジネスを広げてきたが、「バス運営にこだわるつもりはなかった」と創業者兼最高経営責任者(CEO)の村瀬茂高(54)は言う。ウィラーが目指す数年後は、全てのトラベラー(旅行者)が行きたい場所へ簡単に安心して行ける会社だという。

ウィラー・品川オフィス

東京・品川にあるウィラーの東京オフィス。会議室には世界の冒険家や探検家の名前がついている。

提供:ウィラー

村瀬のビジネス哲学の軸は「コミュニティ作り」だ。バブル経済に湧く1980年代、名古屋の大学に通う村瀬はキャンパスの仲間たちとともにスキーツアーを考えることに没頭した。仲間は50人から100人と広がり、大掛かりなスキーツアーを企画するまでになった。

インターネット前の世界で1000人以上つないだ

「スポーツは人をつなげて友達を増やし、美味しい食事はその交流を促してくれる。この2つが多重化すると、エモーションが生まれる。そして、そこにはコミュニティが生まれて、仲間同士がより良い企画を考えて、実行していくようになる」と村瀬。

「マーク・ザッカーバーグがハーバード大学の仲間とFacebookを作ったことを2000年代に知ることになるけど、僕が当時やっていたのはオフラインのFacebookに似ているのかな。規模の比較はさておき」と笑う。

村瀬茂高氏

インタビューは探検家「James Cook」の名前がついたミーティングルームで行われた。

Business Insider Japan

村瀬は大学キャンパス内のネットワークを校外にも広げ、名古屋市内や大阪、東京の大学生たちをもつなげた。その数は1000人以上に膨れ上がったという。もちろん、コニュニケーションのツールは固定電話がメインだった。

同じ大学に通う仲間同士でツアー企画を作り、それを校外の仲間たちに電話やファクスでつないでいく。インターネットのない時代だ。

村瀬は1994年、30歳で前身の西日本ツアーズを創業すると、年間で約12億円を売り上げた。大学時代に培った企画力とコミュニティ作りがビジネスに生きた。

インターネットが日本に広く普及したのは、村瀬が35歳の時。それから5年後の2004年、ザッカーバーグはFacebookを設立してユーザーを地球規模で増やしていくが、村瀬は40歳の誕生日に、影響力に乏しく、存在価値のない自分の会社に絶望視する。

インターネットのある世界で絶望した40歳

「収益のことばかりを考えていました。世の中に価値をつくることを忘れがちになっていたんですね」と当時を振り返る。

「インターネットが普及し、僕たちの第2創業期が始まりました。一方で、日本には『地方疲弊』という言葉が広がってきたのです」

ウィラーのバス車両

ピンクのWILLER EXPRESS高速バス。

提供:ウィラー

2006年、村瀬は社名を西日本ツアーズからウィラートラベル(WILLER TRAVEL)に変え(2017年に持株会社ウィラーに統合)、高速ツアーバス「WILLER EXPRESS」の運行を開始する。日本全国へ路線を広げる一方、高速ツアーバスと宿泊施設のセット商品の販売も強化した。

ウィラーが過去10年で最重要視してきたことは、現在では450万人までに増加したWILLER会員の声を聞くことだと、村瀬は話す。

「ライバル企業を見ることも大切だけれど、僕たちは顧客を見ることを一番大切にしているんです。ウィラーと顧客、そして取引企業を含めて“WILLERS(ウィラーズ)”だと考えてます。このコミュニティーで進めていくことが、僕たちのやり方ですから」

ウィラーは、20代の女性利用客の利用が伸び悩むと、その理由を女性客から聞き出し、解決策を見い出した。ゆったりとした女性向けのシートを導入したり、家族向けのバスを新たに開発することで、顧客を増やしていった。安全な交通インフラを整備する上での高速バス事業にとどまらず、顧客の要望に応えた人の移動サービスを行うことがウィラーの存在価値だと、村瀬氏は強調する。

レストランバスが地方都市を走る

客の声を足がかりに2016年に始めたサービスに「レストランバス」がある。村瀬が40歳のころから気にかけてきた地方都市の魅力を伝えるため、「絶景を楽しみながら地方の旬な食材を味わう」ことをコンセプトにおいた。

沖縄を走るレストランバス

沖縄を走るウィラーのレストランバス。

提供:ウィラー

2階建てバスを改良して、1階部分にはキッチンを取り付け、2階には対面で座れるシートが並ぶ。レストランバスが走る先々で採れる旬の野菜や食材を使ってシェフが調理し、客は2階で舌鼓を打ちながら、絶景を楽しむ。

「人は前向きに座ってバスに乗れば寝てしまうし、向かい合えば会話が始まりますよね。食は会話の潤滑油になります」とレストランバスを語る村瀬の顔は楽しげだ。

京都で走るレストランバスは、古都の歴史ある建造物を回りながら、5種類のコースを朝食、昼食、おやつ、夕食の時間に合わせてそれぞれ違った「京の食」を期間限定で提供する。外国人旅行者用に、 通過する観光地のアナウンスを13カ国語から選んで聞くことができる デバイスも用意した。

アジアで“WILLERS”を広げる

WILLERビークル

WILLERビークルは、オンラインでコンシェルジュと会話をしながらトラベラーを移動してくれる。

提供:ウィラー

2018年、ウィラーはアジア展開を加速させる。台湾最大手の高速バス会社の国光汽車客運と2017年12月に提携に向け合意し、台湾を訪れる旅行者をターゲットにしたサービスを始める。ウィラーは「WILLERビークル」と呼ぶ移動サービスを台湾で展開していく。特別に開発したWILLERビークルは運転手がつき、多言語に対応するコンシェルジュとオンラインで会話をしながら、旅に出かける移動サービスだ。

村瀬は2018年1月、ベトナムでも新たなパートナー企業と提携を結んだ。ホーチミンで同国最大手のタクシー会社、マイリングループ(Mai Linh Group)とウィラーは共同で移動サービスを始める。マイリングループが持つタクシーやバイクタクシー、バス、レンタカーなどの輸送力を活用して、2社は今夏からホーチミンやハノイ、旅行者が集まるダナンでサービスを開始する予定だ。

ウィラーは今後3年で、東南アジアの数カ国でローカルのパートナー企業と連携して、移動ソリューションを域内で拡大していく方針だ。

「次の10年、高速バスで言えば、空いている在庫を効率的に再配分することが重要になってくると思います。パートナー企業を集めて、多くの国々で同じ移動サービスを提供できるようにしていきたい」と言う。

ウィラーの株式上場の可能性について尋ねると、村瀬は「今までの移動という概念を変えるために、新たな移動ソリューションをアジア域内で進めていく上で、キャッシュは必要になるだろう。上場することが目的ではなく、必要があれば僕たちの結果に対する評価をしてもらえる時が来るかもしれない」と語った。(敬称略)

(文・佐藤茂)

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