暴露本反論ツイートで取り沙汰されるトランプ大統領の精神状態

トランプ米大統領は1月6日、これまでで最も奇妙で、喜劇的で、「墓穴を掘る」ツイートを発信した。

「実は、これまでの人生を通して、私が持つ2つの最上の資質は、精神的な安定性と、まあ言ってみれば、とても頭がいいということだ」

「誰もが知っているように、根性がひねくれたヒラリー・クリントンも、同じことをしようとかなり頑張ったが、大失敗した。私は、“すごく”成功したビジネスマンからテレビの大スターになり、そして大統領になった(しかも初の出馬で)。これは、頭がいいだけでなく、天才だ。それも、非常に安定した天才だ!」(同)

この喜劇的なツイートを引き出したのが、1月5日発売されたジャーナリスト、マイケル・ウォルフの著作『炎と怒り:トランプのホワイトハウスの内幕(Fire and Fury - Inside the Trump White House)』という暴露本だ。

トランプ暴露本

予約が殺到したため発売を前倒したトランプ氏に対する“暴露本”。

REUTERS/Carlos Barria

この暴露本の内容に加え、暴露本に反論するために発したトランプ氏の上記ツイートがきっかけで、アメリカ国内では彼の精神状態に対する懸念がこれまで以上に高まっている。

過去の報道で、トランプ氏が本を読む習慣がないことは知られており、暴露本を読んでいないことは明らかだ。国家首脳が理由もなく、自分の能力を世界にTwitterで保証する必要はないし、選挙で敗北したクリントン元民主党大統領候補と比べる必要ももはやない。

マードック氏も「バカタレが!」

騒動の始まりは、新年明けの2日。著者ウォルフ本人が米誌ニューヨーク・マガジンに書いた抜粋記事「ドナルド・トランプは、大統領になりたくなかった」だ。主要メディアはこの抜粋記事によって本の概要が公表されると、暴露本の内容一色になった。トランプ氏の学習能力や集中力がかなり低いこと、政策の理解能力が疑われること、そのためにホワイトハウス内が大混乱に陥っていること、トランプ氏の強力な支援者であるメディア王、ルパート・マードック氏でさえ「バカタレが!」と陰で言ったことなどが、書かれていたからだ。

同書のアマゾンの販売予約は、いきなりトップになり、出版社は、発売日を1月9日から5日に繰り上げた。店頭販売もオンライン販売もあっという間に売り切れとなり、入荷は少なくとも2週間先となっている。

同書が暴いた主な内容は、以下のとおり。

  • ポピュリズムの論客で、元大統領首席戦略官スティーブ・バノン氏(極右系サイト「ブライトバート・ニュース」現会長)が、トランプ氏の長男、ドナルド・トランプ・ジュニア氏などがヒラリー・クリントン氏に不利な情報を発信しようと、ロシア人弁護士らとトランプ・タワーで面会したことについて、「売国的」と発言した。(注:バノン氏は8日、これを否定し、批判したのはジュニアではなく、同席していた選対本部責任者、ポール・マナフォート被告=本件とは別件の資金洗浄罪で起訴済み=を指したのだと訂正)
  • ファーストレディのメラニア夫人は、2016年大統領選挙の投開票日、トランプ氏の当選が分かると困惑し、ニューヨークのセレブ生活を捨てたくなくて、泣いていた。
  • トランプ氏は2017年1月の自分の就任式を楽しまなかった。一流スターがこぞって欠席したほか、メラニア夫人は泣き出さんばかりだった。
  • トランプ氏の友人によると、トランプ氏は知人の妻とのセックスを「生きる価値」と吹聴していた。お目当の知人の妻に、知人との会話を盗聴させて楽しんでいた。
  • トランプ氏の長女イバンカさんと夫のジャレッド・クシュナー氏は、将来可能性があれば、イバンカさんが大統領選に出馬し、初の女性大統領になると合意した。これに対し、夫婦と対立するバノン氏は「とんでもない、本当か」と言った。
  • トランプ氏は夕食時間帯の後、ホワイトハウスの寝室に閉じこもり、3台のテレビでケーブルニュースの録画を視聴し、友人に電話をかけまくり、チーズバーガーを食べている。歯ブラシや食事に毒を盛られることを恐れており、マクドナルドを好む理由だ。

ピンボールのように撃ちまくっているだけ

このほか、著者ウォルフ氏は1月5日、NBCニュースに出演し、「ホワイトハウスのスタッフはトランプを子どものように扱っている」と話した。

「誰もが話し、共通して持っているトランプ像は、子どもみたいだということ。彼らが言っているのは、トランプが刹那的な満足感を必要とするということだ。それが彼の全てだ。この男はものを読まず、人の話も聞かない。彼はピンボールのように、ただめっぽうに撃ちまくっているだけだ」

6日に放送された英BBCラジオのインタビューでウォルフ氏は、著書は「大統領の任期を……ゆくゆくは終わらせるであろう見識と理解」を示していると話した。

トランプ氏の喜劇的ツイートは、この直後だ。



ツイートをきっかけに、トランプ氏が果たして大統領として、正常な精神状態を保っているのかが、メディアを中心に問題になった。

ABCテレビに出演した共和党の重鎮、リンジー・グレアム上院議員でさえ、あきれ顔でこう言った。

「(トランプが)自分のことを天才だと自分で言わなかったら、他人は、彼のことをそうは言わないだろう」(番組ホストは大笑い)

「あいつについては、何を言っても大丈夫だ。(過去に)私は、彼が排外主義者で、人種をネタに攻撃を繰り返す、宗教に偏見を持つ人物だと言った。もういい尽くして、ネタ切れだ」

さらに、ロシア疑惑について捜査の指揮をとっているロバート・モラー特別検察官について、「大切な時期にふさわしい人物だ」と、支持する考えを示した。

合衆国憲法修正25条を行使するか

トランプ大統領

トランプ大統領は“暴露本”に対して反論をツイート。自らを“精神が安定している天才”と言ってのけた。

REUTERS/Jonathan Ernst

トランプ氏の精神状態が問題化し、取りざたされているのが、合衆国憲法の修正25条だ。米メディアによると「大統領としての責務と任務が果たせない」と判断され、副大統領と閣僚の多数がそれに同意した場合、上下院への通知を経て、大統領を罷免し、副大統領が大統領に昇格できる。大統領選に勝利するためにロシア政府と共謀したということで、弾劾裁判で有罪に持ち込むよりも、手続き的には容易にみえる。

しかし、実際には、税制改革を成し遂げるなどの成果が上がり始めている中で、ペンス副大統領と閣僚が修正25条を行使しようとする可能性は低いとみられる。

一方、ウォルフ氏の暴露本は、ベストセラーになったものの、トランプ氏とホワイトハウスは内容を否定している。発売後の週末は、珍しく政府関係者がテレビに出演し、火消しに躍起になった。

これに対し、ウォルフ氏は、ホワイトハウス近くのホテルに連泊し、ホワイトハウス内の執務棟に常駐して、バノン氏を含めた高官やスタッフに200回以上のインタビューを行い、録音やメモもあると主張している。

(文・津山恵子)

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