「人生で一番大事なのは仕事ではない」フェイスブックジャパン執行役員の仕事観

内閣官房や外資系企業を経て、現在フェイスブック ジャパンで執行役員公共政策部長を務める山口琢也さん。Facebookのサービスが日本に合う形で浸透するよう、国会議員など政策立案者とも連携を図る、まさに「国を動かし、社会を変える仕事」で活躍されています。

そんな山口さんから聞かれたのは「人生で一番大切なことは仕事ではない。仕事と自己実現を明確に分けられるからこそ国や世界を動かす仕事ができる」という意外な仕事観でした。その真意を伺い、仕事やキャリアを通じて社会にインパクトをもたらす秘訣を探ります。

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Facebookと日本の「神経をつなぐ」仕事

ー「フェイスブック ジャパンの公共政策部長」とはどのような役割なのでしょうか。

公共政策・・・いわゆる「パブリックポリシー」は日本ではあまり馴染みがないかもしれませんね。大きく3つの役割があります。

1つめは、Facebookが日本でも自由にイノベーションを実現していくため、国会議員など政策立案者と世界のテクノロジーやそれを支える法整備状況について密に情報交換しています。

2つめは、Facebookの「コミュニティ作りを応援し、人と人がより身近になる世界を実現する」というミッションに基づいた日本のさまざまな社会的課題への貢献。

3つめは、日本経済への貢献。日本では大企業の存在感が大きい一方で、実際は企業の99.7%が中小企業。中小企業、スタートアップ、女性起業家のビジネス支援に取り組んでいます。

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安倍首相とザッカーバーグCEO、Facebookのアメリカ本社にて(ザッカーバーグCEOのFacebookより)

2015年4月には安倍首相がシリコンバレーを訪問されましたが、Facebookのアメリカ本社に来られた際には私も同行しました。

当時私は入社したばかりでしたが、ザック(マーク・ザッカーバーグCEO)がガラス張りの会議室で社員と話していて、本当にオープンな社風なんだなと感動したのを覚えています。

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Facebookの災害時の安否確認システム

例えば、災害時の安否確認システムは、日本の東日本大震災のときに学んだ教訓を生かし、日本が主導してプロトタイプが作成され、それをグローバルに展開した機能です。良いものは世界中から取り入れて展開する、スピード感と風通しの良さを感じられるエピソードです。

しかし、Facebookがどんなにすばらしいサービスを発明したとしても、それが日本でも浸透するには日本の法律に沿っているだけでなく、文化的にも国民に受け入れられる形でインプリ(実装)していかなくてはなりません。

私の担当する公共政策とは、そのために政府や国会議員、国家公務員、市民、産業界と細やかなコミュニケーションを行い、よりイノベーションを加速させていくーー「神経をつなぐ」ような仕事なんだと思います。

内閣官房で知った「国を動かす」ということの意味

ーまさに国や社会を動かすお仕事ですが、今に至るまでのキャリアパスは自覚的に選び取ってこられたのでしょうか。

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新卒でソニーに入社し国内外人事・採用などを担当したのち、2003年から2年間、出向という形で内閣官房でIT国家戦略立案に従事。その後は一貫して、外資系企業で公共政策や政府渉外を担当してきました。

山口さんは2003年より内閣官房情報通信技術(IT)担当室にてIT国家戦略立案に携わり、2005年より日本マイクロソフト、シスコシステムズ、Googleにて公共政策・政府渉外部長を歴任。2015年3月より現職

しかし、人事から公共政策に大きく方向転換した最初のきっかけは「たまたま」でした。ソニー時代のある部長から「あなたにぴったりな仕事がある」と紹介されたのが、内閣官房の情報通信技術(IT)担当室だったんです。

当時、ソニーの出井(伸之 元)社長が国家IT戦略本部のメンバーだったということもあり、非常勤国家公務員という立場で内閣官房IT担当室に出向。会社から切り離され、国家戦略だけに没頭した2年間でした。

ー民間企業の人事戦略から「国家」戦略へとお仕事が変わったのですね。

はい。当時の内閣総理大臣は小泉純一郎さん。毎月官邸で開かれる戦略会議でお会いしていました。一企業の目線から一気に「日本はどうあるべきか」「世界に対する日本のアドバンテージは何か」と毎日考えることになり、それが楽しくて仕方ありませんでした。

しかも当時はかつて世界のパソコン市場をリードしていた日本のメーカーが「WindowsOS」という黒船の襲来によって、差別化の難しい「デバイスメーカー」にならざるをえなくなり始めた時期。

「ITの力で日本をより良くしていく」ため真剣に考え、議論し、実行に移していく仕事の重大さに感銘を受けていました。

ー国を動かす仕事に醍醐味を感じる反面、難しさもあったのでは?

大いにありましたね。「IT戦略本部」と言っても当時は紙だらけの世界で、資料に書かれた一言一句を変えるのにも膨大な時間と労力がかかる。

「が」なのか「も」なのか、図表の矢印の太さや向きで意味合いが異なる霞ヶ関の世界。民間企業にいると時間の無駄と思ってしまうことも多いのですが、そこにどんな意味があるかを理解し、その言葉で話せることが「国を動かす」第一歩ということ。「霞ヶ関文学」などと揶揄されますけど、政策の裏側にある思いが、世代を超えて伝わる、理解してもらえる方法を考えることに意味があるんです。

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その後は、マイクロソフト、シスコシステムズ、Google・・・と、インターネットの発展と連動して、OSからソフトウェア、Webサイトへとレイヤーが変わりました。

しかしどの職場においても、内閣官房で学んだ国を動かすために必要な論理が役立っていると常々感じてきました。それはもちろん、今のFacebookでも。

「仕事が一番ではない」国を動かす、意外な仕事観

ー山口さんのように国を動かし、社会を変える仕事がしたい読者にアドバイスを。

今、目の前の仕事に専念することも重要ですが、そんな自分を俯瞰して、遠くから見てみること。

国単位、世界単位、時には宇宙単位で引いて見て、あるいは現在、過去、未来と時間軸を変えて見てみたとき、自分のやっている仕事にどんな意味があるのか、考えてみるといいでしょう。

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そのときポイントになるのが、仕事と自分、自分と会社を分離して客観的に捉えること。いわば「人生において一番大切なことは仕事ではない」と自覚すること、少し意外に思われるかもしれませんが。

実は私は「仕事だけで自己実現しよう」とは考えていないんです。自分のやりたいことは仕事の他にもあって、例えば2つの市民オーケストラで指揮者としての活動も大事にしています。

仕事を中心に据えて束縛される人生ではないからこそ「自分の今の仕事は、果たして人生の時間の一部を使ってでも本当にやる価値があるものなのか?」と切り離して考えられる。

そのためには、仕事や会社を離れたところで「自分は何ができるだろう」と、いつも考えておくことです。

私の場合は、内閣官房で経験させてもらえた「国のために何ができるか」という視点を常に持ちつつ、仕事の成功と日本の発展が連続していて、自分のやっている仕事が国のためになると信じられるものを選びたいと思っています。

常にそうした選択肢を持っておくためには、アンテナを高く張って新しい情報をつかまえておかなくてはなりません。そう考えれば、自ずと行動も変わっていくはずではないでしょうか。

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"未来を変える"プロジェクトから転載(2017年12月15日公開の記事)

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之


山口琢也(やまぐち・たくや):フェイスブック ジャパン 執行役員 公共政策部長。大阪府生まれ。大阪外国語大学卒業後ソニー株式会社ドイツ現地法人であるソニーヨーロッパGmbHにて人事・採用を担当。2003年より内閣官房情報通信技術(IT)担当室にてIT国家戦略立案に携わり、2005年より日本マイクロソフト、シスコシステムズ、Googleにて公共政策・政府渉外部長を歴任。2015年3月より現職。

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