テスラ、大きな賭けの裏で「守り」忘れず。中国市場を視野に入れ、テンセントと提携

未来に生きるイーロン・マスク氏

Tesla

テスラCEO、イーロン・マスク(Elon Musk)氏は、生き残り戦術を常に用意するサバイバリストだ。 テスラに加え、商業宇宙飛行を目指すスペースXを率い、火星を植民化して世界を救おうと考える大富豪だが、起業家であることの際どさを彼が忘れたことは決してない。

今のテスラは時価総額470億ドル(約5兆2000万円)を誇る絶好調企業だが、2008年には破産寸前に陥り、土壇場の資金調達でかろうじて連邦破産法11条の適用を逃れた。その後、マスク氏はダイムラーとトヨタの出資を受け、両社にテスラ製パワートレインを供給した。 テスラは大衆向けセダン「モデル3」の発売で、再び大きな財政的リスクを負って挑戦しようとしている。1台3万5000ドル(約390万円)のモデル3を大量生産し、市場へ送り出すプロジェクトのために、マスク氏たちはテスラのキャッシュのほぼ全額にあたる約25億ドル(約2800億円)を投入しようとしている。 この大きな支出のためにテスラは3月、10億ドル以上を調達した。同時にダイムラーやトヨタと提携したときのような戦略的判断もみられた。 中国のインターネットサービス大手テンセント・ホールディングスは3月29日、約18億ドルを投じて、テスラ株5%を取得したと発表した。テンセントの運用はパッシブなものとなるだろうが、英BBCの報道によると、マスク氏はテンセントに対し、中国への事業拡大について助言も期待しているという。中国の年間自動車販売台数は2000万台を上回っており、テスラにとって、中国は有望な巨大市場だ。

マスク氏は自らが進みたいように気まぐれに物事に手をつけるように見えるときがある。最近もロサンゼルスの交通渋滞の解決策として突然、地下トンネル掘削会社を立ち上げた。だが、深い洞察力で将来を見通し、自らが目にした物事に基づいてテスラのための戦略を考え出すのもまた彼なのだ。


電気自動車市場広がる中国

テスラの新たな株主、テンセント

テスラの新たな株主、テンセント

Thomson Reuters

電気自動車(EV)事業はこれまでのところ期待外れに終わっている。全世界の自動車販売台数のうちEVが占めるのはわずか1%前後。そして自動車メーカーの中で唯一、長距離走行可能な電気自動車製造を主軸としているのが、テスラだ。電気自動車に真の大衆市場が生まれるかどうか、モデル3は大きな試金石となるだろう。

しかしマスク氏はそこで賭けに出ようとはしない。米国内でのテスラの売り上げは、2020年までに100万台に到達するかどうかで、市場シェアでいえば5%を多少上回る程度だ(それでも現在のフォルクスワーゲンとアウディを合わせた業績は上回る)。しかも米国市場が、すでに規模で大きく追い越されてしまった中国市場に並ぶことはないだろう。その上、米国の経済成長も見込めない。 従ってマスク氏は市場成長余地がある中国に軸を置くという結論に至っている。中国ならば、電気自動車に対する政府の多大な後押しも期待でき、テスラがガソリン車に勝利する可能性を見出すことができる。

しかし、マスク氏の手元には切り札となるようなカードがそれほどない。創業からまだ10年余りのテスラは、他の自動車メーカーのように中国本土で組み立てを行うような現地企業との合弁事業も確立していない。


テスラの最も強力な資産

テスラのショールーム、中国

テスラのショールーム(中国、杭州)

August_0802/shutterstock

マスク氏のよりどころは、現在テスラが保有している強力な資産、つまり会社そのものとその株式だ。

テスラの株式は2007年初めから上昇し、時に1株300ドルをうかがうこともある(現在は約280ドルで取引されている)。

多くの投資家にとってテスラ株は安く見えないだろうが、将来的に電気自動車の大成功を見込むとすれば今、テスラ株を大量に買っておくことには意味があるだろう。 またテスラには財政的に支援する熱烈な投資家やアドバイザーがいる。さらにテンセントは20億ドル近い出資を無駄にするつもりはないだろうから、株を買い増す可能性の方が高い。 これまでにテスラ株を取得した企業のその後の動きも注目に値する。ダイムラーとトヨタはともに新規株式公開(IPO)以前にテスラ株を取得し、20ドル以下だった公開価格を大きく上回ったところで売却した。

マスク氏はサバイバリストであり、天才的な戦略家だ。こうした局面で時間を無駄にすることがない。資金調達によってどんなマイナス要因が生じようが、転換社債を発行することになろうが、また、株式保有に大きな変化が起ころうが、全て彼にとっては小さなことでしかない。 マスク氏にとって唯一重要なことは、テスラが新たな道筋を開拓し、ポスト化石燃料時代のリーディング企業として存在を確立することだけだ。

2017年がマスク氏とテスラにとってビッグイヤーになることは分かっていたが、テンセントの出資によっていっそう弾みがつくだろう。


無私無欲のサバイバリスト

火星への進出も狙うマスク氏

火星への進出も狙うマスク氏

Reuters

テスラ株を大量に買うことは、いつでも誰でも望めばできる。

だが、その出資者がアジアの主要企業であることの長期的価値を、見過ごしてはならない。 テンセントの動向によって得をするのがテスラよりもテンセントだとしても、マスク氏はいっこうに気にかけない。重要なのは、マスク氏自身以外にテスラの固定株を保有する株主が現われたことであり、大きな機関投資家が付いたということだ。

今年、マスク氏が用意しているのはこれだけではないだろう。

経営基盤について言えば、テスラは依然、十分強固とはいえない。利益性は低く、それほど多くの車両は製造していない(現段階では)。

米太陽光発電装置大手 SolarCityの買収はバランスシートに数十億ドルの負債を加えた。 資金調達を行い、大口投資家を新規獲得したところで、財政的に多少守りを固めるときが来たことをマスク氏は認識している。 だが、マスク氏の守りについて覚えておくべき重要なことは、それが守りのための守備ではなく、攻撃の一部だという点だ。コントロールできない力によってテスラの未来が決められてしまわないうちに、自らの手でテスラの未来を定めようとする攻めの布石なのだ。

source:BBC

[原文:Elon Musk just made his smartest strategic move ever for Tesla

(翻訳:Tomoko.A)

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