オフィスや自宅で仕事をしていても、集中できず、思ったように仕事が捗らないと感じることはあるでしょう。そこで今回は、あなたの集中力を科学的なデータにもとづいて高める「8つのアイデア」を紹介します。
紹介してくださるのは、東京都千代田区にある “世界一集中できる” ワークプレイス「Think Lab」の仕掛け人で、脳科学や異分野の専門家と「人の集中力」の研究に取り組むアイウエアブランド・ジンズの井上一鷹さんです。
アイデア1:集中に必要な「最初の23分間」を確保する
誰にも話しかけられない時間・空間を確保
人が集中状態に入るまでには「23分」かかると言われています。その間に人に話しかけられたりすると、集中が途切れ、少なくともまた23分間待たなければいけません。
それを防ぐために「Wi-Fiを切ること」「他の人に『今邪魔したらまずい』と伝えること」が有効です。デスクに「今、集中しています」と書いたプレートを置くのもいいでしょう。
あるいは、チームで「この時間帯はお互いに一切干渉しない」という時間を設けるのが、最も取っつきやすい方法です。逆に「話しかけていい時間帯」の会話が活発になる効果も期待できます。
アイデア2:植物を置いて「緑視率」を10〜15%に調整する
緑視率を集中に最適な10〜15%に調節
人の視野角(見える範囲の角度)は120度。そこに占める緑の比率のことを「緑視率」と言いますが、それが10〜15%だと集中するのにほどよいストレスが保たれると言われています。
作業スペースに植物を置いている人もいると思いますが、緑は多ければ多いほどいい、というわけでは実はないのです。人はジャングルに行くとストレスを感じてしまうように。
パソコンのモニターが視野角の20〜30%を占めますので、その横などに小さい観葉植物を置くといいでしょう。
アイデア3:夕方と夜に浴びる「照明の光の色」を変える
時間帯に合った太陽と同じような光を浴びる
オフィスの照明の光の色は日中も夜も同じですが、実はそれが人の体内時計を狂わせています。夜も日中と同じ色味の光を浴びていると、からだが休まらず、次の日の集中に支障をきたしてしまうのです。
理想は、時間帯に合わせて太陽と同じような強弱、色合いの光を浴びること。そうすると、夜寝るときにメラトニンという睡眠導入ホルモンで正常に分泌され、きちんと眠れます。
かといって、天井の照明を変えるのは面倒。ならば、特に夕方以降はパソコンのモニターをブルーライトカットモードにしたり、寝室の照明を暖色系に変えたりするだけでも効果がありますよ。
アイデア4:ハイレゾ音源で「自然の音」を感じる
集中に最適な音は人が肌で感じるハイレゾ音
実はパワースポットなどの人間の可聴域を超えたハイレゾ音が人間には心地よく、集中には最適だと言われています。ただ、それを用意するのは一般の方には難しいため、市販されているBGMを流すのでもよいでしょう。
朝なら小鳥のさえずりを頭上のほうで鳴らしたり、昼なら川のせせらぎの音を足元で鳴らしたりして、あるべきときに、あるべき音が、あるべき場所から聞こえるようにするとリラックスし集中が促されます。小鳥のさえずりを夕方に聞くと、からだがおかしくなることもあるんです。
アイデア5:「間食とお酒」の種類を変える
GI値など成分を踏まえた間食・飲み物選び
人は、血糖値が急上昇、急降下すると、気だるさを感じるなど集中できなくなります。間食ではグラノーラバーなど「GI値が低い食べ物」を摂って、血糖値を安定させましょう。
また、集中にはほどよい緊張とリラックスの両方が必要です。緊張しすぎているときは、飲み物などで「テアニン」を、リラックスしすぎているときは「カフェイン」を入れて、気分を調整します。
さらに、アルコールは眠る「4時間前」までに飲み終わらないと眠りが浅くなると言われます。23時に寝るのなら、19時までに飲み終わりましょう。オフィスにビールを置いて飲んでしまうのも手です。
アイデア6:「アクティブレスト」でからだを回復させる
集中できていないと感じたら「運動と睡眠」
自分が集中できていないと感じたら、仕事中であってもアクティブ(積極的)にレスト(休息)を取りましょう。その休息中にすべきが「運動」と「睡眠」です。
人は、心拍数が一度上がると集中力が高まると言います。ジムが近くにあれば走ったり、オフィスや自宅でも筋トレをしたりしてストレスを発散させましょう。
もしくは、仕事を中断して仮眠を取ってしまったほうがリラックスして、そのあとの作業が捗るかもしれません。一番良くないのは、モヤモヤしながらもなんとなく仕事を続けてしまうことです。
アイデア7:そのときの思考モードに合った「椅子」を選ぶ
思考モードに合わせて椅子を使い分け
人は、下を向くと収束思考に、上を向くと発散思考にモードが切り替わると言われています。そのときの「思考モードに合った姿勢」というものが、実はあるのです。
収束思考で資料のロジカルチェックなどするときは姿勢が自然と前に傾く座面の椅子を、発散思考でアイデア創出などをするときは後ろにもたれ掛かりやすい椅子を選ぶとよいでしょう。
ちなみに、オフィスにある椅子の多くは欧米人体型に合わせて作られており、中には日本人が長時間座り続けると腰を痛めやすいものもあります。自分の骨格にあった椅子を選びましょう。
アイデア8:「温度・湿度・騒音・CO2濃度」を可視化する
IoTデバイスで「環境」を可視化し、最適化
部屋の中が暑かったり、窓がない会議室に大人数でいると酸素が薄くなったりして、頭がぼうっとしてしまうことはあるでしょう。
人によって、集中しやすい温度、湿度、騒音の程度というものがあり、またCO2濃度は低ければ低いほど集中しやすいのです。
最近はそうした室内の空気の質や音の程度を、IoTを駆使して可視化するデバイスが登場しています。それらを活用した窓を開け閉めするなど、調整することができます。
時代の揺り戻しで「一人で集中すること」の重要性がこれから高まる
はっきり言って、多くのオフィスは今、そこにいる人同士のコミュニケーションを活性化させることばかりを優先し、そこにいる人たちが集中したり、深く思考したりするのを邪魔するつくりになっています。
ほぼ日の糸井(重里)さんも「自分の時間を持っていない人は信用しない」とおっしゃっているように、単に人とコミュニケーションばかりをしていると、いろんな意見にさらされ、”漂っている” だけの人になりがち。そのような人が、何か新しいことを発想するのは難しいでしょう。
活発にコミュニケーションすることを否定するわけではありません。コミュニケーションの質には2種類あり、一つは「能動的」、もう一つは「受動的」。得たい知識を得るために、成し遂げたいことを成し遂げるために行うのは、前者のコミュニケーションで、それはすばらしいことです。
しかし後者、つまり受動的なコミュニケーションばかりをしているのは、ネット “サーフィン” と言われるように、波を選ばず、単に情報の海に漂っているだけ。それでは、情報をキャッチするアンテナは低くなり、得られる知識も少なくなってしまうでしょう。
人とのコミュニケーションを活性化させると同時に、それを通じて自分は何を得たいのか、何を成し遂げたいのか、考え、決めるための「集中する時間と場所を持つこと」が、これからの時代にビジネスパーソンにとってますます重要になっていくと思います。
アイウエアブランド・ジンズ 井上一鷹さん
[取材・文] 岡徳之 [撮影協力] 株式会社ジンズ運営「Think Lab」
"未来を変える"プロジェクトから転載(2017年12月7日公開の記事)