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高いパフォーマンスを出し続けるには、モチベーションは大事。これまで言われてきたのは内的モチベーション(自分の喜びや楽しみが動機となる)と、外的モチベーション(儲けたい、昇進したいという気持ちが動機となる)では、長い目で見ると内的モチベーションのほうが成果につながると言われてきた。
果たしてそうなのか? 予防医療学者の石川善樹氏と日本ラグビーフットボール協会の中竹竜二氏が、成果を出し続けるための組織作りと、個々人のモチベーションの保ち方に語る。
(この記事は、ICCが公開しているカンファレンスレポートの一部をBI Japan編集部が独自に再編集したものです)
ICCカンファレンス FUKUNOKA 2017「最高の成果を生み出すチーム作りの方法論を徹底議論 Supported by Motivation Cloud」より
スピーカー:
石川善樹 株式会社Campus For H 共同創業者
川邊健太郎 ヤフー株式会社 副社長執行役員COO *当時
中竹竜二 (公財)日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター/TEAM BOX 代表取締役
安渕聖司 SMFL代表取締役兼CEO *当時
モデレーター:岡島悦子 プロノバ代表取締役社長
中竹 面白いのが、最近コーチの研究が流行っているということです。
オリンピックにしろ、ワールドカップにしろ、今までは選手、つまりどんなアスリートが活躍するかといった話が多かったのですが、最近ではコーチの研究が流行っているのです。
勝利を強調しないコーチがオリンピックで勝てる
中竹 オリンピックのコーチ、特にオリンピックでメダルを獲ったコーチのプロファイルなどが出てきて、9つあるのですが、最初に出てくるのが、勝利を目指さない、要するに勝利を強調しないということなのです。
数字ばかり言っているコーチは、そこそこ良いのです。
そもそもオリンピックに出るくらいですから良いのですけれども、最後に勝てないというのはあって、やはり勝利を強調するのではなくて、先ほど申し上げたビジョンの話ですよね。
はっきり言えるのは、「ベストを尽くそう」、ここですよね。
ベストを尽くして成長しようという、ここのところにフォーカスした方が圧倒的に成果が出ます。
でも、これが実は昔から言われていることで、数字ばかり追いかけるより、その人の学びを促した方が良いというのはビジネス界でも、コーチングの世界でも、何十年前から言われているのに、今ぱっとそのデータが出ても、皆「そうなんだ!」と言うんです。
今、コーチの世界でもこれがはっきり分かってきましたね。
岡島 面白いですよね。
いわゆるパフォーマンス(Performance=目標達成能力)とメンテナンス(Maintenance=集団維持能力)のPM理論(PM Theory of Leadership)のような話で、直ぐの業績ではなくて、長期的に上げていくためにも、人材をきちんと育成していこうという趣旨のことだと思います。
けれども、勝利を目指さないと言われると、直感的に「えっ?」といった感じですよね。
中竹 すみません、言い方を間違えたのですが、勝利を目指さないということではなくて、「勝利を強調しない」ということです。
短期的に勝つチームと長期的に勝ち続けるチーム
日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターの中竹竜二さん(左)。
岡島 だから、目先の数字というよりは、もう少し長期ということもあるのですか?
中竹 長期もそうですが、結構大事なのは「ベストを尽くそう」ということで、要するに敵がいるのだけれどもコントロールできるのは自分なので、敵をどう凌駕しようかというよりは、まずは自分にできることだけをきちんとやろうというところにフォーカスしますね。
ですから、実は、僕自身がチームを持った時にも、「レジリエンス」というテーマを掲げていました。
「レジリエンス」というのは逆境に耐えるということなのですけれども、先のことややったことを後悔していると、ついつい不安になってしまって上手くいかないので、目の前のことに集中しようということです。
そうすると逆境に耐えられますという論理なんですね。メンタル構造としては。
これは結局、「ベストを尽くそう」ということと同じなので、こういうことを結びつけながら、選手達にも、特に試合前なんかには目の前のことだけをやろうという風には言っています。
川邊 やれそうでやれないなという感じもするんですよね。やはり、どうしても、「ベストを尽くそう」というだけでは成果は出ないのではないかなという思い込みもあって、言い切ることはできるけれども、なかなかそこまで管理できないという感じがしてしまいますね。
もう一つはおっしゃる通りだなと思って、いろいろな経営者の付き合いがあるのを見ていますが、このビジョンを実現したいと思うタイプの経営者と、とにかく勝ちたい、もっと言うと負けたくないというタイプの経営者とがいますよね。
短期的には、こちらの勝ちたい負けたくないというタイプの方が、成果が出るんですよね。
けれども、私はインターネット業界にだけ20年いるので結末まで見られていない前提で言うと、この筋の人達が、最後にどうなのかというのは少し興味深い感じはしますね。
中竹 それで言うとやはり、GoodとGreatの差で、「最高」というのを定義した時に、Greatに行くには当たり前ですけれども、オリンピックでも勝ち続けないとダメじゃないですか。
一発勝負で勝ってもダメで、トーナメントや大会に常に一定期間勝ち続けるということを考えた時に、短期的にとにかく勝とうというのは、その時に集中しても次に勝てなくなる可能性もあるということなので、勝ち続けるという、つまりベストではなくてもキープするというのがGreatの要素なんですよね。
岡島 これは面白いですね。
水泳の平井伯昌先生も、やはり1個メダルを獲るのはそんなに難しくないけれども、続けて4年後にまた獲るのは、モチベーションという意味ですごく難しいとおっしゃっていた、そことすごく繋がるなと思います。
(参考資料:最高の自分を鍛えるチームの力 なぜ、競泳日本は11個のメダルを取ることができたのか? )
モチベーションは外的と内的のどちらか片方にしろ
石川 モチベーションの話をしましょう。
実は猿の研究からモチベーションについて語ろうと思うのですが(笑)。
予防医学研究者の石川善樹さんと、岡島悦子さん。
岡島 後で「ベストを尽くそう」のところにちゃんと結びつけて下さいね。
石川 ちゃんと繋げます。
ハーロウ先生(Harry Harlow)が、今から何十年前に猿をトレーニングしていたのですけれども、当然、猿のトレーニングというのは、何かやったらご褒美をあげるという、外的なモチベーションを利用したものなんですね。
(参考資料:愛を科学で測った男―異端の心理学者ハリー・ハーロウとサル実験の真実 )
川邊 インセンティブ。分かり易いですね。
岡島 マシュマロ・テストのようなものですね。
石川 ある時、餌をあげていないのに猿がパズルをずっと解いていたんですよ。
これは一体何なのだろうということで調べると、どうも内的なモチベーションというのがあると分かったのです。
川邊 猿でも?
石川 猿でもあると。人間の場合では、自分の喜びや楽しみのためにやっている人と、勝ちたい、もしくは昇進したい、儲けたいという外的なモチベーションでやっている人とでは、長い目で見た時には内的モチベーションで動いている人の方が良い、というのがこれまでの結論だったのですが、ここからが面白い新展開です。
川邊 新展開?
石川 新展開。
多分、モチベーションクラウドでも、内的なモチベーションを上手く使われているのだと思うのですが、
岡島 そうですね。
石川 ちょっと待てよ、と気づいた研究者がいて。
人というのは、(内的か外的かの)どちらかのモチベーションというよりかは、普通は両方持つのではないかと。
川邊 それはそうですよ。
石川 言ってしまえば当たり前。勝ちたいけれども、意味も持ちたいと。
岡島 そうそう。
石川 となると、3パターンに分類できるんですよ。
内的モチベーションでやっている人、外的モチベーションでやっている人、そして、両方持っている人。誰のパフォーマンスが一番低いかということを調べたら、両方持っている人達だったんですね。
川邊 ほう。
石川 だから、最近は、もうどちらかにしろと言われているんです。
川邊 なるほど(笑)。
石川 どちらかがいいと。
例えばこの仕事は、勝つためにやるんだと。
そしてこっちの仕事は自分の楽しみのためにやるという風に、とにかく分けたほうがいいと。
両方持つとややこしいというのが、最近のモチベーションのトレンドですね。(会場 笑)
川邊 なるほど(笑)。
安渕 そうすると、仕事の何パーセントかは自分の好きなことをやれ、そういうのは好きな部分に集中してやれという、そういう話ですね。
石川 多分そういうことだと思いますね。
安渕 そして、残りはとにかく勝てとかね。
そういう風に分けていると、使い分けができているということになるのですかね?
石川 そうですね。
ICCパートナーズより転載(2017年5月11日の記事)