米国・ラスベガスで毎年開催される世界最大級のテクノロジーショーCES。世界各国のメーカーやスタートアップの年間動向をうらなう上で最重要なイベントの1つだ。
アメリカ・ラスベガスで開催されている世界最大規模のテクノロジーショー「CES 2018」。デジタル業界の新年はCESと共に明けるといわれるほどだが、2018年はいつにも増してスタートアップの出展が注目度を高めている。スタートアップが集まるエリア「Eureka Park」は、巨大なサンズコンベンションセンターの1階を全て埋め尽くすほどの規模にふくれあがり、国単位での出展も増えている。
CESを主催するCTA(Consumer Technology Association/全米民生技術協会)が選出するイノベーション・アワードに選ばれているところも多く、新市場を開拓することが期待されている。
CESのイノベーション・アワードに選ばれているスタートアップも多い。
ここでは、CESが今年注目するカテゴリーとそこでの成長が期待できそうなスタートアップをいくつか紹介する。
1.心拍にあわせて動くロボット枕「Somnox」
カテゴリー:スリープテック、ロボティクス、コンパニオン・ロボット
Somnoxの実機。小脇に抱えられる程度のサイズ感。
今年のCESでは睡眠を扱う企業からの出展が多く「スリープテック」というコーナーまでできていた。組み合わせとしてはウェアラブルやアプリ、スマート寝具が多いが、オランダの「Somnox」はひと味違ったスリープ・コンパニオン・ロボットという位置付けになっている。
コンパクトな抱き枕に見えるが、できるだけ早く睡眠にひきこむことを目的としていて、抱きしめるユーザーの心拍にあわせてゆっくりと動き、音楽や淡いライトでさらに深い睡眠へと導くという。寝具メーカーとコラボしたカバーは全て手作業で縫製され、丸洗い可能なので清潔に保てる。
「Pepper」や「aibo」のような意志疎通のための機能は全くないが、ややずっしりとした重みがあり、それがなんとなくペットを抱えているような安心感が眼感じられるのが面白い。Kickstarterで200%を越える支援を受け、現在プレオーダーを受付中。価格は499ユーロ(日本円で約6.6万円)で、今年9月から出荷開始予定だ。
2. 自動運転技術を活かした無人屋台「robomart」
カテゴリー:ロボティクス、スマートシティ、モビリティソリューション
ロボマートのミニチュア模型。自動運転車にはコクピットが必要ないから、こうした「箱」が移動するようなデザインの提案も増える。まさにトヨタのe-Paletteと同じ発想。
ここ数年でまるでモーターショーのように自動車関連の出展スペースを増やしているCESだが、自動運転自動車はいよいよレベル3(高速道路など特定の場所での自動運転、ただしドライバーは緊急時に備える)の実用化も視野に入り、大手企業が力を入れている。さらに今年はスマートシティ分野にも力が入り、トヨタのコンセプトカー「e-Palette」のような都市機能と融合する車両デザインに加えて、運ぶのは人だけではなくなっている。
関連記事:トヨタの本気、B2B電気自動車「e-Palette」が凄いと言われる理由 —— アマゾン、Uber、中国DiDiが参画:CES2018
「robomart」が目指すのは究極の移動販売ロボットであり、その場で商品を購入できるようにしているのがユニーク。あらかじめ商品を選ぶeコマースではなく、欲しい商品を積んだ車両=屋台を「Uber」のようにアプリで呼び出すという発想にすることで、商品を見て買う楽しさも提供できるとしている。人を乗せないため自動運転自動車よりも実用化の可能性が高く、“ロボネコヤマト”のような自走式ドローンのビジネスで採用される可能性も高い。
3.サングラスタイプの360度カメラ「ORBi」
カテゴリー:ウェアラブルグラス、360度ライブストリーム、ソーシャルネットワーク
ORBiのデモ機。左右のつるの端に入ったカメラと、正面のカメラの映像を合成して360度撮影を可能にしている。
CESでは“C Space”と呼ばれるデジタルコンテンツやマーケティングをテーマにしたエリアを数年前からオープンしており、そこではVR、AR、そして360度動画コンテンツが市場を伸ばすだろうという話題でもちきりだった。しかもユーザーが簡単に参入でき、ソーシャルネットワークに刺激を与えることが成長の鍵となる。
サングラスタイプの動画撮影デバイスとしては、スナップチャットの「Spectacles」がすでにヒットしているが、「ORBi」はさらに一歩踏み込んでサングラスの前面だけでなく、ツルの横に同じようにカメラを2つ付けるだけで360度の撮影を可能にしている。リコーの「THETA」や「GoPro」に比べてかさばらず、それでいてスティッチ(撮影した画像を360度に編集すること)も簡単にできるのが大きなポイント。価格は価格は399ドルでプレオーダー受付中。8月より配送開始の予定だ。
4.VRでよりリアルに感じるためのグルーブ「BeBop」
カテゴリー:バーチャルコントローラ、ハプティクス
BeBopの実機。手袋のように手にはめて使う。
VRやARの本格的な普及に向けて鍵となっているのが、いかにリアリティーをもたらすかであり、バーチャル空間を“さわっているかのように感じられる” ハプティクスと呼ばれる技術の開発が急がれている。
センサーメーカーの「BeBop」が初めてプロトタイプを出展したというバーチャルグラブは、ディスプレイの中にあるものをまるで触っているように感じられるのはもちろん、動かすこともできる。触感は指先のセンサーだけで実現されているが、5本指にそれぞれ別の反応を与えることができ、それでいてシンプルで反応速度も速い。水にも強いので使用範囲が広まるのもポイントだという。
実際に試してみたが、確かに反応が速くディスプレイの中の動きとの違和感がない。楽器を弾いたり、引き金を引く動作でシューティングゲームをしたりいろいろできる。
5.持ち歩ける妊活デバイス「me.mum」
カテゴリー:デジタルヘルス
me.mumのレンズをスマホに装着した様子を見せるデモ。
医療費が高いアメリカではデジタルヘルス市場は拡大の一途で、細分化も進んでいる。今年はBaby Techのコーナーまでできていたが、さらにその前段階となる“妊活”系の製品もいろいろあった。
そのひとつ「me.mum」は、スマホに付けるカートリッジ式のレンズを使って、妊娠しやすいかどうかを簡単に判断できる女性のためのデバイスだ。使い方は簡単で、レンズの部分に唾液をつけてフタをし、アプリで分析するだけ。妊娠しやすい時は唾液の中の下垂体腺が通常と比べて変化するので、その変化を分析し、さらに機械学習で精度を高めるなどといった一連の機能で特許も出願している。
機能としては精子セルフチェックの「seem」と似ているが、より簡単に検査できる。レンズも口紅のようにスマートで持ち歩きやすくしている。アプリは無料だが、分析を依頼する場合はサービス登録料として79ユーロが必要。
今年のCESのスタートアップ分野は、全体としてビジネスとして成功しそうなものが増えた一方で、どこかで見たことがあるようなものも増え、驚くようなアイデアがあまり見当たらなかったのが残念なところ。やはりスタートアップには製品化は難しいけれどわくわくさせてくれるようなアイデアを期待したい。
(文、撮影・野々下裕子)