「はれのひ」「てるみくらぶ」突然の被害は他人事ではない。お金と振袖取り戻すため被害者ができること

成人の日に振袖が届かず、音信不通になった晴れ着のレンタル・販売業者「はれのひ」の問題。

商品を予約して、急遽サービスが受けられなくなるトラブルは、旅行会社「てるみくらぶ」の2017年3月の経営破たんを連想する。両社の被害に違いはあるものの、2017、2018年と続いて、大規模な消費者被害が発生した。

もはや、こうしたトラブルは他人事ではない。 被害者ができることは? てるみくらぶでは返金が受けられた人もいる。

振袖の女性

一生に一度の成人式に出られなかった人にとっては、お金が返ってくればいいという話ではないけれど……(写真はイメージ)

REUTERS/Kim Kyung Hoon

横浜市の消費生活総合センターは1月9日、はれのひのトラブルについて、以下の対応を呼びかけた。

  1. 領収書や申込書、事業者からのお知らせの手紙など、証拠となるものを保管する。
  2. クレジットカード払いの場合は、カード会社に状況を一報する。
  3. 今後、被害者弁護団、被害者の会などが立ち上がる可能性があるため、情報を収集する。

メールも試着写真も貴重な証拠

まず1つ目の証拠の保存。

金子延康センター長は「まだ、はれのひの会社の状況が分かっていない。消費者は弱い立場にあり、きちんと対応するには証拠が必要。どういう手続きで購入したか、証拠を整理しておいてほしい。契約書と書いていなくても、手紙など業者とやりとりしたものも証拠になる」と話す。カードで支払っていれば、支払い明細書や領収書も残しておいた方がいい。

消費者問題に詳しい「ともえ法律事務所」の寺林智栄弁護士によると、契約書や重要事項説明書、契約物品の明細のほか、メールのやりとり、試着時の写真なども貴重な証拠になる。証拠は、はれのひに正確な被害金額を示すとき、購入者が着物を取り返すとき、民事裁判など、あらゆる場面で重要になる。

1月8日に立ち上がった、はれのひの「被害者」の会(呉服業界誌「きものと宝飾社」が運営)は、2019年以降の新成人に対し、安価な価格で衣装を提供する対応策を検討しているが、基本的には、契約書などで被害の証明を求めている。

ただ、同誌の松尾俊亮編集長は「被害相談を受けていると、契約書がないという人もちらほらいる。(支援に)協力をしてもらう小売店にも、はれのひの被害者だと分からないと、被害を装う人が出てきてしまう。証拠がないとなると、何でもあり、になってしまう」と話す。

カードの支払いを停止できる場合も

カードで払っていればクレジットカード会社への連絡もすぐにした方がいい。

金子氏は「今回、被害者に対し、クレジットの支払いを止めるかどうかは、カード会社各社の判断。(実際振袖のレンタルなどはれのひの)サービスを受けていなければ、『支払いを止めて』と言うことができる場合がある。まずはカード会社に相談を」と呼びかける。

経済産業省によると、法律上は、カード会社のルールを定めた「割賦(かっぷ)販売法」にもとづき、一定の条件を満たす場合、分割払いやリボ払いの残りの支払いを停止できることがある。支払済みの代金は対象外だが、クレジットカード会社とカード会員との間で、契約時にルールを定めており、「カード会社がどのような対応をするか、消費者はまずはカード会社に相談をしてほしい」と経産省の担当者は話した。

横浜市や八王子市に集まったはれのひ関連の相談件数は400件を超えているが、大手のカード会社への問い合わせは「数件」という。あるカード会社の担当者は「お客様からの相談がないと対応ができないため、まずは早めに相談をしてほしい」と呼びかけた。

クレジットカード

カード払いと現金で被害の際の対応は異なる(写真はイメージ)。

REUTERS/ Maxim Zmeyev

晴れ着が転売されていたら

現金で支払った人は、どうすればいいのか。

複数の弁護士や消費生活相談センターに取材をしても、現金で支払った代金を取り戻す有効な手段は聞こえてこない。

たとえ民事で訴訟を起こしても、「破産申立されれば、訴訟は停止。以後は、担保がなければ、ほかの債権者らと同様に扱われる。破産財団の中から、配当を受けることになるが、見るべき財産がなければ仮に配当を受けたとしても、微々たるものにしかならない」と寺林氏は話す。

同時に、被害者の会設立などの支援に関する情報も集めなければならない。手段としては、公的機関の情報や報道などのほか、SNSも参考情報を得る1つの手段になる。1月9日にTwitter上で、フリマアプリで振袖の大量出品が話題になると、多くのユーザーが「私の振袖を見つけて」などと発信し、情報収集・発信のツールになっていることがうかがえた。

被害者たちは、はれのひから振袖を取り戻せるのか。

寺林氏によると、民法上(192条)は所有者が取り戻す権利がある。ただ、寺林氏は個人の見解として、「はれのひによる売却の可能性があるのでは。二重、三重に」と疑う。民法では、第三者に転売されていた場合、もともとの所有者は、転売先の購入者に、購入代金を支払って取り戻すことになり、「所有者は、二重の経済的な負担になる。その費用を、はれのひに請求しようとしても、はれのひが倒産してしまうと難しいだろう」と説明する(第三者が不正品と知って購入した場合は除く)。

また神奈川県警が事件の証拠品として差し押さえれば、現物は保管されるものの、寺林氏は「裁判が終わるまでは返してもらえない。保管状態もあまり良いとは言えない」と話す。

晴れ着

REUTERS/ Yuya Shino

てるみくらぶでは“特例”で返金措置

割賦販売法は、すでに分割で支払った分や一括で支払いをした場合は、対象外。カード会社からすると、法律上は、消費者がサービスを受けていなくても、支払い分を返金する義務はない。

すでに支払った分はあきらめるしかないのか?

過去には返金された“特例”もあった。それが、てるみくらぶの被害者の救済だ。

2017年3月に、てるみくらぶが倒産した際、すでに旅行代金を支払った旅行申込者ら多数の被害者が出て、複数のクレジットカード会社が被害者に返金する措置をとった。

当時、返金措置をしたカード会社の担当者は、「社会的な影響が大きく、困っていた人も多く、行政からも消費者保護の観点から適切な対応をとってほしいと要請があり、弊社の判断で、法にのっとらない対応として、返金措置をした」と説明した。この会社では、「個々のケースに応じて、てるみくらぶを利用していたと確証が取れるもの(申し込みの控えや、申し込みを受け付けたという返信のメールなど)を提出してもらい、返金対応をしていた」という。

てるみくらぶ破たんの際に返金措置をした3社は1月11日、Business Insider Japanの取材に、はれのひの被害者の対応について、「対応は検討段階」「情報収集をし、社内で方針を検討している状況。社の方針はまだ申し上げることができない」「状況確認を進めている段階で回答は差し控える」と具体的な対応策は固まっていなかった。

ただし、ある1社は被害者からの問い合わせのほか、「行政からも状況把握ということでヒアリングを受けている」と明かし、実際に日本クレジット協会が契約数や契約金額、支払い区分の調査を主要カード会社に対して始めた。

はれのひ弁済「てるみくらぶように一枚岩では……」

別のカード会社の担当者は「(はれのひは)いろいろな被害のケースがあり、全体像がつかめていない」と話す。購入とレンタルによっても状況が違い、購入した振袖が手元にあるのかによっても対応が異なる。レンタルで前撮りをしていれば、一部のサービスは受けていることになる。「2年前に支払いをしたとしても、いつの成人式か分からない。被害状況を全然把握できていない」と担当者は話す 。

寺林氏も「新成人はカードを持っていないことが多く、支払いをした名義人と照合する必要も出てくる。晴れ着だと、利用するまでが長くて、ローンを完済しているケースもあるのでは。てるみくらぶと似たような被害だが、被害者の特徴に違いがあり、そこまでカード会社が手間をかけられるのか。てるみくらぶのときのように一枚岩ではいかない」と話した。

てるみくらぶ被害者「メールが証拠に」

はれのひや会社の対応が不明な状況だが、証拠の保存や状況整理は重要になりそうだ。

てるみくらぶの被害に遭ったという都内の女性(25)は、会社とのやりとりを証拠に、被害から約半年後に代金を取り戻したという。

女性は、てるみくらぶで予約をしていた代金約14万円をカードで一括で払った。

「予約をした際、『今すぐ(数日後)カードで引き落としをすれば、この金額で』みたいなことが書いてあって」

数週間後に、てるみくらぶから「自己破産」のメールを受け取ったという。 弁済の方法をネットで調べ、日本旅行業協会にたどり着いたが、弁済額は少額。そこで旅行の保険会社とクレジットカード会社に連絡をした。カード会社からは、問い合わせから半年ほど経ったころ、返済可能という連絡を受けた。

証拠はメールだった。「てるみくらぶのサイト上で、すべて予約を済ませていたので、サイトが閉鎖されて、契約内容は確認できなかった。ただ、メールは残っていたので、コピーをカード会社に送ったら、大丈夫だった。メールを消していたら、危ないなと思った」と女性は振り返る。

はれのひの被害について、「自分たちと全く一緒だと思った」と言うが、「旅行は予約をしてから、何もしていない状態だったけど、晴れ着だと前撮りとかがあって、対応が難しいのかもしれない」と心配していた。

横浜市と八王子市の消費生活センターには、成人の日から4日経った1月12日も、1日で43件、契約額約1400万円分の相談が寄せられた。問題発生以降、両センターに累計484件、契約総額約1億5660万円分の相談が寄せられた。

こうした多額の契約総額や行方不明の貴重な品物、「もし、それらの物が返ってきても、今回はそれで済まないケース」(寺林氏)、それならばせめて、救済の措置が広がることを願う。

(文、取材・木許はるみ、取材・西山里緒)

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