アポロ13号のジム・ラベルにスペースXの月飛行について聞いた

有名な「地球の出」。1968年12月24日、アポロ8号の宇宙飛行士が撮影。

有名な「地球の出」。1968年12月24日、アポロ8号の宇宙飛行士が撮影。

NASA

スペースXは、現行で最も強力なロケットをデビューさせた。

ファルコン・ヘビー(Falcon Heavy)は、再利用可能な3基のブースターを備え、70トンもの積荷(ペイロード)を地球軌道上に、または5トンのペイロードを火星に運ぶことができる。

スペースXは2月6日(現地時間)、3基のブースターに合計27基のエンジンを搭載したファルコン・ヘビーの打ち上げに成功した。

関連記事:逆噴射着陸まで成功させたマスク氏のロケットがすごいと言われる理由と98億円の“謎”

ファルコン・ヘビーの初フライトではテスラ・ロードスターを火星軌道に送る。さらにマスク氏は今年中に、2人を月周回飛行に送り出すつもりだ。

関連記事:スペースX、ファルコン・ヘビーの打ち上げに成功、印象的な瞬間を振り返る

「何人かの民間人から、月を周回する有人ミッションに参加したいという申し出を受けている。皆、とても真剣だ」と2017年2月、マスク氏は語っている。

「まだ名前は公表できない。だが、相当な予約金を受け取っている」

2人のクルーは、完全に自動化された同社のドラゴンv2、別名「クルー・ドラゴン」宇宙船に乗り、NASAのアポロ13号と似た飛行経路をとる。だが、13号よりもずっと順境な飛行になるだろう。

月への飛行がどのようなものかを知るために、Business Insiderは1968年にアポロ8号で人類初の月周回飛行を行い、1970年にはアポロ13号の船長を務めた元宇宙飛行士のジム・ラベル(Jim Lovell)氏に話を聞いた。

「正しい方向に進んでいると思う」とラべル氏。

「最初の月周回飛行から50年目の2018年に、宇宙船を月の周回軌道に送るというイーロン・マスク氏の決断は偶然ではない」

スペースXの月ミッションにはファルコン・ヘビーを使用。

NASAケネディ宇宙センターの39A発射台で打ち上げ準備を進めるファルコン・ヘビー。2017年12月28日。

NASAケネディ宇宙センターの39A発射台で打ち上げ準備を進めるファルコン・ヘビー。2017年12月28日。

SpaceX/Flickr (public domain)

出典 : 爆発するかもしれない —— マスク氏、「ファルコン・ヘビー」の最新画像を公開

3基のブースターに合計27基のロケットエンジンを搭載。その数は同社のファルコン9の3倍。

ケープ・カナベラルの格納庫にて。2017年12月。

ケープ・カナベラルの格納庫にて。2017年12月。

Elon Musk/SpaceX via Twitter


だがファルコン・ヘビーは、アポロ計画で使われた史上最強のロケット「サターンV型」にはおよばない。サターンV型は、ファルコン・ヘビーよりも130フィート(約40m)高く、ペイロードは2倍以上。

サターンV型

Wikimedia, CC


スペースXの月飛行では「月面をかすめ、さらに遠くの深宇宙まで到達したのち、地球に帰還する」とマスク氏。

地球の後ろから姿を表した月。

地球の後ろから姿を表した月。

NASA Marshall Spaceflight Center


6日間の月周回飛行は、奇しくもアポロ13号の飛行ルートと似ている。危険に晒されないことを願っているとラベル氏。

アポロ13号の飛行経路

アポロ13号の飛行経路とタイムライン。想定外の事故が起ったが、宇宙飛行士たちは無事、帰還した。

AndrewBuck/Wikipedia (CC BY-SA 4.0)


「とても大きな不具合を抱えた宇宙船だった......帰還できるかどうか全く分からなかった」とラベル氏はアポロ13号について語った。「スペースXのフライトでは、すべてが順調で、自動化されているなら、乗員はゆったりとリラックスして座り、景色を楽しむことができるはずだ」

1970年、アポロ13号のミッションでのジム・ラベル氏の公式写真。

1970年、アポロ13号のミッションでのジム・ラベル氏の公式写真。

NASA


スペースXは、月飛行ロケットをフロリダ州にあるケネディ宇宙センターの39A発射台から打ち上げる予定。NASAがアポロやほとんどのスペースシャトルを打ち上げた発射台。

39A発射台で打ち上げを待つスペースシャトル「アトランティス(Atlantis)号」。

39A発射台で打ち上げを待つスペースシャトル「アトランティス(Atlantis)号」。

Dave Mosher


エレベーターで最上部まで上がると、クルー・ドラゴン宇宙船がある。

クルードラゴン宇宙船。2014年の発表イベントにて。

ドラゴンv2、別名「クルー・ドラゴン」宇宙船。2014年の発表イベントにて。

SpaceX/Flickr (public domain)


乗員は圧力低下に備えて、シンプルな宇宙服を着用。

スペースXの宇宙飛行服。

スペースXの宇宙飛行服。

Elon Musk/SpaceX; Instagram


クルー・ドラゴンには最大7名が搭乗可能。だが、月周回飛行では、そのシートの多くは基本的装備に取り替えられる(たぶんトイレもあるはず)。

クルー・ドラゴンの内部。5つの座席が見えるが、最大7名まで搭乗可能。

クルー・ドラゴンの内部。5つの座席が見えるが、最大7名まで搭乗可能。

SpaceX/Flickr (public domain)


「2人が狭い場所で1週間過ごすことは、何てことはない。潜水艦の乗組員が数カ月も海の下で過ごすことを考えてみれば分かるだろう」とラベル氏。「スコット・ケリー(Scott Kelly)氏は、1年間、宇宙空間に長期滞在した。2人が宇宙船で月を周回する? とても快適で、簡単なこと」

出典 : SpaceX/YouTube







座席の上の画面にはコンピューターからの情報や宇宙船の位置、その他の重要な情報が表示される。

クルー・ドラゴンの内部の画面。

クルー・ドラゴンの内部の画面。

SpaceX/Flickr (public domain)


クルー・ドラゴンの自動化システムに異常があったときは、乗員がコントロールパネルからコマンドを入力。

クルー・ドラゴンのコントロールパネル。

クルー・ドラゴンのコントロールパネル。

SpaceX/Flickr (public domain)


ほぼ水平に横たわり、シートベルトをがっちり締め、打ち上げのカウントダウンを待つ。心臓の鼓動は高まる。

クルー・ドラゴンの中の宇宙飛行士。

Elon Musk/SpaceX; Instagram


27基のエンジンに点火。船体は大きく揺さぶられる。加速とともに乗員は座席に押し付けられる。

出典 : SpaceX/YouTube

2分が経過、衝撃とともに両サイドのブースターが切り離される。

出典 : SpaceX/YouTube

ブースターは自力で帰還し、着陸。整備ののち再利用される。数百万ドルの節約が可能となる。

出典 : SpaceX/YouTube, Business Insider

窓の外には地球が見える。

出典 : SpaceX/YouTube

再度の衝撃は、コア・ブースターの切り離し。もちろん再利用可能。続いて第2段エンジンが点火し、時速約2万4000マイル(約3万9000キロ)まで加速する。地球の重力から逃れ、月へ向かうのには十分なスピードだ。

出典 : SpaceX/YouTube

クルー・ドラゴンの窓から、青く輝く地球が見える。

アポロ8号から見た地球。

アポロ8号から見た地球。

NASA


月への約23万9000マイル(約38万5000キロ)の飛行中に、地球は徐々に小さくなっていく。

アポロ8号から見た地球。

アポロ8号から見た地球。

NASA via Project Apollo Archive/Flickr


ラベル氏は、こうして地球を見たことで大きく変わったと語った。「人間がいかに小さく、いかに偉大かということに気づいた。人は『死んだら天国に行きたい』とよく言う。だが実際に考えてみると、天国に行くのは生まれた時だ」

アポロ13号から見た地球。

アポロ13号から見た地球。

NASA via Project Apollo Archive/Flickr

出典 : Business Insider

一方、約3日間で月はどんどん大きくなってくる。

アポロ13号の窓から見た月。

アポロ13号の窓から見た月。

NASA via Project Apollo Archive/Flickr


スペースXで最初に月に向かう乗員へのアドバイスをラベル氏に聞いた。「カメラを持っていき、景色を楽しみ、すべてを楽しむこと。月飛行は過去にも人類が成し遂げたことであることを心に留め、すべてがうまくいくとスペースXを信頼することだ」

アポロ13号から見た月。

アポロ13号から見た月。

NASA via Project Apollo Archive/Flickr


窓から見える月が大きくなり......

アポロ13号から見た月。

アポロ13号から見た月。

NASA via Project Apollo Archive/Flickr


あっという間に窓いっぱいに広がる。

アポロ13号見た月の表面。

アポロ13号見た月の表面。

NASA via Project Apollo Archive/Flickr


月の上空100~200マイル(約160km~320km)をかすめる。地球を周る宇宙ステーションの高さよりも低い。

アポロ13号から見た月の表面。

アポロ13号から見た月の表面。

NASA via Project Apollo Archive/Flickr


クレーターも近くで見られる。

アポロ13号から見た月の表面。

アポロ13号から見た月の表面。

NASA via Project Apollo Archive/Flickr


何十億年もの間に、隕石によってできた小さなクレーター。

アポロ8号から見た月の表面。

アポロ8号から見た月の表面。

NASA via Project Apollo Archive/Flickr


月の裏側に周ると、月から昇る地球が見える。

有名な「地球の出」。1968年12月24日、アポロ8号の宇宙飛行士が撮影。

有名な「地球の出」。1968年12月24日、アポロ8号の宇宙飛行士が撮影。

NASA


数日後、クルー・ドラゴンは地球に再接近。サポートトランクを切り離し、下降を始める。

出典 : SpaceX/YouTube

底面の耐熱シールドが大気圏再突入時の高熱からカプセルを守る。遮断し、徐々に燃えてなくなっていくことでカプセルを保護する。

「月から地球に戻ってきたときには、時速約2万5000マイル(約4万キロ)で大気圏に突入する。だから大気圏に対して、ごく限られた角度で突入しなければならない。そして安全に着陸する」とラベル氏。

「角度が浅すぎると、石が水面を跳ねるようにスキップしてしまう。そして宇宙の彼方に飛んで行ってしまう。深すぎると、大気との摩擦で、“燃え尽きる”」

出典 : SpaceX/YouTube

地表に近づくと、小型エンジンが点火、着陸する。

出典 : SpaceX/YouTube

アポロのように、パラシュートを使って海上に着水する方法をとるかもしれない。

パラシュートを使った着水テスト。

パラシュートを使った着水テスト。

SpaceX/Flickr (public domain)


スペースXは、最初の月周回飛行を2018年末までに行いたいと考えている。

ケープ・カナベラルの格納庫にて。2017年12月。

ケープ・カナベラルの格納庫にて。2017年12月。

SpaceX/Elon Musk via Twitter

出典 : SpaceX

だが2019年になりそうだ。同社によると、月周回飛行は「NASAと進めているミッション」のあととなる。

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SpaceX on Flickr

NASAとスペースXは、国際宇宙ステーション(ISS)への宇宙飛行士の輸送にクルー・ドラゴンを使うことを計画している。だが、ファルコン9を使って行われる最初の有人飛行は、6カ月延期され2018年12月となった。

「少なくとも年に1〜2回」月周回飛行の需要があるとマスク氏は語っている。費用はおそらく2億3000万ドル(約250億円)以上、3億ドル(約320億円)を超えることもあるだろう。

クルー・ドラゴンの模型の前に立つスペースXの創業者イーロン・マスク氏。

クルー・ドラゴンの模型の前に立つスペースXの創業者イーロン・マスク氏。

Associated Press

出典 : Business Insider

だがラベル氏にとっては、SpaceXの月周回飛行はエキサイティングなものではない。それよりも、人々が科学に取り組み、月面に着陸して、基地を建設することを望んでいる。

クルー・ドラゴンで作業中の技術者たち。

SpaceX/Flickr (public domain)


「人類が月に戻り、ゆくゆくは火星に行く日が徐々に近づいていると思う。たぶん私はそれを見ることができないだろう」とラヴェル氏。「成功を望んでいる」

漆黒の宇宙に浮かぶ火星(予想図)。

漆黒の宇宙に浮かぶ火星(予想図)。

NASA/JPL-Caltech; Dave Mosher/Business Insider


[原文:An Apollo astronaut explains what riding aboard SpaceX's first moon mission might be like

(翻訳:conyac/編集:増田隆幸)

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