自分の得意スキルはいくらで売れる?複業のための「お金の教養」

2018年は副業解禁を政府が後押しする動きが本格化する。複数の職を行き来しながら自分の価値を高める「ボーダレスワーカー」という働き方をいち早く実践していた複業研究家の西村創一朗さんは、“二兎追って、二兎手に入れる人生”を応援するオンラインサロン「HARE’S COLLEGE」を2017年に開講。

その西村さんが「ぜひ話を聞いてみたい」と迎えたのが、お金の教養を提供するファイナンシャルアカデミー代表の泉正人さんだ。「僕も4足のわらじを履く複業家だった」という泉さんが教える「副業(複業)成功のためのお金の教養」とは?

若者たちの後ろ姿

西村創一朗さん(以下、西村):泉さんのお名前を知ったのは、2008年に『お金の教養』という本を出された時。地元の多摩の書店に山積みにされているのを見て、すぐに手に取ったのを覚えています。長男が生まれたばかりで「家族のためにお金のことを本気で学ばないといけない」と思っていた時でした。

最新刊の『それ、売りますか? 貸しますか? 運用しますか? 無料という手もありますよ。』も、実在する9人のスモールビジネス起業や副業のビジネスモデル設計を具体的にアドバイスしている点が役立ちますね。複業にチャレンジしたい人にとっては必読書だと思い、オンラインサロンのメンバーにもすぐに発信しました。

泉正人さん(以下、泉):ありがとうございます。

西村:改めて興味を持ったのは、泉さんがお金の知識を磨く重要性を説くようになった原点についてです。

「真剣に生きよう」母の死が教えてくれたこと

:原点は、僕自身がお金にとても苦労したという経験ですね。

西村:意外です。ご家庭の環境が苦しかったのですか?

:いえ、家庭の経済状況は普通で、両親は「いい会社に入るためにいい大学に入りなさい」と教育熱心でした。兄は「御三家」と言われる私立中学に入学しましたが、僕は勉強する意味が見出せず、中学受験は7校受けて全落ちしたんです。

編集部:ご本人は謙遜されますが、某有名進学塾でトップクラスだったという情報も。

西村:すごい!

スーツ姿の男性たち

:小6の夏休みの模試で「どこでも受かる」という判定を受けたので、油断したんですね(笑)。私立中学の受験には失敗してしまったので、地元の公立中学に行ったのですが、受験勉強をしてきたので当然ながら成績トップからスタートするわけです。そこでまた油断していたら、どんどん成績が落ちていき、勉強も面白くなくなっていたのです。仕方なくカリフォルニアで高校生活ができる日本の学校に入ったのですが面白くなく、すぐに辞めて日本に戻ってきました。それが16歳のときで、やむなく一人暮らし。そこから本当にお金に苦労する日々が続きました。

西村:その後はどうしたんですか?

:そこから約10年間、とても厳しい生活を強いられました。手に職をつけようと思っても、自分に何ができるかも分からない状態で、本当に苦労の連続でした。 そして24歳の頃、少しだけ自分の未来に光が見えた仕事に就いたのです。それがあるITベンチャーへの就職でした。 新しいことを学びながら働く楽しさを少しずつ体得できる場を得たのですが、その2年後、母親がくも膜下出血で急死したんです。

母の死もショックでしたが、医師から「あなたも気をつけなさい」と忠告されたことが、僕の生き方を変えたと思います。「いつ死ぬかわからない。ならば真剣に生きよう」と決心し、独立を決めました。当初は2つの仕事をする複業スタイルだったんですよ。

西村:どんな仕事を始めたんですか?

:1つは、高級オーディオの輸入販売。もう1つはITベンチャーで習得したシステム開発やウェブ制作の仕事です。半年後には事業が回り始めて、27歳で初めてまとまったお金を手にしました。それまでは貯金が10万円を上回ることがなかったので(笑)。

お金の教養を身につける場がない

西村:お金に苦労した時期が16歳から10年も続いていたんですね。

泉さんと西村さん

フィナンシャルアカデミー代表の泉さん(左)と西村さん(右)は副(複)業を成功させる「お金の教養」について語り合った。

:はい。だから、急に手元にお金ができてもどうしたらいいか分からない。分からないので本を読んだりセミナーを聞きに行ったりしたのですが、腑に落ちない。なぜだろうと考えると、既存の情報はすべてポジショントークでしかないと気づいたんです。つまり、証券会社が主催する資産運用セミナーや、特定の金融商品を売りたい人が出す本はすべて“チラシ”でしかないと。

でも、探してもなかなか学び方が見つかりませんでした。僕は本当にお金に無知だったから苦労もしてきて、学ぶ必要性を強く感じている。そんな人は他にもいっぱいいるんじゃないか。だったら、自分で学ぶための学校をつくってみようか。そんな発想でファイナンシャルアカデミーを立ち上げたのが27歳の時。その少し前に不動産のポータルサイトも立ち上げたので、一時期は4つの仕事を同時並行していました。

西村:寝る間も惜しんで、土日もなかったくらいでは。

:当時はそうでしたね。そのうち、オーディオ通販はヤフオクなどが台頭してきたので閉めて、システム開発も労力の割に収益が上がらなかったのでやめました。他にもいろいろな事業にトライしていく中で、だんだんお金の本質のようなものが分かってきて、学校運営と並行して本の形にもまとめるようになったんです。

お金

『お金の教養』は、そういった経緯でできた本だったんですよ。すべて自分の経験から積み上がってきたことで、最初は細い糸だったものが紐になり、太い綱になっていったような感覚です。

西村:最終的に「お金の教養を提供する」という分野に集中投資することになったのは、そこにご自身の“強み”を見出せたからですか?

:まさにそうですね。あえて自分の強みを表現するとしたら、「お金の専門家ではない一般人としての視点と、金融リテラシーを磨いた視点の両方を併せ持つこと」だと思っています。

まずは走ると決めて走る

西村:泉さんが“ビジネス成功の条件”として強調する「アービトラージ(他者との差別化)」ですね。ポジショントークに偏りがちな既存の金融教育提供者にはない、金融弱者を経験したからこその強みを見出したと。リアルな場としての学校という形式をとったのは?

:単純に自分が勉強できる場を作りたかったからです。

西村:僕も新しい分野で学びたいことがあったら、専門家にコンタクトをとって、SNSで「他に参加したい人いない?」と募って場作りをすることが多いんです。

:まったく同じですよ。100冊に1冊くらいの割合で出合う良書の著者に連絡を取って、「50〜100人呼ぶのでセミナーをしてください。講演料は◯円です」と交渉することから始めました。15年以上前はSNSという手段もなく、集客は簡単ではありませんでしたけれどね。

西村:どうなさっていたんですか?

:今でいうSEO対策のようなものです。当時、SEOという言葉すらなかったですが、講師に呼びたい方の名前が検索されたらセミナー情報が上位にあがるような対策をしていました。これにはシステム開発の経験が生きました。

西村:「100人集めるので来てください」と依頼した時点で、集められる自信はあったのでしょうか? それとも「まずはやると決めてからなんとかしよう」と思っていたのですか?

:完全に後者です。

西村:やはりそうですか。実は、複業の相談に乗っていると、「勝算が立つまで時機を待つうちに、ライバルに先を越されて、またイチからやり直し」という失敗例を聞くことが多いんです。僕は「まずはやると決めて、走りながら方法論を探ってもいい」と伝えているのですが。

:特に今の時代は、無料で使えるツールも豊富なのでチャレンジの障壁はすごく低くなっていますから。

自らが提供する価値への自信

西村さん

西村:なるほど。「無料」という手法は、副業にチャレンジする準備段階のマーケティングにも使えると、泉さんはおっしゃっていますよね。例えば、「お試しで無料で提供しますよ」とアピールすることで顧客を集められると。

一方で、現実にはそこから先の「お金をいただくステージ」になかなかいけないという状況もよく見られます。

泉:理由は2つあって、1つにはそもそも人からお金をいただくことに抵抗がある。特に会社員としての働き方しかしたことがない人にとっては、報酬は評価に結びつくものという認識があって、対価として得られるものという感覚がなかなか持てない。もう1つの理由は、本業の収入があるからこその危機感のなさ。「もらえなくてもやっていける」という甘えによるものです。

西村:「お金をもらうのが怖い」というハードルはどう乗り越えるべきでしょうか?

:その怖さ、僕はまったく感じたことがありませんね。今でもそうですが、根本的に「自分が提供しているものは価値が高いものだ」という自信と誇りがあるからなのだと思います。本当にいいものを心を込めてつくって、少し安いくらいの価格で提供している自信があるから、お金をいただくことに後ろめたさを感じないのです。

僕の学校の授業料は2年間で30万円ですが、「一時の出費としては決して安くないかもしれないが、一生に影響する価値の高さを考えるととてもお得だと思う」と胸を張って言えます。

西村:価値に対する自信があれば、お金は気持ちよく受け取れるというわけですね。

:逆に、「自分だったら1万円しか払わないけれど、2万円取っちゃおうかな」と欲を出すと、引け目を感じるのではないでしょうか。プライシング(商品の値付け)で最も大事なのは、“自分だったらいくら出すか”という自分事の視点です。

西村:同時に、市場でどれくらいで取引されているかという視点も大事になりますか?

:それも一つの情報ですが、いわゆる売り手視点のマーケティングだけではうまくいかないというのが僕の持論です。究極は、やはり“買い手視点”に立つこと。それも自分事で。新しいビジネスを始める時、「これでビジネスができないか」から出発するとどうしても売り手視点のプライシングになるのですが、「これを食べたい、聴きたい、やってみたい」というニーズから出発すると、自ずと顧客目線でのマーケティングができるもの。そしてその方がうまくいきます。

西村:シンプルかつ、揺るぎがない強さがありますね。売り手でありながら、最初の買い手であろうとする。“両面思考”の考え方ですね。アカデミーでは泉さん自身は教壇に立っていないそうですが、なぜですか?

適材適所、得意な人に任せればいい

:僕よりも教えるのがうまい人がいるからです。

僕はどちらかというと、プログラムや教材を作るプロデューサー的役割が好きで得意。でも、それを初心者に分かりやすく説明する講師としてのスキルはあまりないと思っているので、もっと得意な人に任せています。“得意分野”に集中して、それ以外をいかに手放していくかは、ビジネスのスケールアップの鉄則でもありますね。

西村:“強み”を分散させてチームで仕事をするというスタイルですね。

ここでまた聞いてみたいのが、“強み”の見つけ方についてです。日本のビジネスパーソンの多くは文系の総合職で「これが私の専門性です」と明言できる人はごく少数派です。強みを見つけるためのヒントをいただけませんか?

泉さんが語るシーン

:クラスで1番くらい、つまり30人中1番になれるものは何かを見つけるといいと思っています。コーヒーを上手に淹れられるとか、漢字をたくさん知っているとか、なんでもいいから一つ、30人中1番になれる得意分野を見つけてみる。そこを深掘りすると、一生もののキャリアに活かせる専門性にもつながる可能性は大いにあると思います。

西村:一人で見つけられない場合は他人の意見を聞いても?

:ちゃんと見てくれている人であればという条件付きですね。他人の意見は曖昧で、あまり正確ではないというのが僕の実感です。できるだけ自分で自分を観察して発見する方がいいと思います。西村さんがここのBOOK LAB TOKYOを経営していると聞いただけで、「カフェ経営が得意なんですね」と軽く言ってくる人、いるじゃないですか(笑)。実際はきっとそこじゃない。

西村:全然違いますね(笑)。人の意見もうまく聞き分けるのが必要だと。自分自身で得意分野を見極めていく上でのポイントはありますか?

“小さく刻む”と見えやすくなります。「コンピューターが得意」な人は30人中何人もいると思いますが、「アップル製品の」「Apple Watchの」と小さく刻んでいくと、これは自分が1番になれると確信できるものが発見できると思います。

西村:なるほど。自分の強みを知って、自分事で値付けし、とにかく走りながらやってみる。副業にチャレンジしたい人にとって貴重なアドバイスをいただけました。ありがとうございました。

(構成・宮本恵理子、 撮影・竹井俊晴)


泉正人(いずみ・まさと):ファイナンシャルアカデミーグループ代表。一般社団法人金融学習協会理事長。日本初の商標登録サイト立ち上げ後、金融経済教育の必要性を感じ、2002年にファイナンシャルアカデミー創立。身近なお金から会計、経済、資産運用まで、独自のカリキュラムを構築。東京・大阪・ニューヨークで学校を運営。

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