感動スピーチで一気に民主党大統領選候補に浮上したオプラ——絶大な人気に潜む落とし穴

アメリカの女優で大人気司会者のオプラ・ウィンフリー(63)が、2020年の大統領選に出馬するとの観測が急速に広がり、報道が過熱している。

きっかけは、1月7日に開かれたゴールデン・グローブ賞で、セクハラや差別を克服する希望と前向きなビジョンを示した感動的な受賞スピーチだ。オバマ前大統領とも仲が良いというだけではない。アフリカ系で、常にダイエットと戦っているエピソードから、女性とマイノリティーの間での人気は、アメリカ国内では絶大だ。このため、人種や女性、宗教差別の発言が多いトランプ大統領時代を悶々と生きている反トランプの有権者にとって、「救世主」のような存在に突如祭り上げられている。

オプラ・ウィンフリー

ゴールデン・グローブ賞授賞式でのスピーチで一気に大統領選候補として浮上したオプラ・ウィンフリーさん。

REUTERS/Lucy Nicholson

セクハラを告発する女優らが立ち上がり、大物プロデューサーを追放したハリウッド。それに続くセクハラや性暴力を糾弾していく「#MeToo」運動の高まり。今年のゴールデン・グローブ賞は#MeTooに賛同し、連帯する意思を示すため、授賞式では多くの俳優女優が黒ずくめのドレスやスーツでレッドカーペットを歩いた。

ウィンフリーは、映画ドラマ界での功労賞であるセシル・B・デミル賞を、黒人女性として初めて受賞した。彼女の映画デビューが、暴力の抑圧下にあった黒人の半生を容赦なく描いた「カラーパープル」(1985)だったことは、誰もが知っている。

彼女がステージに上っていく際、すでにスタンディング・オベーションと大歓声が起き、賞を発表した女優リース・ウェザースプーンや、ステージ下のメリル・ストリープなどは早くも涙ぐんでいた。

「新しい日々はもう側まで来ている」

#MeToo

トランプタワーの前で#MeTooの抗議をする人も出ている。

REUTERS/Brendan McDermid

ウィンフリーはスピーチで、1964年の少女時代、黒人俳優シドニー・ポワチエがアカデミー賞主演男優賞を受賞した瞬間をテレビで見て、「黒人男性があのように祝福されたのを見たことがなかった」という記憶を語った。

さらに1944年、黒人の若い母親のリーシー・テーラーが、南部アラバマ州で教会から帰る途中、6人の白人男性に捕われ、レイプされ、目隠しされたまま路上に捨てられたこと、男性らが罪を問われなかったこと、テーラーが数日前、98歳の誕生日を前に亡くなったことに触れ、こう語った。

リーシーは、今の私たちが生きてきたのと同じ年月を生き抜きました。あまりにも長い間、力を持つ男性たちに残酷なまでに打ち砕かれた年月を。そういう男性たちの力に対し、女性が勇気を振り絞って真実を語っても、誰にも聞いてもらえず、信じてもらえない。そんな時代があまりにも長く続きました。でも、そんな時代はもう終わりです。タイムズアップ!(大歓声)彼らの時間は終わったのです! 機が熟したのです!

これを見ている女の子たちには、知っておいてもらいたいのです。新しい日々は、もう地平線のすぐ側まで来ているのだと!(大歓声)その新しい1日が、ついに夜明けを迎えるとき、今宵、ここにいるすごい女性たちと、驚くべき才能を持つ何人かの男性たちを含め、私たちの誰も、もう二度とMeTooと言わなくていい時代が来る。そこへと確実に導くリーダーとなるべく、一生懸命戦い続ける多くの素晴らしい女性たちによって、その時代がもたらされるのだということを!

女王蜂のような体にぴったりとした黒いドレスで、眼光鋭く、聴衆とアイコンタクトをしながら、メモなしでスピーチする彼女の姿はカリスマ性があり、大統領選出馬が期待されているミシェル・オバマ前大統領夫人を思わせた。スピーチが終わると、3回目のスタンディング・オベーションに会場は包まれた。

「救世主」だが大統領としての資質は……

ブルームバーグ記者はこのステージ裏で、彼女に大統領選への出馬の意思について質問したが、否定されている。だが、彼女のパートナーのステッドマン・グラハムは同日、メディアに対し、「彼女は間違いなく出馬する」と断言。メリル・ストリープも「(出馬以外に)選択の余地はない」とにこやかに言った。

このため授賞式翌日の1月8日朝から、米メディアは「オプラは大統領選に出るのか」「(スピーチは)事実上の出馬表明」と大騒ぎを始めた。

ミッシェル・オバマさんとオプラ・ウィンフリー

ワシントンで開催された "United State of Women" summit にてミシェル・オバマ氏(左)と議論するオプラ氏(右)

REUTERS/Jonathan Ernst

貧しい黒人家庭で育ち、女優、ジャーナリスト、司会者として徐々に頭角を表し、25年間続くテレビのトークショーは毎日、観客の女性ファンの声援が飛び交う。彼女自身が、ふくよかな体型を気にして、あらゆるダイエットに挑戦して成功したことや、リバウンドしただけで報道されること自体、同じ悩みを持つ女性に親近感を抱かせる。ゲストにさまざまな悩みを持つ人々を呼び、時に涙を浮かべ、思いやりある寄り添うようなインタビューは定評がある。また、彼女が推薦した新刊本は、必ずベストセラー入りするほど影響力は大きい。

「最も尊敬する女性」を選ぶ2017年ギャラップ社世論調査では、ヒラリー・クリントン、ミシェル・オバマに次ぎ3位で、常にトップ5に入る国民的人気のある人物だ。

果たしてウィンフリーは、大統領選に出馬するのか。テレビ番組は識者などをそろえて討論しているが、本人の意思は不明だ。スピーチのうまさ、カリスマ性と絶大な人気はお墨付きだが、政治家の経験はない。実業家で発言に問題ありのトランプが当選したことを考えると、当選の可能性はないわけではない。

しかし、米メディアは、トランプが出馬したときと同じ間違いを犯してはならない。政治経験がない問題児として、報道に多くの時間を割いたことで、ヒラリー・クリントンを含む他の大統領候補よりも、トランプが結果的に露出度の点で有利になり、有権者の投票行動に影響したのは間違いない。

ウィンフリーは民主党やリベラル派有権者にとって「救世主」かもしれないが、大統領としての資質があるのか、きちんと見極めなくてはならない。 (本文・敬称略)

(文・津山恵子)

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