AptivとLyftによる自動運転車。実際に客を乗せて公道を走る。ただし、常に満車で筆者は体験できなかった。
テクノロジーショーであるCES 2018の会場では、車社会のアメリカということもあり、昨今の自動運転技術の進展を反映して自動車メーカー展示は多い。そんな中でIT企業として話題の中心にいる企業がNVIDIAだ。いまやAIの研究開発には欠かせない半導体を作るAI銘柄として注目を集めている。
「世界初」の自動運転向けプロセッサーをNVIDIAがリリース
DRIVE Xavierを紹介するNVIDIAのジェンスン・フアン(Jensen Huang)氏。
会期直前に開催された同社の記者発表会では、CEOで創業者のジェンスン・フアン(Jensen Huang)氏が、「世界初の自動運転向けプロセッサ」という「DRIVE Xavier」(ドライブ・エグゼビア)を発表。サンプル出荷を2018年の第1四半期に開始することを明らかにした。自動運転に関して320以上の企業と協業しており、新たにフォルクスワーゲン、Uberらとも新たに協業することを発表。ますますビジネスが加速している。
Xavierの詳細。
フアン氏は2年前のCES 2016で発表した前世代の「DRIVE PX 2」を比較に出したが、こちらは24TFLOPS(テラフロップス)のパフォーマンスで300Wの電源が必要だったが、最新のXavierでは、30TFLOPSと性能向上しているにもかかわらず消費電力は30W。大幅な省電力化を実現している。
「担ぐほど大きい」という前世代のDRIVE PX 2と大きさの差を紹介する。
公開された動画では、同社のエンジニアが8マイル(約13km)の距離を自動運転で走行する様子が記録されていたが、23カ所の交差点、2つの一時停止など、さまざまな状況で自律的に判断して自動運転ができる、Xavierの可能性を示していた。
このXavierについては、中国Baiduと独ZFが中国国内での自動運転のために既に採用を決めたという。フアン氏が「世界最大の自動車市場」と表現する中国の自動運転カーに採用されたことで、一気に利用が進む可能性もありそうだ。
中国のインターネット企業であるBaiduが採用を決定。
ロボットタクシー分野ではUberと協業、パートナーは320以上に
さらに、ロボットタクシー向けの「DRIVE Pegasus」も紹介された。XavierとGPUを2つずつ搭載し、AIの推論処理の性能は320TOPS、400Wのシステムで、ドライバーレスを実現するという。DRIVE Pegasusに関しては自動運転のスタートアップ企業のAurora、自動車メーカーではフォルクスワーゲン、ヒュンダイと提携。さらにライドシェアサービスの米Uberとも自動運転に関して協業すると発表した。
発表されたロボットタクシー向けシステム「DRIVE Pegasus」。
DRIVE Pegasusは片手で持てる程度の大きさと重さ。
CESの会場では、自動運転企業のAptivがライドシェアサービスの米Lyftと協業し、会場周辺で試乗できる自動運転車を用意した。LyftはライバルであるUberに一歩先んじた形だが、UberはDRIVE Pegasusが狙うレベル5の自動運転によって巻き返しを図る。
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また、本来は実車でテストが必要な自動運転だが、常にそれが可能なわけではなく、仮想のテスト環境でシミュレートできる「NVIDIA AutoSim」も提供する。AIに関するSDK(Software Development Kit=ソフトウェア開発キット)も提供するが、こうした綿密なサポートがNVIDIAの強みだろう。ハードウェアに加えて、AIに代表される各種の開発環境も提供するなどしたことが、昨年は200だった協業社が320にまで増えた理由だろう。
NVIDIA AutoSimの様子。
NVIDIAは320以上のパートナーがいる。
自動車メーカーも半導体メーカーもで「自動運転」一色
NVIDIAは、CESの前日イベントの中でも最も速い段階でプレスカンファレンスを開催したが、それを幕開けとして、CESでは自動運転を中心として自動車に関する発表が目白押しだった。
トヨタのe-Palette Concept。自動運転機技術を使った物流などを想定した次世代EVだ。
こちらはトヨタの自動運転車。
フォードとVirginia Tech Transportation Instituteがテストした自動運転車。すでに公道での走行テストが行われた。
インテルブースに展示されていた自動運転車。5G通信に対応する。
トヨタのような自動車メーカーだけでなく、半導体メーカーのインテル、クアルコム、ソニーすらも好調なイメージセンサー事業を背景に車載センサーの紹介を行っており、米国における自動運転の盛り上がりを示していた。
ソニーのセンサーによって広大なエリアをカバーできる。
人間の目よりも確実に危険を判別してくれる。
陰から飛び出す車なども認識して追突を避けられる。
協業先にはトヨタやNVIDIAの名前も。
自動運転には通信など関連技術の進歩も必要
CES 2018は、自動車メーカーに加えて半導体メーカーも「自動運転」づくしで、「自動運転元年」と言うのに十分な盛り上がりだったと思える。
ただ、一部の例を除けば実際の自動運転カーが出てきているわけではなく、まだまだ将来の技術を示しているだけで、現実化するまではしばしの時間が必要だ。Lyftとともに自動運転の走行デモを行ったAptivも、完全自動運転となるレベル5に到達するのはいつになるか分からないと指摘している。
自動車メーカー各社のブースでも自動運転はそれほど大きく取り上げられておらず、トヨタのように「自動運転で何ができるか」というさらに未来の姿をアピールする例のほうが目立つ。
さらに、自動運転で重要な技術になると目されているV2X(Vehicle-to-Everything)、特に携帯網を使うセルラーV2Xでは5Gが最適とされている。日本でもドコモやクアルコム、日産自動車らが2018年にトライアルを開始する予定だが、これも現実化するのはまだ先だ。クアルコム自身もLTE-Advancedを使ったセルラーV2Xが市販化されるのは2020年と見ている。
クアルコムのセルラーV2Xの説明。
車同士や車とインフラが通信を行って、安全な追い越しなどの走行が可能になる。自動運転では、5G技術を活用するとさらに効果的。
「自動運転」とそれにまつわる「5G」「IoT」という3つの大きなテーマは、あくまで「先の技術」。この1年、自動運転実現に向けた各社の取り組みは加速するだろう。来年のCESでは、その成果が示されることになるのは間違いない。
(文、撮影・小山安博)
小山安博:ネットニュース編集部で編集者兼記者、デスクを経て2005年6月から独立して現在に至る。専門はセキュリティ、デジカメ、携帯電話など。発表会取材、インタビュー取材、海外取材、製品レビューまで幅広く手がける。