クックパッド(cookpad)のCEO特命事項(新規事業)担当に、福崎康平さん(26)が1月1日に就任した。福崎さんは、コーチと生徒をマッチングする「サイタ」を運営する「コーチ・ユナイテッド」(クックパッドが2013年に子会社化、2018年に吸収合併)の元社長。
20歳の時に、東日本大震災の“被災者向けAirbnb”を設立し、C2Cで世の中が変わる醍醐味に取り憑かれた。約20ある部署のうち、最年少部長となった福崎さんが考えるクックパッドの“再建策”とは?
クックパッドの新規事業担当の部長に就いた福崎康平さん。
人と人を結ぶサービスに取り憑かれる原体験
福崎さんは、慶應義塾大学総合政策学部(SFC)在学中からC2Cの研究を始めた。ゼミもテーマもシリコンバレーのC2C。大学2年で、2011年3月に東日本大震災が発生した。被災者と、被災者を受け入れられる人を結ぶ「ルームドナー(roomdonor)」(被災者向け“Airbnb”)というC2Cサービスを、震災から1週間後にリリースした。
ルームドナーは、数百世帯のマッチングに成功し、登録の申し込み物件は2週間で、6000件に上った。100〜200社のマスコミから取材が殺到。「米国国務省からも話を聞かれ、ルース大使にも会いました」と福崎さんは振り返る。
「(受け入れ先で)ごはんも出すよ、という人や、何ならお金もあげる、という人、海外でホテル経営をしているから部屋を提供する、という人も出てきた。被災地ではボランティアで、ルームドナーのチラシを配ってくれる人も出てきて。何百世帯をつなげば、仮設住宅の莫大な建設費用を節約できる。人をつなぎ合わせることで、世の中のこれだけのことを解決できるんだ、とC2Cに取り憑かれた」(福崎さん)
福崎さんが震災直後に立ち上げた「ルームドナー」。現在はサイトは閉鎖している。
出典:福崎さんのブログ「こっぺのブログ」
自分次第で世の中が変わる恐怖
しかし、次第に違和感を覚え始めた。
「『出資するよ』という人がたくさん出てきたけど、自分の設計次第で世の中が変わってしまうという恐怖感、責任を感じ始めた。組織をコントロールできなくて、リーダーシップも問われた」
C2Cに興味があったとはいえ、被災地や住宅の問題解決に特化したかったわけではない。世間の反応と自分の感覚のギャップを感じ、自分ができることは?と問いかけ続け、1年間で世界35カ国くらいを放浪した。
趣味の料理の腕を生かし、各国の空き店舗で自らシェフを務める「こっぺ食堂」を開き、100店舗ほどで料理を振る舞った。放浪中はデング出血熱にかかり、「日本人初のデング出血熱」として、またマスコミに取材を受けることになった。世界中でシェフをしながら感じたことは、言葉が違っていても、「食べ物を通じて、誰とでも仲良くなれる。料理は誰でもできるカジュアルなストレス発散法」だった。
スキルのアウトプットの手段を増やす
帰国後、大学の先輩の有安伸宏氏が2007年に創業した「コーチ・ユナイテッド」(2013年にクックパッドが全株式取得)に、2014年に入社、2016年に社長に就任した。同社が運営する「サイタ」は、プライベートコーチと受講者をマッチングするプラットフォーム。講師は多い時で5000人、習い事の種類は200〜300種にものぼった。
講師には素人に混じり、音楽ユニット「くるり」やプロのバックバンドのメンバーも在籍した。
「すごいスキルを持った人でも、夏のフェスの時期は忙しいけど、季節によってはそれほど仕事がない場合もある」(福崎さん)
サイタはプロアマ含め、スキルのアウトプット手段を増やし、スキルを持った人の安定収入を担保する狙いがあった。
講師の希望者は全員を面接し、受講料はジャンルごとに一律で、1時間で3700 〜4900円。
福崎さんは「通常のプラットフォームは、講師が自分の値段を下げ、価値を下げてしまう。しかし、料金をあえて一律にし、講師には受講料分の価値を提供することを意識づけた。そうすることで、プラットフォームがユーザーの信頼を得られる。講師の価値を上げるプラットフォームにしたかった」とこだわりを話す。
講師の申し込みは毎月何百人もあったが、2、3人の面接官が全国を行脚し、面接を行った。不適切な行為が起きないように、「カラオケでの講座は同性のみ」「男性の家に女性は入らない」など規定も設けた。
買い物、生産者、調理のC2Cで主婦が生計を立てる
あえて企業を「リデザイン」することを選んだ福崎さん。
しかし、サイタ自体はコーチ・ユナイテッドが2018年1月にクックパッドに吸収合併された際に、クラウドソーシング「クラウドワークス」に事業譲渡された。
クックパッドの中でサイタを運営しても、「料理じゃない事業は一旦止まってしまうだろう」(福崎さん)、そんなクックパッド社内の雰囲気があり、スピード感を持った事業展開が難しいと判断した。
クックパッドは2016年から、周辺の子会社を売却、料理の事業に集中することを発表、料理のC2Cプラットフォームの開発に注力することも掲げた。
「C2Cはオペレーション、決済、ユーザー理解を進める必要もあり、ただでさえ、設計が難しい。さらに、料理が好きなプロデューサーは、というと、世の中にあまりいない。自分はノウハウもあり、その1人になれる」と福崎さんはクックパッドの地盤を選んだ。
サイタの事業譲渡と同時に、コーチ・ユナイテッドは解散、約20人の社員はクックパッドに参画することになった。福崎さんは、最年少部長(料理教室事業部長、兼CEO特命事項(新規事業)担当)に就任した。
あえて企業をリデザインする選択
今後は、これまでできなかった料理分野のC2Cを推し進める。
「クックパッドのC2Cは今、レシピしかない。例えば、買い物も調理も、素人同士でできるものに置き換えられる。旦那さんが待ってる、赤ちゃんがいるなどの理由で外に働きに出ることができず、(仕事のように家で)料理をしている人が多い。投稿の記事を書くのと同じように、料理の作り手のアウトプットの手段を増やし、生計を立てられる仕組みを作れたら」
新規事業の発表は春ごろを予定している。
「どんどんサービスを作って、成功、失敗をしたい。クックパッドが料理に突き進むことを表明したので、成功確率が上がる」
福崎さんと同世代の仲間は起業家が多いが、「今はいいアイデアがあれば、数千万は調達できる時代。だけど、リプロダクト、リデザインしていく会社もたくさん生まれていくと思う。今あるものを生かして、リデザインする方がインパクトが大きい。クックパッドがその良い事例になるようにしたい」
(文、写真・木許はるみ)