2040年には単身世帯が全世帯の4割に達する「おひとりさま時代」がやってくる——。国立社会保障・人口問題研究所が1月に発表した日本の世帯数の将来推計では、そんな将来像が浮かび上がって来た。背景にあるのは、高齢単身世帯の割合の増加。みんなが結婚するのが当たり前ではなくなった1980年代以降に増えた、未婚者の高齢化が効いている。
ただ一方で、50歳未満では未婚率の上昇幅は小さい。結婚を合理的と考える人が増えているというデータもある。「早く結婚したい人は多い」という20代女性の声も聞かれるが、ミレニアル世代に結婚願望は高まっているのか?
「時間はあまりない」
「学生時代の彼氏と結婚するつもり、という人は周囲に多いです。子育てしながら働き続けると考えているので、30歳までに1人目を産もうと思うと、就職してから新たな相手を探す時間はあまりない。なんだかんだで20代での結婚が勝ち組のイメージがあります」
「学生時代の彼氏と結婚するつもり」と言う20代女性は珍しくない。
都内の国立大3年生の女性(21)は、同世代の早婚志向を感じている。
関東の国立大4年の男性(23)は、同居している彼女との結婚を考えている。親にもあいさつを済ませた。
「男性では少数派だと思いますが、1歳上ですでに働いている、彼女の強い希望もあります。たしかに共働きをして家事や子育てを分担しながら生活するのが、経済的にも合理的。相手もキャリアを重視しているので、結婚相手を養う、という感覚はないです」
主婦の友社が発行する女性誌「S Cawaii!」は2017年9月号で「20代で結婚する!」を特集。「なにがなんでも30歳までに結婚した〜いっ!!!22歳からの婚カツ❤️」ページを組むなど、20代での結婚推しに賛否が分かれた。
若年層と子育て家庭が交流する「家族留学」事業を手掛けるmanma(東京都豊島区)が、就活生や20代前半女性を対象に行ったヒアリング調査では、学生時代の彼氏との結婚を前提に、就活でも全国転勤のない地域限定職を優先する女子学生は珍しくないという。
高齢男性の未婚率急増
おひとりさま時代が叫ばれる近未来も、実態は一人暮らしの高齢者の急増だ。
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計」(2018年)より作成。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、未婚率が今後25年間で大幅に上昇するのが、65 歳以上の高齢層。
2015 年の未婚率が男性約6%、女性4.5%だったのに対し、2040年には男性約15%、女性約10%にまで増える。
75 歳以上でも、2040年の未婚率は、2015年比で男性は約4倍近く、女性は1.6倍となる。
一方、同調査では20〜30代の未婚率は、2015年から2040年へほぼ横ばいに見える。
若年層で未婚率は、ひょっとして下げ止まるのか。
調査を実施した国立社会保障・人口問題研究所の担当者に聞いてみた。
ミレニアル女性の8割「結婚に利点」
「1980年代以降に結婚に対する考え方が変わったことを受け、その頃に20〜30代を迎えた高齢者で未婚率が急増するのは事実ですが、今後の若年層については『推計するのが難しい』のが、本当のところです」
国立社会保障・人口問題研究所の研究員、大泉嶺さんは言う。
2015年時点で50歳の人の25年後の婚姻に関する行動は、これまでのデータから予測できるが、2015年時点で生まれていない、あるいは婚姻に関するデータのない15歳未満の人の2040年の婚姻に関する行動は「2000年生まれと同じと仮定して推計しているため、横ばいになる」という。
「早く結婚したい声」が上がるのは、一部に過ぎないのか?
20〜30代半ばの若年層の結婚観については、同研究所による「現代日本の結婚と出産」(2015年)に、興味深いデータがある。
結婚に「利点がある」と感じている男性は1980年代から2015年調査まで、6割台で推移しているが、女性は2000年代以降に微増を続け、1987年時点で70.8%が、2015年で8割近くまで伸びてきた。(対象は18〜34歳の未婚者)。
「結婚に利点がある」と考える男性は、30年前から6割程度と変わらない。
これについて国立社会保障・人口問題研究所の研究員、大泉さんは、育児期の女性の労働力率が下がる、日本特有のM字カーブが緩やかになってきているなどの実態をあげ「結婚・出産を経ても女性が働き続けられる環境が整ってきたことで、女性が結婚による損失を感じにくくなってきたのでは」とみる。
結婚・出産と仕事の二択になりがちだった時代には、結婚がキャリアを継続する機会の損失になった面はあるからだ。
先延ばしにする理由はない
「先延ばしにする理由がない、というのはあると思います」
20代前半女性のキャリアに関するヒアリングを重ねてきた、前出のmanma代表、新居日南恵さん(23)は、この年代の結婚観についてそう指摘する。周囲でも、大学時代の友人がすでに3人、結婚したという。
「バブルの頃の20代とは違って、今の20代女性は自分で稼げます。もっと稼げる男性を……と、待つ必要はありません。また、結婚や出産がそこまでキャリアの足かせにもならないと感じているので、仕事優先で先延ばしということもないです。むしろ、管理職になるなど『仕事の攻めどき』の30代になってから、結婚や出産で悩みたくない、という意識があるのではないでしょうか」
女性が働き続けることがもっと困難だった時代は、結婚相手の男性によって経済力など人生が左右された。新居さんは、その時代が続いていれば「結婚はもっと怖かったと思います」という。
今の20代は、晩婚・晩産化した30代、40代の「仕事と家庭の両立サンプル」がある程度、積み重なったものを見てきた世代でもある。不妊治療や高齢出産での子育ての苦労を見て、とくに女性は、先延ばしのリスクを感じ取っている面もあるのかもしれない。
国立社会保障・人口問題研究所の「現代日本の結婚と出産」(2015年)より作成。
結婚前向き女子と男子の格差
とはいえ、若年層の婚姻率が上がっているわけではない。2015 年の国勢調査でも、男女ともに25〜39歳の未婚率はじわじわと上昇している。
これについて国立社会保障・人口問題研究所の研究員、大泉さんは「男性側の問題もあります。1年以内に結婚する意思のある未婚者の割合は、男性では非正規雇用の人で低く、自営業者や正規雇用と大きな開きがあります(上図参照)。結婚に前向きな女性が増えても、結婚は相手のあることですから」。
労働力調査によると、非正規雇用者の割合は1994年で2割だったのが、2016年では4割近くに増えている。バブル崩壊後の長引く経済低迷下で、企業は雇用調整のために非正規雇用を増やしてきた。この事実は、男性側の結婚意欲の低下に、ボディーブローのように効いている。
(文・滝川麻衣子、撮影・今村拓馬)