ドコモは新しくQRコード・バーコードを併用するモバイル決済サービスを開始する。
NTTドコモはモバイル決済サービス「d払い」を発表した。実店舗ではスマホのアプリにQRコードなどを表示して決済でき、今年4月から開始する予定。
同社は「おサイフケータイ」やクレジットカード「dカード」などで、今までもキャッシュレス決済を推進してきた。d払いは、それらの取り組みと重複・競合するものになる。それでも強行する理由は、彼らの決済戦略そのものにある。
なぜドコモに「d払い」が必要なのか
d払いは、以下の5つの特徴がある。
- iPhone・Androidのアプリ上で表示されるQRコード(もしくはバーコード)を店舗に提示することで決済完了
- 料金は月々の携帯電話料金と合算できる(ドコモ契約者のみ)
- 他キャリアや格安スマホユーザーも使える(無料のdアカウントを取得し、クレジットカードの登録が必要)
- 実店舗では200円につき1ポイント、対応ECサイトでは100円につき1ポイントのdポイントがたまる。1ポイント=1円で利用も可能
- ネットでの支払いは現行の「dケータイ払い+」と統合され、名称もd払いに統一
発表会に登壇したドコモ執行役員 プラットフォームビジネス推進部長の前田義晃氏。
d払いはスマホを使って実店舗で支払いができるサービス。同社ではソニーが開発したFeliCa方式の後払い(ポストペイ)型電子マネー「iD」をおサイフケータイ対応のAndroidスマホおよびiPhone 7シリーズ以降のApple Payで展開している。
同社によると、iDおよびdカード、そして「iモード」時代から続いている電話料金合算払いの取扱高は年々上昇しており、2016年度では2.6兆円規模に達している。
成長傾向の事業分野になぜ、新しい決済サービスを導入する必要があるのか? 同社執行役員プラットフォームビジネス推進部長の前田義晃氏は、d払いの狙いについて「ドコモは携帯電話事業以外のサービス分野での収益の拡大を図っている。決済事業は大きく伸ばせており、(リアルでの決済の多様性が生まれている最近の状況は)チャンスだと思っている」と語っている。
ドコモが展開する決済サービスの取扱高は年々上昇している。
未開拓市場である中小規模の「現金主義セグメント」
d払い導入予定店舗でもあるローソンの執行役員 マーケティング本部長の野辺一也氏が登壇。キャッシュレス化のメリットについて語った。
今回発表されたd払いが利用できる加盟店は、ローソンやマツモトキヨシ、高島屋など、規模の大きい小売り業態ばかりだ。たとえば、ローソンの場合は、QRコード決済先進国中国のアリペイも含め、すでにさまざまな電子マネーなどの決済手段を導入しているが、よりキャッシュレス化を進められれば、「レジの回転率も上がり、お釣りを用意する手間とコストも削減できることから、導入するメリットは十分にある」(ローソン 野辺一也執行役員)。
一方で、なかなか導入が進まず、現金主義が続きがちなのは、中小規模で地域密着型の店舗などだ。導入が進まないのには理由がある。「クレジットカードや電子マネー決済で発生する手数料」(決済手数料もしくは加盟店手数料など)と、新しい決済手段の「導入コスト」の問題があるからだ。
前田氏は質疑応答の中で「中小規模の店舗への導入も戦略的には考えている」とも語っている。
d払いが狙う「本丸」は、この動かざる「現金主義セグメント」の掘り起こしではないか。
ローソンは新型POSレジを順次導入しており、d払い以外のキャッシュレス決済もサポートしている。
「d払い」で中小顧客を開拓する
d払いは、QRコードを利用する仕組みから、さまざまな意味でコストが抑えられる決済手段になっている。QRコードとバーコードの読取機は一般的にFeliCaのリーダーライターより安価。また、場合によっては既存のバーコードスキャナーやタブレット端末などのカメラも活用できる(システムの改修は必要)。
とはいうものの、対応店舗拡大には何らかの営業施策が必要になるが、その時重要になるのがパートナーだ。今回の発表ではリクルートライフスタイル社の「モバイル決済 for Airレジ」など各種POSシステムベンダーとの連携も発表。システムベンターに対応を進めてもらい、POSシステムの導入済み店舗の中小顧客を狙う、という構図だ。
POS関連の企業との連携も強めていく。「モバイル決済 for Airレジ」の「d払い」対応の詳細はまだ未確定な部分が多いが、加盟店審査自体は「Airペイ(クレジットカード決済)と同様で2週間前後」で審査完了ができる見込み。
モバイル決済 for Airレジでは、訪日外国人向けの「アリペイ」「ビットコイン」、日本人向けの「LINE Pay」を利用できる。リクルートライフスタイル広報によると、d払いを店舗側が導入する際は、「LINE Payなどのサービスと同様、iPadなどのタブレットとモバイル決済 for Airレジがあれば利用できる」としている。
モバイル決済 for Airレジ導入済み店舗なら、比較的簡単な手順で「d払い対応」ができることになる。
d払いアプリにはQRコードとバーコードが同時に表示されるので、店舗側の設備によって使い分けられる。
「ドコモ経済圏」取扱高3兆円超に向けた、手堅い戦略
手数料については、まだ具体的な料率への言及はないが「先行しているライバルに負けないようなサービスにしたい」(前田氏)と発言している。競合の事業者を見ると、楽天の「楽天ペイ」は3.24%(一部3.74%)、LINEの「LINE Pay」は3.45%、Origami社の「Origami Pay」は3.25%だ。d払いもある程度競争力ある設定でなければ意味がない。となれば、3%台を打ち出すのではないかと想像はできる。
大規模小売チェーンはFeliCaで取り、中小規模の地域密着型小売店舗はQRコード決済のd払いで取る。どうやらこれが、ドコモが考える、取り扱い決済金額3兆円超に向けた戦略と言えそうだ。
「モバイル決済 for Airレジ」をインストールしたiPadでスマホに写ったQRコードを読み取っている様子。カメラは正面・背面どちらも利用できる。
(文、写真・小林優多郎)