破綻から3年、スカイマークが定時運航率1位に躍り出た3つの改革

「箱根駅伝で言うと、青山学院がぶっちぎりの1位でしょう? 我々はあんな感じを目指してるんですよ」

スカイマークがトップに躍り出た。

1月18日、国土交通省航空局が発表した国内線定時運航率調査(平成29年度上期)で、スカイマークが1位(92.59%)となった。2位のJALにわずか0.1ポイント差で競り勝った。

JAL、ANAの大手2社、スターフライヤー、エアドゥほか、LCCなど国内線11社で同社が首位となるのは、1996年の創業以来初めてだ。同社代表取締役会長の佐山展生は、1位へのこだわりを駅伝に例えた。佐山は年に4回フルマラソンを走るランナーだ。

スカイマーク

国内10都市で1日に130便を運航するスカイマーク。2月には、平昌オリンピックにチャーター便を運航予定。

同社の経営陣は、2017年12月の時点ですでに1位を確信していた。佐山とともに経営を担う代表取締役社長・市江正彦は、次のように振り返った。

「我々は1年以上にわたって、単月の定時運航率95%を目標にやってきました。95%を初めて達成したのが昨年11月。翌月には96%。2カ月連続で達成できたんです。これは、簡単にできることではありません」

朝10時、羽田の本社会議室で「朝会」が始まった。本社役員と、北は札幌・千歳から南は那覇まで、10の支店の支店長がテレビ電話で顔を合わせる15分。平日の朝、毎日行われるこの会議では、市江を座長に、各支店長が順に前日の定時運航率を発表する。会議の音声は同時に各支店で放送される。

「今日は那覇支店に負けた」「今日は札幌に勝った」

支店の社員たちは対抗意識を燃やす。

11月単月の95.1%という結果が担当者より発表されたのは、12月1日のこの「朝会」の場だった。

「やっとついに……という思いでした。ああ、みんな、よくやったなと」

市江が破顔した。

「目指さないと1位にはなれない」

市江正彦氏

代表取締役社長・市江正彦(57)。 日本政策投資銀行時代には航空機エンジンや部品の製造メーカーなど航空業界との関わりも。JAL、エアドゥなど航空会社の再生にも携わった。 幅広く日本経済をとらえる視点を培ったことが、現在の経営に生きているという。東大法学部卒。

95%の壁がどれほど高いかは、例えば、2016年通年での定時運航率1位になったスターフライヤーの92.15%(国交省資料)という数字と比較するとわかる。

「1位をめざすにはどうしたらいいか、という議論の中で、社員の間から出てきた目標数値です。95%を達成すれば、間違いなく1位になれると社員が決めました。佐山さんも私も航空業界の人間ではないから、わかりませんので」

佐山は投資ファンド・インテグラルの代表取締役社長だ。市江は日本政策投資銀行常務取締役執行役員からの転身である。2015年1月にスカイマークが経営破綻した際、佐山の率いるインテグラルがいち早く支援に手を挙げた。市江の古巣・日本政策投資銀行も、出資している。

佐山と市江は、2015年9月より新経営陣としてツートップを組んできた。2人とも、航空業界とは無縁。市江は日本政策投資銀行を退職し、退路を断っての移籍である。2020年9月の上場をめざす。

そもそもスカイマークは、1996年に航空業界の再編と規制緩和の波に乗って、「第3極」の航空会社として誕生した。過去にも経営危機に見舞われながら、破綻前の数年は、ワンマン経営者のトップダウン経営のもと、徹底したコストカットで売り上げを伸ばした。だが、原油高等の経済環境の変化に対応が追いつかず、資金ショートにより破綻。その年度(2014年度)の定時運航率は83.75%。11社中10位だった。

スカイマークは、ホスピタリティがないことに加え「遅れる」「欠航」の多い、「安かろう、悪かろう」というイメージが定着していた。

それが佐山、市江新経営体制になってわずか2年4カ月で1位に躍り出たのである。

「1位をめざそうと言いました。 散策していて気がついたら富士山の頂上にいました、というのはあり得ない。富士山は、目指さないと登頂できません。それと同じで、目指さないと1位にはなれません。それくらい、1位になるのは難しいんです」

と佐山が言う。元高校球児の佐山は、徹底して勝負にこだわる。

運休続きに疲弊する社員たち

スカイマークの再生にあたり新経営陣は、航空会社として守るべき最も重要な「安全」に加えて、公共交通機関として「定時性」を基礎と定めた。2016年10月に社内横断で発足した「定時性向上対策本部」の責任者となった市江には、「定時性」に照準を決めたきっかけがあった。

破綻時のスカイマークには、整備部門だけでも技術、人員など問題が山積していた。整備不良により、国土交通省による機体検査を通過しない機体が増えた結果、機体のやりくりが滞り、毎日5〜6便について「運休」を決定せざるを得ない状況となった。

「すでに予約してくださっているお客様や旅行代理店に、社員たちがお詫びのお電話をするんです。お客様にご迷惑をおかけしたことが申し訳ないのはもちろんですが、先方に厳しくお叱りを受ける社員たちが疲弊していく姿を見て、これはいけない、と思いました」 (市江)

2016年春ごろである。

佐山展生氏

代表取締役会長・佐山展生(64)。 メーカーの技術者を経て、日本のM&A事業草創期に都市銀行でM&A事業立ち上げに参画。独立後、ファンドを共同設立。 インテグラル設立は2007年。独立系ファンドマネジャーの草分け。京大工学部卒。

2015 年1月に経営破綻した際、現場の社員はほとんど全員が、その事実をテレビやネットのニュースで知った。リストラはあるのか、給料は支払われるのか。生活の不安とストレスから、多くの社員がスカイマークでがんばろうという気持ちに切り替わるまでに、半年以上かかっている。

経営支援に名乗りをあげた佐山は支援表明直後から国内の支店を回り、社員に直接、経営再建について説明し、質問を受けつけた。「ファンド=ハゲタカ」と連想し不安を隠さない社員たちに「雇用は守る」と明言し、「一緒に会社をよくしていきましょう」と語りかけ、毎月のように支店を回り、飲み会を重ね、直接の連絡先を設けるなど、信頼関係を積み上げてきた。

経営破綻のショックからようやく立ち直ろうというタイミングで、今度は「運休」によって疲弊する社員たちの姿は、市江に深く刻まれる。

「絶対に遅れたり運休したりしてはダメなんだと。これを繰り返して社員が疲れ切ってしまってはダメだと」

社内の風通しのキーは中間管理職

「定時性向上対策本部」では、本部長・市江のもと、客室本部、空港本部、運航本部、整備本部など、全部門の責任者が集まり、「定時運航率1位」に向けて、議論と業務の改善を始めた。

結果は、みるみる現れる。2016年度は定時運航率3位(89.72%)。2017年8月には単月で初めて1位(92.94%)をとる。そして今回2017年度上期1位となった。同時にグローバルランキングでも初めてランクインし、9位となった(民間航空専門調査会社・OAG 調べ )。

航空会社の基礎である定時性をわずか2年で取り戻した要因として、市江は次の3つのポイントを挙げた。

  1. ひとつの会社であること 大手航空会社が貨物や整備は子会社に委託しているのに対し、スカイマークは航空事業の全てのサービスをスカイマーク自社で行っている。そのため、例えば、ある便が遅れて到着したときに、定時出発のために貨物の部門が作業体制を工夫するなどの協力体制が組みやすい。全ての部署が同じ会社の社員同士だということは、連携や団結にも大きく影響しているという。
  2. 毎日繰り返すこと 毎朝10時の「朝会」で10人の支店長が揃い、定時運航率を発表し、週1回の「定時性検討委員会」で、各部門が持ち寄った問題を議論し、解決する。この繰り返しは紙やネットでは得られない成果につながるという。 「朝会で毎日言ってもらうことが大事。毎日繰り返さないと忘れるんです」(市江)
  3. 風通し 安全と定時性には、上下、横のコミュニケーションが何より重要だ。だが、破綻前はトップダウンのワンマン経営だった同社に、佐山や市江という金融出身者を受け入れる社員側の緊張は、簡単に察することができたという。そこで、市江は200人の社員との個人面談を行うと同時に「風通しをよくする」ための社内研修や、部下が上司を評価する360度人事評価制度を導入した。

「お客様をカウンターで受けて機内にお乗せして、スムーズに降りていただく。これはすべての業務が連携して、バトンをつないでいくような仕事。社内の風通しをよくしてくださいと言い続けました」

市江はこう言うと、風通しに関しては特に中間管理職が大事だとつけ加えた。

「経営陣と現場をつないで、組織の健全なヒエラルキーを構築する重要なポジション。彼らとはなるべく重要な情報を共有し、信頼関係を深めるようにしています」

「まだ15キロ地点」

スカイマークの佐山会長と市江社長

遅延や欠航に備えて予備機を1機用意している。年間30数億円を売り上げる機体をあえて寝かせて、定時性を優先する。 現在の26機に加え、2018年は新たに1機、2019年は2機を投入予定。

佐山は搭乗すると必ず乗客にマイクで挨拶をする。折りに触れ、乗客や乗員の表情の変化を感じていた。

「お客様が確実に満足してくださっています。それと、乗務員がみんな時間を意識して動いている。その動きは全く前とは違います」

あるパイロットは、乗務意識の変化を次のように佐山に打ち明けた。以前は自分たちの守るべきことだけをやっていた。でも、今は時間通りに飛ばすために何をするべきか、という観点で動くようになった、と。

搭乗人数国内2位の激戦路線である羽田—福岡便では大手2社の定価4万1390円に対し、スカイマークは2万2190円。 「安くて日本一遅れない航空会社であれば、お客様は自ずと我々を選びます。しかし、ぶっちぎりの1位にならないと過去のイメージは払拭できません。だから2位ではダメなんです。次の目標は、お客様の満足度日本一です」(佐山)

スカイマークの経営目標は「日本一お客様に愛される航空会社」である。

定時運航率は、誰も口にしなくなるくらい当たり前にならないとダメ。そして、お客様の満足度日本一もダントツの1位を狙うという佐山は、現状をフルマラソンに例えた。

「いまは15キロ地点。予想通り、順調にキツいですよ」

(本文敬称略)

(文・三宅玲子、写真・今村拓馬)

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