「もはや、コンシュマー・エレクトロニクス・ショーではなく、モーター・ショーではないか?」
そんな嫌味が旧知のアメリカ人ジャーナリストの口から飛び出すほど、CES 2018はクルマの技術展示であふれていた。なんといっても、ここネバダ州では自動運転車が公道を走ることが許されている。それゆえ、自動運転のデモ走行を体験できるのも、CESの醍醐味だ。
仏ヴァレオの自動運転車「大雨試乗の結果は?」
私は今年、招待者のみが体験できるフランスの大手部品メーカー「ヴァレオ」のデモ走行に同乗してみた。
ヴァレオのレーザースキャナー「Scala」。
ヴァレオは自動運転において重要な役割を果たすレーザースキャナー「SCALA」を自社開発している。145度の視野で150m先まで検知できるもので、CES 2018では「ドライブ4U.ai」という自動運転システムを持ち込んだ。
100日ぶりという土砂降りの雨の中、自動運転でのデモを危なげなく披露した。
「ドライブ4U.ai」では、レーダーや超音波センサーといった基本的なセンサーに加えて、自社製レーザースキャナ「SCALA」とカメラを搭載している。これらのセンサーから得た情報からSLAMというアルゴリズムを使って、リアルタイムで周囲の障害物を検知し、クルマの周囲の地図を作りながら走る。AIによって学習することにより、周囲のクルマの動きを予測し、死角に入ってしまったクルマも含めた判断を瞬時に行える。
車載ディスプレーに走行中の道路の周辺情報が表示されていた。車の周囲の情報はリアルタイムで認識されているものだ。
この日は、ラスベガスでは珍しく土砂降りの雨だったが、危なげない様子のまま自動運転で走り切った。混雑した道で前にクルマが連なっているときは、交通の流れに沿ってじわじわと前進し、右折左折も難なくこなした。
もともと、ラスベガス周辺では強い太陽で白線が焼けて見えなくなるため、ボッツドットと呼ばれるキャッツアイ状の突起物が白線の役割を果たしている。白線と比べると、車線を隔てる線が読み取りにくく、雨で路面が反射して、肉眼でも視界が悪いことこの上なかった。そんななか、完全な自律運転ができることに驚いた。
クルマの使い方を変える日立の「自動駐車」
隣接するブースでは、日立オートモーティブシステムズが同グループのクラリオンと組んで、自動駐車のデモを披露した。日立は自動運転の技術も持っているが、国土の広いアメリカでは自動運転以上に自動駐車の需要が大きいとみて、今年は自動駐車のデモに特化して発表した。
インフィニティ「Q70ハイブリッド」をデモカーに選んだ理由は、足回りなどに日立オートモーティブシステムズ製の部品を多く採用しており、自動で制御しやすいからだ。
日立グループの力を合わせた自動駐車のデモを体験。大型ショッピングセンターなどの駐車場でクルマを降りた後にスマホで遠隔で駐車ができる。
駐車位置の情報は、インフラ側から提供してもらうことで車載デバイスをできるだけシンプルにしている。
デモカーに同乗しての体験では、自宅が近いことを検知して、自動で自動駐車モードがオンになる。これはGPSによる位置情報で「自宅」を検知しているからだ。さらに、自宅玄関に想定した位置でいったん停車して、同乗者を降ろし、自宅の車庫にアメリカ流に頭から自動で駐車する。
自宅駐車にあたっては、例えば、子どもが自転車を乗った後、片付けずに車庫に放り出してあったようなときでも、リアルタイムでもクルマの周りを検知して、障害物を避ける。チャイルドシートで寝てしまった子どもを先に自宅で降ろした後、自宅から遠隔で自動車庫入れすることなども可能だ。
自宅での駐車を想定したデモ。
もうひとつ、大型ショッピングセンターなどの駐車場を想定したデモも見学した。クルマを降りた後、スマホで操作すると、先行する別のクルマが移動したのちに、自動駐車をスタート。カメラで白線を認識し、駐車できるスペースを検知すると、自動で駐車される。
さらに、スマホの操作で自動での出庫も可能だ。この技術が実用化されれば、イケアやイオンのような大型ショッピングセンターに行っても、駐車場のはるか遠くに止めたクルマから歩いてきたり、買い物したものを抱えてクルマに戻ったりしなくても済む。
ショッピングセンターの駐車場を想定していたデモ。
アメリカならではの需要だが、強盗などに対する防犯の観点からも、自動駐車の要求が高いという。
注目したいのは、搭載するセンサーが現在の高度ドライバー支援(ADAS)に使われている、360度の画像を合成できる「サラウンドアイカメラ」と「ソナー」だけで済んでいるということ。自動駐車用の特別なセンサーの追加はしていない。駐車場の情報を提供してもらうことに加えて、コントロールセンターとつながることで自動駐車に対応する仕組みだ。
ゲームチェンジャー・NVIDIA、異例のVW社長が「ゲスト」
自動運転の技術を語るのに欠かせないのが、いまやAI銘柄の一丁目一番地となった半導体企業、NVIDIA。CESでは長らく注目されてきた企業だ。2011年にアウディがCESに乗り込んだ段階ですでにパートナーシップを結んでおり、自動運転やコネクテッド・カーのための技術を担うプレーヤーへと成長してきた。いまでは、車載グラフィックやAIコンピューティングに関して、NVIDIAなしでは語れない。
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詳細は先行する記事に譲るが、自動車業界で話題になったのは、フォルクスワーゲン・ブランドのCEOを務めるヘルベルト・ディース博士が、NVIDIAのカンファレンスに登壇したことの驚きだ。
NVIDIAのファウンダーであるジェンスン・ファン氏による基調講演に、フォルクスワーゲン・ブランドのCEOであるヘルベルト・ディース博士が登壇。フォルクスワーゲンでは、自動運転の開発に関してNVIDIAと長年手を組んでおり、自動運転でも最新技術を搭載すると宣言している。
自動車業界の常識からすれば、VWほどの巨大自動車メーカーのトップが、他社のプレスカンファレンスに「ゲスト」として登壇するのは異例中の異例。CESならではの光景だ。
NVIDIAのジェンスン・フアンCEOがかしこまって「Dr.Diess」と呼ぶと、「いつものようにハーバートと呼んでいいよ」とディース氏が笑うなど、2社のトップが密にやりとりしている様子が垣間みられた。
ここではフォルクスワーゲンのEVブランドとなる「i.D」コンセプトカーである「i.D.BUZZ」に、自動運転用ソフトウェアであるドライブIX」を搭載すると発表した。
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NVIDIAはUberと組んで自動運転車の開発をすると宣言している。
トヨタは新たなプラットフォームを発表
トヨタの記者発表では、社長の豊田章男氏を先頭に、コネクテッドカンパニープレジデントの友山茂樹氏、米シリコンバレーTRI所長のギル・プラット氏などが登壇、トヨタの次世代モビリティを牽引する顔ぶれが揃い踏みだった。
トヨタは「e-Palette Concept」で自動運転にも関わる重要な発表をしている。詳細は別のリポートに詳しいが、トヨタの自動運転研究所TRIのギル・プラット所長は筆者の取材に対し、次のように意欲的なコメントをしている。
TRI所長のギル・プラット氏。
「自動運転については、トヨタ独自のガーディアンという考え方を基本としています。人間の運転をサポートするという思想は、そのまま他社によって開発された自動運転の開発キットをトヨタが安全にガイドすることも可能ということです。
人やモノが動くことをひとつのパッケージとして捉えると、人びとはもっと、クルマの中で自由になれます。そんな時代に提供すべきモビリティ・サービスのためのプラットフォームが、今回発表した『eパレット・コンセプト』に搭載されています」
トヨタは「信頼おけるハードウェア製造企業」であることに加えて、自動運転の基盤としての役割を担い、自動運転車の制御や使い方は、トヨタの自社だけではなく、外部に広くパートナーを募って、多くのサービス提供者が参加できる仕組みを作る方針だ。
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中国バイドゥと続々提携する大メーカーたち
百度(バイドゥ)も、自動運転の技術に積極的だ。すでに2017年半ばに、自動運転の技術開発で50社と連携する「アポロ計画」を発表している。これは、バイドゥが「アポロ」と呼ぶAIを活用して、自動運転車を制御するソフトウェアの情報をオープンソース化して、参加する企業が自由に開発できる環境を提供するものだ。
プレスカンファレンスでは同社の最高執行責任者(COO)のQi Lu氏が登壇した。
自動車メーカーでは、フォードやダイムラーに加えて、第一汽車を始めとする中国の大手メーカーが続々と名を連ねる。デルファイ、コンティネンタル、ボッシュ、ZFといった大手サプライヤーはもちろん、NVIDIA、インテル、マイクロソフトなどのIT企業も加わっている。
バイドゥは2018年のうちに特定の条件下において、高速道路と一般道での自動運転ができるまでに開発を進め、2020年には実用化を目指すと宣言した。CES 2018では、アポロ2.0の詳細を明らかにし、HDマップ、センサーパッケージに加えて、インテル、NXP、NVIDIA、ルネサスといったコンピューティング・プラットフォームへのフルサポートが提供される。
ハンドルもアクセルもブレーキもない
トヨタの発表の直後、アメリカの自動車メーカー最大手、ゼネラル・モーターズ(GM)は、完全自動運転の技術を積んだ「クルーズAV」の公道走行許可を米運輸省道路交通安全局に申請した。この時期に発表したのは、CESの直後に自動車展示会「デトロイトショー」が控えていたためだが、驚くことにハンドルやアクセル、ブレーキ、さらには操作系のスイッチすらない。GMは、2019年までに自動運転車の公道走行を成功させる計画で、市販を前提にしている。
筆者自身、クルマ好きが高じて自動車ジャーナリストになっただけに、完全自動運転の未来に切なさを感じないわけではない。とはいうものの、世界最大級の自動車メーカーの関心が、クルマの製造から自動運転の時代の到来に備えたモビリティ・サービスの提供へと移り始めたのは事実だ。
CES2018では、それを改めて実感することができた。
(文、写真・川端由美)
川端由美:メーカーのエンジニア職からメディア業界に転身、二玄社の自動車雑誌『NAVI』の編集記者、『カーグラフィック』編集部を経て2004年に独立。現在は、フリーの自動車ジャーナリストとして、自動車のエコロジーとテクノロジーを中心に追う。2013年からワールド・カー・オブ・ザ・イヤー/グリーンカー・エキスパート、2015年からインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー選考員。