テクノロジーで育児を変える「ベビーTech」ビジネスを目論む海外ベンチャー

育児にかかる負担を「課題」ととらえ、テクノロジーで「軽く」「楽しく」解決することを狙う「ベビーTech」。日本にはまだ上陸していない事業分野やアイデアはいくつもある。CES2018の展示からその一端を考察していきたい。

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babytech

1月上旬に開催された世界最大級のテクノロジーショーCES2018では、ベビーTech専用の展示エリアがあった。IT業界でこの名称がメジャー化していることが感じられる。

ベビーTechとして設けられた専用エリアには、10社以上がブースを設けていた。サービス内容は、子どもの学習意欲を高めるゲーム、苦手な歯磨き克服のトレーニングデバイスから妊活をサポートするデバイスまで、幅広い。

どのサービスにも共通して言えることは、従来は親が苦労して子どもの関心を惹きつけたり、睡眠時間を削って見守ったりしてきたものを、テクノロジーによって解決しようとしていることだ。

2歳の娘を育てる母親でもある筆者は、テクノロジーが発展したからといって、完全に育児が「ラク」になるとは思わない。とはいえ、多少なりとも今まで苦労し、もがいてきたことから解放され、「楽しむ育児」に時間を割けるのならば、そのテクノロジーには意味がある。

例えば、下記で紹介するハンズフリー搾乳器などは、自分の授乳中にあったらどんなに便利だっただろうと何度もうなずいたし、不妊治療を経て妊娠した身としては、妊活サポートをしてくれるデバイスの話を聞いたときには思わず涙がこぼれそうになった。

寝ている間に心拍数を測るモニターにしても、多くの親が過度に子どもの生死を心配することなく眠れると知ったら大喜びすることだろう(実際には夜泣きでそうはいかないとしても……)。

今、私の娘は歯磨きが嫌いで、歯磨きの時間になると口を固く閉じて一向に開こうとしない。娘は目に障害があるので、今回紹介する歯磨きトレーニングのアプリはもしかしたら使えないかもしれない。

しかし、ベビーTechの発展はいずれそんな娘が抱える問題も乗り越えてくれるはずだ。CESに出展していた製品からは、そんな期待が持てた。

歯磨きの時間を楽しくするスマホアプリ

majik

歯磨きコーチアプリ「majik」のアプリ画面。

子どもにとって歯磨きは退屈な時間だ。どれだけ親が工夫しても、子どもにとって、2分間じっとしていることはラクではない。歯磨きできるようになっても、正しく磨けているとは限らない。

「CES イノベーションアワード 2018」(※)を獲得した、Kolibree社の「magik」は、退屈な時間を楽しく、そして正しい磨き方を学ぶためのトレーニング時間に変えてしまおうという製品だ。

magikは、ARを活用したスマートフォン向けゲームアプリと連動するスマート歯ブラシで、6歳から12歳の子どもが対象。ゲームを通じて15の想像の世界に行き、そこで遭遇した悪いモンスターたちと戦うという設定だ。

子どもたちが歯ブラシを持ちスマートフォンの前に立つと、ARによって画面上の子どもたちの顔に“強力なパワーを持ったマスク”が被せられる。歯ブラシをどこに当てるか、どう動かすかというアプリの指示に合わせて、歯ブラシを動かしていくとモンスターを倒せる仕組み。歯磨きの結果はアプリに保存されるので、親は後から子どもがしっかり歯磨きできたか確認できる。

※毎年CESで開催される表彰プログラム。28の製品分野で、品質やデザイン性、革新性などの評価基準で審査される。

Paybrushの展示

Playbrushの展示風景。歯ブラシの下に装着しているのがセンサーデバイスだ。

同じような仕掛けを持たせたのが、オーストラリア発の「Playbrush」だ。こちらはARではなく、市販の歯ブラシを装着して使うBluetooth搭載のアダプターと、連動するスマートフォン向けゲームアプリを使う。

歯ブラシの動きや位置に応じて、モンスターを倒す、お絵かきをする、ダンスのチャンピオンになるなど、用意されたゲームのうち2つで遊べる。対象は3歳から12歳。他のゲームにもアクセスできたり、3カ月に1回歯ブラシや歯磨き粉が送られてきたりする有料のサブスクリプションモデル(定額制)も用意している。

また、子どもたちが歯磨きをすればするほど、アプリ上でポイントを集められその数を世界中のユーザーと競い合うことができる「リワードプログラム」も採用している。子どもたちが定期的に歯磨きをしてポイントを集めると、サブスクリプションモデルに加入している家庭は、PayPalを通じてキャッシュバックを得られるという。

寝ている赤ちゃんの呼吸状態を遠隔でモニタリング

Cocon Cam Clarity

ベッド脇に立てられた金属の棒の先についているのが「Cocoon Cam Clarity」。呼吸や睡眠状態の把握を、センサーの装着などなしにカメラ映像の機械学習処理で行う点が特徴。

アメリカでは子どもの自立を促すため、幼少期から一人で寝かせる家庭が多い。けれども、生まれたばかりの子どもは「乳幼児突然死症候群」の危険があるほか、寝返りができるようになると窒息の恐れもあり、就寝中は注意する必要がある。

寝ている赤ちゃんの様子をベビーモニターで監視する家庭も多いが、従来製品は「赤ちゃんが泣いている」「起きた」ところまでは分かっても、呼吸をしているかまで把握するのは難しかった。そうした親の心配をテクノロジーで解消しようというのがこの種の呼吸モニターだ。

1つめは、シンプルなアルミ製の棒状カメラをベビーベッドに設置し、赤ちゃんの状態を見守る「Cocoon Cam Clarity」。画像認識技術と機械学習を使用して、乳幼児にセンサーを装着したりせず、呼吸状態などを追跡できることが特徴だ。呼吸の状態がおかしいと判断すると、Wi-Fiを通じて親のスマートフォンやタブレットに通知する。

赤ちゃんの状態は、1080pのフルHD動画でモニターできる。スピーカーとマイクを内蔵しているので、赤ちゃんの泣き声を拾うだけでなく、Cocoon Cam Clarityを通じて親が直接話しかけることもできる。呼吸や睡眠状態はリアルタイムにモニターされ、収集した情報はアプリに蓄積されるため、以前よりもよく眠るようになったなどの変化も自然とわかるようになる。

Cocoon Cam Clarity App

Cocoon Cam Clarityのアプリ画面。

2つめの「Owlet Smart Sock2」は、赤ちゃんが寝ている間、心拍数や酸素飽和度を計測する靴下型のデバイスだ。

Owlet Smart Sock2

「Owlet Smart Sock2」の装着イメージ。足に靴下のように履かせて使う。

Owlet Baby Care

大人は医療機関で酸素飽和度等を計測する際、パルスオキシメーターを手の指先にはめて使うが、同製品は赤ちゃんの足の甲からカカトを包むように装着し、寝ている間計測し続ける。

異常値を検知した場合、靴下型デバイスとBluetooth接続された丸型の端末が点滅。またアラート音が鳴り、親に警告する。データはスマートフォンに自動転送され、親はいつでも数値の確認ができる。同製品は2年前に「CESイノベーションアワード2016」を受賞している。

出先や仕事中でも使える「ウェアラブル搾乳器」

夫婦共働き家庭が多く、4人に1人が出産後わずか2週間で社会復帰すると言われているアメリカ社会では、搾乳器の使用が欠かせない。

子どもを産んだばかりの母親が職場に専用器を持ち込み、仕事の合間に搾乳するからだ。ところが多くの搾乳器はコードレスでない上に、胸からポンプが外れないよう両手で抑え続ける必要があったり、なかには手動式でずっと手を動かし続けなければならなかったりするものもある。どちらにしても1回15分程度時間を拘束され、これが3時間おきにやってくる。両手を使えず、動けない。この不便を解消しようというのが、ハンズフリー型の搾乳器だ。

1つめの2017年から連続出展した「Willow」は、ブラジャーの中にデバイスを入れ胸に装着して使うウェアラブル搾乳器。中に専用のミルクバッグが入っており、搾乳した母乳は自然とそこに溜まる。搾乳が終わればバッグを取り出し冷蔵庫に入れるだけで良い。専用のスマートフォンアプリもあり、搾乳時間、左右の胸から出した母乳の量、過去の搾乳に関する情報などを確認できる。音は静かで、同社によると「会議中でも使用できる」という。色は白とグレーの2色で、それぞれサイズは1種類。

willow

ウェラブル搾乳機のWillow。会議中でも自動で搾乳できるほど静かだという。

次の「Freemie」もWillowと似た仕組みだが、ブラジャーの中にしまう搾乳パーツのサイズが25mmと28mmの2種類ある。搾乳のスピードやレベルを調整したりするためのコントロール端末もあり、チューブで搾乳パーツと接続し使うが、母乳はチューブには流れず搾乳パーツでストップする設計になっている。一見すると搾乳中には見えないので出先や仕事中、外でお茶をしている間など場所や時間を選ばずに使用できる。

もしオフィスで搾乳中に人が来たなどの緊急事態が起きても、「チューブを外せば(さらに)気づかれない」と、開発者で女医のStella Dao氏は言う。溜まったミルクは、ボトルなどに移し替えて冷蔵庫で保管する。連携するスマートフォンアプリはなく、単体で動作する。

freemie

Freemieはチューブを外せば、他人からは搾乳中だと気づかれないという。

(文、写真・公文紫都)


公文紫都(くもん・しづ):フリーライター。青山学院大学卒業後、IT関連企業、新聞社勤務を経て、2012年に独立。国内外の IT、EC業界を中心に取材・執筆。2014年から夫の海外転勤に伴い、ニューヨークへ。体重570gで誕生した超低出生体重児の女の子の母。個人のブログ「Purple and the City」で育児記録を綴っている。 著書に『20代からの独立論(前編)』『20代からの独立論(後編)』。

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