波乱だった伊藤忠の社長人事、ダークホースがなぜ射止めたのか

伊藤忠商事が社長交代を発表した。

2018年4月1日付で鈴木善久専務執行役員が社長兼最高執行責任者(COO)に昇格、岡藤正広社長は会長兼最高経営責任者(CEO)に就く。在任期間中に連結純利益を業界4位から2位に引き上げ、言動が何かと注目を集めた岡藤氏の後任選びをめぐっては、さまざまな観測記事が流れたが、射止めたのはダークホース。なぜか。

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ダークホースが社長の座を射止めた伊藤忠人事の裏側には何があったのか。

Reuters

「ポスト岡藤は岡藤」という声

ポスト岡藤は誰か。

取り沙汰されていたのは、岡藤氏の側近で最高戦略責任者(CSO)の肩書きを持つ岡本均代表取締役専務執行役員、伊藤忠インターナショナル会社社長兼CEOの吉田朋史専務執行役員、アジア・大洋州総支配人の福田祐士専務執行役員、米倉功・伊藤忠7代目社長の実子である米倉英一専務執行役員ら。

中には「ポスト岡藤は岡藤」という見方もあった。それはこういう理屈だ。

2014年、伊藤忠はタイの財閥、チャロン・ポカパングループと組んで、中国国有コングロマリットのCITICの上場事業子会社に1兆2000億円を投じた。伊藤忠の出資額が6000億円と巨額だったこともあり、取締役会は紛糾したが、岡藤氏が押し切ったといういわくつきの投資案件だ。

社長任期はおおむね6年というのが伊藤忠の慣習。2年前の2016年に就任6年を迎えた岡藤氏は退任時期を迎えていたが、社内向けに異例の続投宣言をしている。CITICへの投資が実を結んでいないのに、勇退すれば敵前逃亡ではないかという批判を避けるためだったとされる。

CITICの現状は変わらない。だからさらに2年続投するという見立てが浮上、「ポスト岡藤は岡藤」と言われた。今回の人事で伊藤忠は初めてCEO、COOというポストを設け、岡藤氏は会長兼CEOとなる。実質的な伊藤忠の顔は変わらないわけだから、この観測はある意味で的を射ていたと言えるだろう。

それにしても鈴木氏の名前はなぜ事前に上がらなかったのか。

鈴木氏は東京大学工学部を卒業後、伊藤忠に入社し、航空機部門に配属された。2003年には48歳という若さで執行役員に昇格、当時は「いずれ社長になる男」と言われた人物だ。さかのぼる1998年には伊藤忠の9代目社長になった丹羽宇一郎氏の秘書になっている。

2007年、伊藤忠の米国本社である伊藤忠インターナショナルCEOに就いたが、2011年3月期の同社の決算が悪化。「その時の言い訳が岡藤氏の逆鱗に触れた」(伊藤忠関係者)と言われている。同年6月、伊藤忠グループで、航空機の内装品を手掛けるジャムコに飛ばされた。

一度は終わった男。さらに岡藤氏とそりの合わなかった丹羽氏の秘書だったという経歴が加わり、ポスト岡藤として名前が挙がらなかったのである。

後継人事の鉄則は「寝首をかかない人」

そんな鈴木氏がよみがえった。

伊藤忠は繊維、金属、食料など7つのカンパニーに分かれている。鈴木氏は2016年4月、伊藤忠に復帰。情報・金融カンパニープレジデントとなった。2018年1月18日に開かれた社長人事の記者会見で、人工知能(AI)などの技術革新が急速に進む時代に即したビジネスモデルを構築するため、ITに通じた人材が社長になったニュアンスを前面に出したが、残念ながらこれは後付けの理由だろう。

商社用写真

せっかく憧れの商社に入っても嫌気が差して辞める若手社員が後を絶たない(写真はイメージで本文とは関係がありません)

撮影・今村拓馬

「ジャムコに行ってから岡藤氏への態度を改めた」(伊藤忠幹部)という解説もあるが、「一度、岡藤氏に切られているだけに、永遠に忠誠を誓ったのだろう」(別の伊藤忠幹部)という指摘の方が、恐らく真実に近い。

「岡藤氏は丹羽氏に引き上げられたが、社長になると丹羽氏の伊藤忠での影響力を完全にそいだ人。企業では必ず“あるじ殺し”が起きるが、岡藤氏は自分がしたことを決して繰り返さない人を後継者に選んだのだ」(前出の伊藤忠幹部)

「後継者は自分の寝首をかかない人」は長が後継者を選ぶ時の鉄則。それは同じ商社業界で2017年末に社長交代を発表した住友商事でも同じことが言える。住商社長の中村邦晴氏は後任に兵頭誠之専務執行役員を選んだ。

住商は代々、鉄鋼部門が社長ポストを射止めてきた。しかし中村氏は機械部門出身。非鉄鋼部門として初めて社長になった人物だ。後任の最有力候補は南部智一・専務執行役員で、「鉄鋼部門への大政奉還」と目されていたが、中村氏は結局、自身と同じ機械部門の兵頭氏を選んだ。

「同じ機械部門でも中村氏は自動車、兵頭氏は電力。厳密に言えば畑は違うが、鉄鋼部門に政権を戻すよりも寝首をかかれる可能性は低い」(住商幹部)

かくして総合商社の人事は決まっていくわけだが、気になることがある。人選の基準が、極めて社長の事情によっているということで、10年後、30年後の会社の姿を想定して、それにふさわしい人物を選んだというわけではないことだ。

相次ぐ社長のお手盛り人事。総合商社から就職の内定をもらう人は就活の“勝者”と言えるだろうが、せっかく入ったのに退社する人が後を絶たない。それは若い世代が、こうした人事の恣意(しい)性があまりにも目に余ることに辟易(へきえき)しているからでもある。

(文・悠木亮平)


悠木亮平(ゆうき・りょうへい):ジャーナリスト。新聞社や出版社で政官財の広範囲にまたがって長く経済分野を取材している。

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