ジャパンディスプレイは自社のタッチ液晶技術を活用したガラス式指紋センサーなどを発表した。
日立や東芝、ソニーらの液晶事業を統合し2012年に事業を開始した「ジャパンディスプレイ」(以下、JDI)は、スマートフォン向け液晶や車載向け液晶の製造が売り上げの大部分を締める、ディスプレイ技術企業だ。
2016年度第4四半期および2017年度第1四半期では、欧州や中国向けのスマートフォン用ディスプレイの売り上げが下落するなど、スマホ分野以外でのビジネスの拡大が課題だ。
センサー技術を活用し新規事業の開拓
JDI執行役員でディスプレイソリューションズカンパニー社長の湯田克久氏。
JDIは2017年10月1日付けでカンパニー制に移行した。
課題となっている「スマホ分野以外」を担当するのが、3社あるうちのひとつで、今回事業説明会を開催したディスプレイソリューションズカンパニー(以下、DSC)だ。なお、車載向けに関しては、車載インダストリアルカンパニーが担当している。
DSCの湯田克久社長は、JDIの今後を担う可能性のある自社事業を「センサー事業でディスプレイの枠を超えて果敢に攻めていきたい」と意気込みを見せている。
そのDSCが新事業として期待するのが「ガラス式指紋センサー」と「電子ペーパー棚札」だ。
「単純な価格競争には両足を突っ込まない」
ガラス式指紋センサーは、スマートフォンやデジタルカメラ向けの同社製タッチ液晶に使われている「Pixel Eye」技術を応用したもの。DSCのガラス式センサーは、すでに多くのスマートフォンに搭載されている指紋センサーと同じく、指紋の凹凸を静電容量で読み取る方式。
現行の指紋センサー(シリコン式)に比べ、「透明であること」と「サイズの自由度が効く」ことから、扉の取っ手やカード形状のものなど、多彩なシーンでの利用が可能だ。
湯田氏によると、精度は「シリコン式のものと変わらない」、価格は「(大きさにも左右されるが)シリコン式より高いというわけではない」と説明する。メーカー向けの出荷は2018年度中を予定。
なお、「このセンサーをスマートフォンに応用すれば、ディスプレイに触れるだけでロック解除ができる指紋センサーが実現できるか」という質問に対しては「技術的には開発時間はかかるが可能」と答えた。一方、拡大戦略に対しては、「(スマホなどのレッドオーシャン分野特有の)単純な価格競争には両足を突っ込まない」と、冷静な姿勢も見せている。
静電容量式ガラスセンサーの組み合わせ例。ガラスを樹脂に替えれば曲面形状のパーツにも利用できる。
ガラス式指紋センサーは、透明なので認証の可否や操作方法を液晶で示せる。
一方、電子ペーパー棚札は2016年11月にJDIと業務提携が発表された台湾・E Ink Holdingsとの共同開発によるもの。スーパーの値札などの置き換えられる製品で、電子ペーパー特有の省電力性の高さと、紙に印刷したかのような良好な視認性を特徴としている。
アメリカや中国などの海外の店舗ではすでに実績あるジャンルの製品だが、アジア圏の店舗によくある棚のサイズ幅(90または120cm)、漢字もつぶれずに表示できる198ppiの高精細度電子ペーパーを採用するなど、国内を含むアジア圏でのニーズに最適化している。こちらはすでにサンプル出荷がはじまっており、2018年夏から秋を目処に量産出荷するという。
今回の電子ペーパー棚札は最大で3色(白、黒、赤または黄)で文字や絵を表現できる。内蔵バッテリーで約5年間駆動でき、バッテリーの交換は可能。
2020年度末までに売上高1000億円を目指す
現在、DSCの売り上げを支えているのは、第一にデジタルカメラ向け液晶、その次はウェアラブルデバイス向け液晶、ハイエンドノートPC向け液晶などだ。当然、これらの分野の開発は続けていきながら、今回の新規事業を立ち上げ、「2020年度末までには1000億円規模の売上高を目指す」(同氏)としている。
2020年度までに1000億円規模を目指すJDIのディスプレーソリューションカンパニー。
現在の規模感からすれば、JDI全体の収益にはすぐ好影響が出る事業とは言えない。しかし、IoT分野の発達でさまざまなものがインターネットにつながる昨今、表示機器もセンサー機器も小ロットかつ柔軟な対応ができる製品が求められてくる。
JDIとしては新しい市場に対して自社のセンサー技術をうまく活用し、ビジネスにつなげていきたい考えだ。
13型3K・2K液晶などはCES 2018発表ハイエンドノートPCに採用されている
スマートウォッチや活動量計など向けの反射型ディスプレイも手がける
“VR酔い”を抑えられる高精細VR専用ディスプレイも開発
超低消費電力ディスプレイは社員証などに使われるかもしれない
段ボールの宛先ラベルが液晶になる未来も予想しているようだ
荷物の宛名ラベルが表示されていた箇所が、送り主からのメッセージになるデモも行われた。
(文、撮影・小林優多郎)