米国で再燃する中国脅威論——「強い中国は脅威」から卒業するには

中国脅威論が再燃している。

米国防総省は中国を米覇権に挑戦する「最大の脅威」と言い放ち、研究者はリスクの第1位に「権力の空白を好む中国」を挙げた。日本の大手メディアも「経済脅威論」から「中国経済への過度の依存」を戒める。

冷戦終結から約30年。中国崩壊論が「崩壊」した後、それに代わる新たな脅威論をどう読めばいいのか。

トランプ氏と習近平氏

トランプ政権の「アメリカ第一」による影響力衰退への危機感から、中国脅威論が再燃している。

REUTERS/Jonathan Ernst

新年早々、脅威論をぶち上げたのは、世界政治リスクのリサーチやコンサルティングを行う米ユーラシア・グループ代表のイアン・ブレマー氏。彼は1月2日、「2018年の世界は地政学的に過去20年で最も危険」とし、今年の「世界10大リスク」の第1位に中国を挙げた。「中国は権力の空白を好む」がその理由だ。

続いてマティス米国防長官は1月19日、「国家防衛戦略」を発表し、中国をアメリカの覇権に挑戦する最大の脅威とみなした。そして「対テロ」戦略を転換し、中国、ロシアとの長期的な「戦略的競争」に備える方針を打ち出したのである。

2人に共通するのは、トランプ政権の「アメリカ第一」によって加速するアメリカの影響力後退への危機感である。そして中ロが「力の空白」を埋めつつあることに対抗し、軍事力によって覇権を維持しようとする古典的な脅威論である。

これに対し中国は直ちに「『冷戦思考』や『ゼロサム』ゲームで頭がいっぱいになっている人間には、世界が競争や対立に満ちたものにみえる」(1月19日、新華社電)と批判した。

背景には大国のパワーシフト

中国脅威論は今に始まったわけではない。1989年の「冷戦後」、西側世界はソ連という敵を失い、台頭する中国を新たな「敵」とする言説が出る。しかし米一極支配が揺らいだわけではない。2001年の「9・11」でアメリカは「対テロ戦争」を優先し、中国も協力したことで、欧米では脅威論は鳴りを潜めた。

いま再燃しているのは「ポスト冷戦後」の脅威論である。トランプ政権がTPPや「パリ協定」を離脱し内向きに転じ、中国がそれに代わって自由貿易や国際協調の旗を振る。政治も経済も、米一国では決められない時代。一極支配は瓦解した。

中国は、「一帯一路」(習近平総書記が提唱した経済圏構想)で、経済活動を国内市場から地球規模に拡大した。経済の実力が伴うと、「脅威」のリアリティーが高まる。脅威論の最大の背景は「大国のパワーシフト」(大国間の重心移動)である。秩序交代期には、旧秩序側が新秩序を叩こうとする力が働くのは避けられない。「通過儀礼」とも言える。

新脅威論のもうひとつの特徴は、中国の一人勝ちを警戒する「経済脅威論」。この20年、日米中三国の経済力は大きく変化した。日本の国内総生産(GDP)は1994年に、世界のGDPの18%を占めたが、今や5%台に低下。一方の中国は、同時期の3%台から2015年には15%と完全に日本を逆転した。一方、1984年に35%台だったアメリカのシェアは24%に低下した。中国経済の実力を裏付けるデータである。

脅威論の具体的な事例を挙げる。

日本を代表する経済紙は、米国依存だったアジアの経済構造が変化し、2030年ごろにはアジア経済の「中国化」が加速するという分析記事を掲載した。記事は「中国の東南アジアや日本への経済波及効果は(2030年に)2015年の1.8倍になり、米国より4割も大きくなる」との専門家試算を引用し、中国化が加速すると予測した。的確な分析だと思う。

米の圧倒的な経済力を過大評価

習近平氏

中国は陸路と海上で巨大な経済圏、一帯一路を形成しようとしている。

しかし、ミャンマーのロヒンギャ問題を挙げながら「中国の求心力が強まる一方で、米国の民主主義を促す力が低下する恐れが強い」と書き、「アジアの市場経済化や民主化の流れが滞る懸念」とする部分はうなずけない。特に「かつては米国の突出した経済力がアジアの民主化を促す原動力だった」という見立ては、陳腐である。

経済発展と民主化の関係はある。米同盟国で独裁下にあった韓国、台湾、フィリピンは1980年代に次々と民主化した。経済発展が中産階級を産みだし、それが民主化を要求する内在的要因になった。

さらに、米中和解(1972年)やベトナム戦争終結によって、経済建設を優先できる外在要因が後押しする。アメリカは独裁政権を支える政治的動機が薄くなったから見放したのであって、「米国の突出した経済力がアジアの民主化を促す原動力」だったからではない。

つまりアジアにおけるアメリカの経済力の影響低下をことさら誇張しているようにも見えるのだ。

中国の経済対抗軸としてのTPP論

もう一つの例は「日本主導『TPP11』正念場」というタイトルの全国紙分析記事。「中国経済への過度の依存を避けるためにも、各国は中国以外との経済の結びつきをさらに強めていく必要がある」と、安倍政権のTPP11路線を支持する。

記事は「(TPPは)中国を意識した戦略でもある。世界2位である中国のGDPは、日本の倍以上。経済の相互依存も進み『中国は封じ込められる存在ではない』(外務省幹部)。ただ〜中略~『一帯一路』など中国主導の経済圏のみが拡大することへの歯止めにはなりうる」と書く。

中国を封じ込めることはできない。「一帯一路」を批判してきた安倍政権ですら協力姿勢に転じた。これ以上の孤立を恐れるからである。記事は「アジア太平洋に、中国流の『国家資本主義』に対抗しうる地域経済圏ができるのか。TPPは、『ルール作りの主導権』をめぐる争いともいえる」と締めくくった。

二つの記事に共通するの「アメリカか中国か」という相も変らぬ「ゼロサム思考」である。中国と共通利益を得るには何が必要かを論じるべきではないのか。「強い中国は脅威」を、無条件の前提にする論理からそろそろ卒業したい。


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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