「サトウのごはん」、「すき家」の牛丼、コンビニのおにぎりなど、コメを使った食品が相次いで値上がりしている。店頭では、サトウのごはんが1パック当たり2~10円上昇して、値上がり率は最大8%程度。おにぎりは、コンビニによっては1個当たり5~10円値上げしたり、価格を据え置くもののご飯の量を5グラム程度減らして事実上の値上げに踏み切ったりと、対応はさまざま。主な原因は、業務用に使われる比較的安価なコメの不足だ。その背景には何があるのか。
「すき家」をはじめ業務用米不足による値上げが相次いでいる。
撮影:田中博
3年連続で年間10〜15%値上がり
そもそも業務用米とは、中食や外食で使われるコメの中でも比較的低価格のものを指す。ところが……。
「業務用米はもはや存在しない」
中食・外食向けに米飯を提供する業者でつくる日本炊飯協会(東京都)の福田耕作理事・顧問はこう言い切った。
「北海道の『きらら397』、青森の『まっしぐら』といった業務用米としての需要がある銘柄の相場が高騰し、1ランク上のはずの関東産コシヒカリと同程度の価格になっている。もはや値ごろ感はありません」
同協会の試算によると、業務用向けを主力とした22銘柄の相対取引価格(卸売業者の仕入れ価格)は3年連続で毎年10~15%程度の値上がりを続けている。
出典:日本炊飯協会推計、業務用米として主に使用される22銘柄の平均価格
「この3年、食品加工業者や外食産業の業者側が値上がり分を吸収していたが、もうこれ以上は無理。2017年からは値上がり分を末端価格に転嫁する流れになっており、今後も続くだろう」(福田理事)
なぜこうした事態が起きているのか。主因は、農家が業務用米から補助金が手厚い家畜のエサになる飼料用米や、高値で売れるブランド米の生産にシフトしたためだ。
飼料用米の急激な拡大は、2014年産米の米価の暴落に端を発している。過剰在庫の投げ売りをきっかけに相対取引価格で前年比17%も減少。農家の不満を抑えるため、農林水産省はその後3年間、米価を上向かせる政策を採った。需給を引き締めるため主食用米の生産量を減らしたのだ。
2017年産米までは、農家が生産するコメを国が調整する減反政策が採られてきた。ところが、農水省が年間需要の予測をもとに設定する主食用米の「生産数量目標」は2004年の導入以降、一度も達成されたことがなく、実際の生産量が上回る状況が続いてきた。
生産量を目標内にとどめるべく、農水省が打ち出したのが主食用にカウントされない飼料用米の作付けの奨励だった。飼料用米の販売価格は主食用米の10分の1程度と安いが、10アール当たり最大10万5000円という多額の補助金が支給される。加えて、収量の多い専用の品種を作れば、10アール当たり1万2000円の補助金も上乗せされる。これを足すと、10アール当たりの補助金収入は最低でも11万7000円となる。販売収入は数千円であっても、計12万円強の収入が得られる計算だ。
これに対して主食用にカウントされる業務用米は、日本炊飯協会の推計によると2014年産は7751円(先述の22銘柄の1俵=60キログラム当たりの概算金)。日本の平均単収は9俵だが、業務用は多収品種が多いので仮に10俵取れるとすると、10アール当たり7万7510円。減反を守っていれば7500円の交付金が支給され、計8万5010円になる。
農家にとっては、業務用米を作るよりも管理に手間がかからないうえに収入が増えるとあって、飼料用米への切り替えが一気に進んだ。結果、2015年産は前年に比べ生産量、作付け面積ともに2.4倍に急拡大した。
ニーズを踏まえずに「ブランド米」に次々と参入
一方、ブランド米については、都道府県の主導で新品種が次々とデビューするなど、農家も生産に力を入れている。2017年には新潟の「新之助」、岩手の「金色の風」、宮城の「だて正夢」など、各産地が次々と売り出した。具体的なデータはないものの、米穀卸や業界関係者の間では「いまやブランド米が業務用米を圧迫する一因になっている」という認識で一致している。
もっとも、ブランド米は、コメ消費の主力である家庭での炊飯がメインターゲットだが、需要は下落傾向にあるのも事実。一方で全体の3割を超える中食・外食で使われる業務用米は増加傾向にある。つまり、米穀卸などの業者のニーズとは裏腹に、産地ではコメを高く売りたい、地域のブランドを打ち立てたいという思いが先行し、ミスマッチが起きているのだ。
補助金行政の失政で業務用米不足を招いてしまった。
撮影:山口亮子
では、業務用米の不足感はいつまで続くのか。
実は飼料用米は、主食用米の概算金(農協などの集荷業者が農家に支払う仮渡金)が1俵当たり1万2500円を上回ると、うまみが少ないといわれている。「2017年産は概算金の平均が1万2616円なので飼料用米から主食用に切り替える農家が多いだろう」と業界関係者は語る。
中でも高騰している業務用米は、業者が農家に示す買取価格が上がっていることから、生産にかじを切る農家も出てきた。茨城県の50代の農家の男性は「業務用米の買取の条件が良くなっているので、来年から業務用の販売を始める」と話す。業者からの品質に対する要求も緩やかになっており、「コメを選別する際に使うふるいの目の幅は通常1.85ミリメートルにしているが、業者が1.80ミリメートルにしてもいいと話している」という。
2018年産から減反政策が廃止になることも、状況の緩和につながりそうだ。これまで調整を担ってきた自治体やJAでつくる各地の農業再生協議会(再生協)は存続し、生産量の調整を引き続き行っていく。各都道府県の再生協の方針を見ると、廃止前の2017年産で国が割り振った目標と比べると、12道県が増産する方針だ。中でも青森県や宮城県は、業務用米の生産を増やすとしている。
いずれにしても2018年産が市場に出回るまでは業務用米の品薄感は解消しそうにない。需給引き締めのために補助金で誘導しようとした農政のツケは、しばらくは消費者が払わざるをえないようだ。
(文・山口亮子)
山口亮子(Ryoko Yamaguchi): 2013年に中国・北京大学大学院修了後、時事通信社記者を経て、現在、フリーのジャーナリストとして活動。地域活性化や農業、中国問題を取材。