リクルートが海外買収を加速させた理由はGoogleにある —— 失敗で得た独自の買収手法とは

時価総額は3年4カ月前の株式上場から2倍以上に膨らみ、日産自動車や武田薬品工業、JR東日本(東日本旅客鉄道)と肩を並べる4兆円企業のリクルートホールディングス。約半世紀の歴史を持つこの会社の収益と価値を、約8年で一気に拡大させたのが企業買収を中心とする大胆な海外戦略だ。

海外展開を本格化させた2010年からアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなどで20近い企業を買収してきた。使った金額は5000億円近くに上る。その中には、2012年に約1000億円で買収したHR(人材)テクノロジーの米Indeed(インディード)がある。「人材募集のグーグル」と呼ばれるIndeedは、買収後の5年間で売上高を年平均約70%のペースで伸ばしている。

なぜリクルートはこれほど海外企業の買収を成功させてこられたのか?

「ポイントは過去の失敗から生まれたリクルートの買収手法にある」と話すのは、取締役で海外事業の拡大を進めてきた池内省五氏である。

池内省吾さん

失敗から生まれたリクルート式グローバル展開の掟

2000年代初め、グローバル展開を意識し始めたリクルートは、約6カ月を費やし中国市場を調査した。全ての事業部長を集めて議論を重ね、結婚情報誌メディア「ゼクシィ」を中国に出すことを決める。2003年には、現地のパートナーと合弁企業を作り、事業を開始。海外市場における初のビジネス展開となった。

その後、中国で求人情報事業を展開する人材総合サービスの「51job」の4割近い株式を取得し、リクルートは自前のビジネスと両輪で中国市場を攻めた。

「51jobは業績を見ると素晴らしい会社で、投資したころから飛躍的に拡大した。しかし、我々が具体的にどういう価値を提供して、どれだけ業績拡大に貢献できたかを考えると、ゼクシィの展開を含めて、中国を攻めていたあの時代は結局、結論で言うとうまくいかなかった」と池内氏は当時を語る。

経営企画の執行役員が、事業のグランドデザインを描き、戦略を練り、投資先や買収ターゲットのショートリストを作り、企業を訪問して交渉を行う。そしてディール(買収や投資のこと)をまとめると、事業部に任せる。リクルートはごく一般的なプロセスを経て中国事業を進めた。

池内さん

しかし、一般的と言われていたプロセスでは、当事者意識やその事業に対するコミットメントが損なわれるリスクがあると、池内氏は強調する。

「買収を終えた後に、初めてこういう会社があって、こういう戦略の目的で、あなたに期待しているから、バトンを渡すと言っても、途中から任された担当者は当事者意識は湧いてこない。現場で想定外のことが起きてうまくいかなくなったとき、『これって池内さんが決めた事業だよね』となってしまう」

2010年、リクルートは経営企画でグローバル展開の立て直しを協議する。

決めたことは、担当の執行役員が自らやりたいと思わなければ、起案してはいけないというルールだった。重要でシンプルなそのルールに加えて、ヘッドクウォーター(本社)は買収を担当する執行役員に対しても、買収した企業の役員や従業員に対しても、必要以上に口を出さないという掟も決めた。

「自分で考えて、自分で交渉して、自分で相手と条件をまとめる。もちろん、投資銀行をアドバイザーとして採用するけど、責任をあなたがとるんだよねという前提でないと、クロスボーダーM&A(海外企業をターゲットにした買収など)なんてうまくいくはずがない。ヘッドクウォーターはそれを担当に任せるなら、本当に任せることが必要。ダメだったら、そのポストから外すかもしれないけれど、プレッシャーと緊張感の中でやることが大事だと思うのです」(池内氏)

Indeedをスピード買収した理由

2012年春、グローバル市場でオンラインHR事業の拡大を目指すリクルートは、「人材募集のグーグル」に出合う。Indeedだ。執行役員の出木場久征氏は、アメリカのIndeedを訪問するとその企業の成長ポテンシャルの強さに圧倒された。

マシンラーニング(機械学習)を活用するIndeedは、探している仕事だけではなく、ユーザーの場所や所有するスマートフォンの基本ソフト(OS)と言った情報までも細く分析して、パーソナライズする。世界でオンラインHR事業の拡大を目指していたリクルートにとって、グローバルプラットフォームになりうるIndeedは魅力的だった。

また、オンラインHR事業のグローバル展開を図るリクルートにとって、検索エンジンからオンライン広告、クラウドコンピューティングまでを展開するグーグルは驚異的存在だ。グーグルがHR事業領域に参入してくることも考えられた。

indeedのスマホ画面

dennizn / Shutterstock

池内氏にはグローバル事業に再挑戦を決めた出来事がある。2010年頃、グーグルがグーグルフライト、グーグルホテル、というサービスを始めた。このサービスを日本でも始められたら、リクルートと同様のサービスはあっという間に駆逐されるのでは、と危機感を抱いたという。

出木場氏と池内氏、それにリクルートに入社する前に武田薬品工業でM&Aに携わってきた尾形宏明・執行役員が加わり、Indeedの買収を進めた。Indeedは当初、新規株式公開(IPO=Initial Public Offering)を計画していたが、最終的にリクルートへの売却の道を選んだ。

「ファーストコンタクトから約6カ月でディールをクローズできた」と池内氏。Indeedの2011年の売上高は8700万ドル(約70億円)。結果的に、売上高100億円規模の企業を、約1000億円で買収することになった。

買収から5年、Indeedの売上高は11億ドル(約1200億円)を超えた。出木場氏は現在、リクルートの専務執行役員を務めながら、Indeedの最高経営責任者(CEO)を兼務している。

今後数年で、リクルートは海外での企業買収をさらに続けていく。池内氏はその投資余力は5000億円を上回る可能性があると言う。2016年には、モルガン・スタンレーなどでM&Aアドバイザリーに携わってきた荒井淳一氏を専門役員として迎え入れて、IR体制を強化した。

池内氏は、「簡単に買うことはない。2017年にもディールブレイク(交渉破談)することがいくつかあった。時に勇気ある撤退も重要です」と加えた。

(文・佐藤茂、写真・今村拓馬)

編集部より:初出時、「グーグルがHR事業領域に参入する前に、リクルートはIndeedを買収して、迅速にビジネスを展開していきたいと考えた」としておりましたが、正しくは「グーグルがHR事業領域に参入してくることも考えられた」でした。同様に、「2008年、グーグルがグーグルフライト、グーグルホテル、と言うサービスを始めた」は「2010年頃」、Indeedの2011年売上高は8700万ドル(約100億円)は当時の為替では「約70億円」でした。お詫びして訂正致します。 2018年2月16日 16:30


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