「小売破壊からの脱出」日本の高級スーパーが“グローサラント”に参入する理由

小売新業態

小売業の「新業態」出店を後押しするのは、業界の危機感そのもの。その最前線の米国で起こっている変化は、外形的には日本にもやってきている。

近年、アメリカの大手小売業界の中で、顧客層や商材などによって住み分ける「明確なセグメント分け」が消えつつある。その主因は二つある。一つはアマゾンの台頭。もう一つが独自ルールに従って買い物するミレニアル世代が、消費の世界で存在感を発揮し始めたからだ。長年、アメリカの小売業界を守ってきた「壁」が壊されつつある状況下で、各社はどう生き残りを図るのか?

高級スーパーマーケットの「ホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)」と、ディスカウントストアの「ターゲット(Target)」による新業態参入への分析は、そのまま日本の高級スーパーの新業態戦略に重ね合わせられそうだ。

アメリカの小売業で起こっている「変化」と国内の動きを見ていこう。

ホールフーズが始めた新業態「グローサラント」

ホールフーズ2Fのシーフードレストラン

ホールフーズ2階にあるシーフードレストラン。午後4時頃に行くとビジネスマンらしき人たちが集まっていた。

ホールフーズ・マーケットは2017年1月、ニューヨークのグランドセントラル駅とタイムズスクエアの中間に位置するブライアント・パークに、ニューヨーク11店舗目となる新店舗をオープンした。目玉は、2階にあるレストランエリア。2階の売り場面積約半分を占めるレストランエリアに入るのは、人気カジュアル・イタリアンレストラン「フランキーズ・スプンティーノ(Frankies Spuntino)」や、カウンターでおまかせ寿司(すし)やちらし寿司を楽しめる「カノ バイ ゲンジ スシ(Kano by Genji Sushi)」などだ。

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ちらし寿司(22ドル)。

店内で購入したパンや総菜、ハンバーガーなどは、併設するフードコートで食べられる。1階のメインエントランスを入るとすぐ2階に上るエスカレーターがあり、1階の生鮮食品売り場を経由せずにそのまま食事できる設計になっている。平日の昼時にもなるとスーツ姿のビジネスマンや観光客、家族連れなど多くの客でにぎわう。

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フードコート。多くの客で賑わう。

ホールフーズが手がけるこの店舗は「グローサラント」と呼ばれる新業態で、ここ数年アメリカの食料品店で急速に広がりつつある。グローサラントとは、グロッサリー(食料品)とレストランを掛け合わせた造語で、スーパーの店内や敷地内にレストランを併設させる業態を指す。店内で購入したデリや総菜をその場で食べられるような場を提供したり、店で販売中の食材を使ったメニューを販売したりするなど、食料品店ならではの強みを生かした飲食サービスを行う。

日本でも2017年8月、東京駅にイタリア食材を扱う「イータリー(Eataly)」が同業態の店をオープンし話題を集めている。内容は店舗によっても異なるが、アメリカでは無料Wi-Fiの開放、バーの併設、オーダーメイドフードの提供など、「心地良い食空間を提供する」という点で共通する。食事目的で訪れる人も多いが、「ここで食べたものはおいしい」と思ってもらえれば、自然と買い物も発生する。これこそが食料品店がグローサラントを推し進める理由と考えられる。

ターゲットが小型「都市型店舗」を投入する理由

一方、大型ディスカウントストアとして大都市を中心に展開してきたターゲットは近年、都市部や大学の近くを狙った「都市型小型店舗」の拡大に力を入れている。ニューヨークでは高級住宅地で知られるソーホー(トライベッカ)をはじめ、2017年10月20日に4万2000人が訪れると言われる名物観光地ヘラルド・スクエアに新店舗をオープンした。ここは、老舗百貨店のメイシーズ(Macy’s)や、女性用下着のヴィクトリアズ・シークレット(Victoria’s Secret)、ユニクロなど数多くの人気ショップが集まるエリア。店舗の敷地面積は約4000平方メートルで、「都市型小型店舗」としては55店舗目となる。

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ヘラルド・スクエア店は観光地とあってお土産も多く取り扱う。

小型店舗は、「エリアの人口統計によって品ぞろえを変えることで、近隣の住人に適した店舗にしようと試みている」と、オンラインメディアの「リテイル・ダイブ(Retail Dive)」は説明する。トライベッカ店は、周辺に子育て世帯が多いことから、乳幼児や子ども向けのグッズを多めに置き、大学近くの店舗では美容品や洋服の取り扱いに力を入れるといった具合だ。

Forbesによると、これらの小型店は従来の大型店に比べ、「1平方フィート(約0.09平方メートル)あたり2倍の売り上げを生み出している」といい、2019年までに130店舗まで拡大する予定だ。既存店の改修もどんどん進めており、小型店含めこれらの「新店舗」では従業員教育に力を注ぐ。

接客にあたる店員を「一販売員」から、店で扱う美容品から電化製品といったすべての商品のエキスパートである「コンシェルジュ」へと教育するのだ。そのため販売員の最低賃金を、現在の時給11ドルから2020年までには15ドルに引き上げる計画だという。

ミレニアル世代とアマゾンが従来の慣習を変えた

近年なぜアメリカの大手小売業者は、一歩間違えるとリスクにもなりかねない新業態に参入しているのか。年に2〜3回、日本の企業を対象にした「アメリカ小売業最新動向体感視察ツアー」を主催している日本オラクルのリテールインダストリー・イノベーションアドバイザーの大島誠氏は、「セグメント」(階層)という言葉を使い、現在アメリカの小売業で起きているある変化を説明する。

「アメリカの小売業はこれまで業態同士が重なっているところもあるものの、うまくセグメント分けされてきた。しかし、2つのキーワードによって、その状況は大きく変わりつつある」と大島氏は言うのだ。

大島氏によると、2つとは「アマゾンの台頭」「ミレニアル世代の出現」。かつてはターゲット=ディスカウントストア、メイシーズ=百貨店というように、小売業ごとに扱う商材や顧客が異なっていたため、直接バッティングすることはないとみられてきた。それが、この2つのキーワードによって、明確なセグメント分けがなくなってしまった。いわば、アメリカ小売業界における“新時代”が始まったのだ。

メイシーズ

ニューヨークのターゲット都市型店舗の玄関口から目の前を撮影。まさに道路を挟んで向かい側がメイシーズだ。

アマゾンは、商材、顧客ターゲットともに全方位から狙いに行く品ぞろえ、価格帯、利便性を追求することで、小売業界の中に存在していたセグメントを取り払った。2000年代に成人したミレニアル世代は、金銭感覚も健康に対する意識も現実的な上に、商品やブランドに対するこだわりが強く自らのルールに従って行動する。彼らが消費者としての存在感を強めるにつれて、こうした考えが消費者全体に及び、従来のセグメント内の枠を超えて、購入場所が選ばれるようになってきた。

こういった状況の中でターゲットの戦略をあらためて見れば、顧客層の拡大を図ろうとしていることがうかがえる。メイシーズの目の前に都市型小型店舗を出店したのは、「客が『生活必需品はリーズナブルな方がいい』と考えるなら身の回り品はターゲットで、ブランド品はメイシーズでと分けて買い物ができるようになる」というのが大島氏の見立てだ。

世界最大のスーパーマーケットチェーン「ウォルマート」も、従来のメインターゲットだった低所得者層だけでなく、富裕層の獲得に力を注いでいる。これまでに、自社顧客より年代が若く、高所得者層の利用が多いとされるECサイト「ジェット ドット コム(Jet.com)」や高級紳士服ブランドの「ボノボス(Bonobos)」を買収、ターゲット同様、「生活品の購入は安く済ませたいリッチな客」を取り込もうと必死だ。いずれも既存の流通秩序をイノベーションで破壊してきたアマゾンへの対抗心が根底にある。

一方で、ホールフーズの戦略は、ミレニアル世代攻略の理にかなっているといっていい。食情報を発信するアメリカのオンラインメディア「Eater(イーター)」によると、「ミレニアル世代や、それより後のZ世代(1990年後半以降生まれ)は健康への意識が高く、スーパーマーケットが提供する調理品は『ファストフードよりも健康的』と考えている」という。また、自分が支持する企業やブランドに対し「信頼に足るストーリー」を求め共感したいと考える彼らにとって、ホールフーズのグローサラントを支持するのはある意味当然なのかもしれない。

「ホールフーズ+アマゾン」

「ホールフーズ+アマゾン」の表記がされているアボカド売り場。

ホールフーズ自体は2017年にアマゾン傘下に入ったことで、アマゾンの脅威はなくなった。現在両社は店舗・オンラインで連携しており、ホールフーズの店舗で扱う生鮮食品の価格を下げたり、アマゾンでホールフーズの商品を販売したりしている。今後、実店舗やブランドを生かしたさらなる協業を進めていくことだろう。無人コンビニの「Amazon Go」がいよいよ一般公開されたこともあり、ホールフーズでの無人化レジも遠くない将来実現されるかもしれない。その意味では、アマゾンのセグメント破壊の戦略に一役買っているとも言える。

日本にも押し寄せる「グローサラント」の波

成城石井の新業態店舗「SEIJO ISHII STYLE DELI & CAFE」

成城石井の新業態店舗「SEIJO ISHII STYLE DELI & CAFE」。スーパーマーケットの中にレストランを併設する店舗形態は「グローサラント」と呼ばれ、アメリカで先行する出店形態のひとつだ。

写真:松本幸太朗

こうした新業態の波は、日本にも少なからず影響を及ぼすはずだ。ターゲットが展開する都市型小型店舗のように、地域の人口統計に合わせた店舗作りは日本でも需要がある。また、味と安全の両面から食に対して高いクオリティーを求める日本人が、グローサラントを支持する可能性は高い。

前述の東京駅構内のイータリーだけでなく、2017年に創業90周年を迎えた成城石井もグローサラント参入を果たしている。成城石井トリエ京王調布店では、従来のスーパーマーケット(約596平方メートル)に、新たに「SEIJO ISHII STYLE DELI & CAFE」(約59平方メートル)を併設。店舗面積約656平方メートルを誇る過去最大の新店舗をオープンした。

日本ではもともと小売業のセグメントの垣根が低いため、上記のような戦略が即、顧客層拡大につながるわけではない。むしろ、差別化をより強く打ち出すことで、ロイヤルカスタマーを形成する方向に作用するかもしれない。アメリカ小売業の新潮流が日本にどう及ぶのか、目が離せない。

(文、写真・公文紫都)


公文紫都(くもん・しづ):フリーライター。青山学院大学卒業後、IT関連企業、新聞社勤務を経て、2012年に独立。国内外の IT、EC業界を中心に取材・執筆。2014年から夫の海外転勤に伴い、ニューヨークへ。体重570gで誕生した超低出生体重児の女の子の母。個人のブログ「Purple and the City」で育児記録を綴っている。 著書に『20代からの独立論(前編)』『20代からの独立論(後編)』。

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