「人のサイズはSMLの範囲には収まらない」。前澤は、そう語り始めた。
ファッション通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を展開するスタートトゥデイ社長の前澤友作は、自社で生産し世界展開を狙うプライベートブランド(PB)「ZOZO」について、公式発表を前にBusiness Insider Japanのインタビューに応じた。注文受付中のZOZOSUIT(ゾゾスーツ)による体型計測データを元に「自分にぴったりのものを全ての人に人生で初めて体感してもらい、ファッションを楽しんでほしい。サイズがないということで、僕も散々残念な思いをしてきたことが原体験」と、着想の原点を明かした。
「今どき試着なんてするんだ、という時代が来る」と言い切る前澤に、これまでベールに包まれてきたPBの全貌を聞いた。ZOZOSUITは1月31日に、発送を開始するという。
ZOZO以外、履けない
「人のサイズはSMLの範囲には収まらない。(ZOZOTOWNに)常時何十万点の商品があっても、サイズがないという声が止まらない。だったら、初めからそれぞれの人に合う洋服を作ればいい。まずは自分がほしいと思ったのがきっかけです」
東京・青山のスタートトゥデイグループのオフィスにある、スケルトンの球体を模したミーティングルームで、前澤は穏やかな笑みを浮かべて、そう話し始めた。
ZOZOのデニム。サイズは数千種類用意する。サイズによってボタンの大きさや裾の折り返しの幅まで変えるという。
身につけているのは1月31日に発売を開始する、ZOZOのシンプルなグレーのTシャツとデニム。2017年11月に予約を開始した、伸縮センサー内蔵のZOZOSUITにより自らの体型を計測し、最適なサイズで作ったものだ。
「デニムは好きだから何本も持っていますが、これ以外履けなくなりました。ジャストフィットの洋服を着た心地良さは、なんとも言えない」
試作品が完成したこの1年程度、ZOZOばかり身につけているという。
PB発売開始にあたり、ZOZOは白、黒、ネイビー、グレーの4色の無地のTシャツと3色のデニムを男女共にまずはそろえた。購入は全てゾゾスーツによる計測が前提。
スマートフォーンにダウンロードしたZOZOTOWNアプリに体型計測データを保存して注文すれば、一人ひとりの体型に合わせたアイテムをオーダーメイド方式で製造・販売する。
価格はTシャツ1200円、ジーンズ3800円(税込)。今後はシャツやワンピースも展開する予定という。
原点はコンプレックス
2004年に前澤が立ち上げたZOZOTOWNは、今や6000ブランドを扱い、約2300万人のユーザーを抱える巨大なファッションサイトだ。
運営会社のスタートトゥデイは右肩上がりの成長を続け、2017年に時価総額1兆円を達成。百貨店などの小売り、アパレル業界が低迷する中で、ファッションeコマースのプラットフォームとして、躍進を続けてきた。
プラットフォームを進化させる一方で、前澤がこの7年間、もっとも打ち込んできたのが、このPBだ。
ハリウッド俳優から大物経営者まで広い人脈を持ち、2017年春には123億円のバスキアを落札した資産家としても知られるが、PB構想の原点にあるのは、コンプレックスだという。
PBの構想当初から、一人ひとりにフィットしたものを作りたいという思いがあったという。
「(背が)小さいからパンツはだいたい裾上げするわけです。でも裾だけ切ると、デザインもシルエットが変わってしまう。店員さんは『そんなことないですよ』と申し訳なさそうに気を使ってくれますが、生地も手間ももったいない。こっそりレディースやキッズものを探したりする。お店に行くのが嫌だったんです」
既製の洋服に人が合わせるのではなく、一人ひとりにぴったりの洋服を作る —— 。その構想を元に、世界中の工場、技術を調査し、ミリ単位で人の体型を図り、ミリ単位でデニムを作る方法を模索した。
そうして7年かけて生まれたのがZOZOSUITだった。
2017年11月22日の自らの誕生日に、世界160カ国で無料配布することを発表、日本だけでも発売10時間で23万件の注文があった。ユーザーはZOZOSUITで自分のサイズを測り、体型計測データをZOZOTOWNアプリに登録する手順だ。
プライベートブランドのZOZOは数千種類のサイズを用意し、そこから最適なサイズを推奨する。注文を受けて即日から数週間で手元に届ける。
ファッションの正解を数値化したい
洋服のeコマースにおいて、最大の課題とされてきたのがサイズだ。試着できないことを理由に敬遠される販売機会ロスは、相当量あるとみられている。
ZOZOSUITで収集した体型計測データは、世界中のアパレルブランドが欲しいものだろう。
しかし、企業にこうしたデータを提供することは「今はまだ、考えていない」という。
「本当に人の体型を有効活用できて、人生で初めて自分にぴったりのものを見つけたという声が、世界で広くシェアされ始めると、ニーズが確信される。そこで初めてメーカーも、スタートトゥデイに聞いてみよう、となると思う」
身につけているのは、自社PBのZOZO。
膨大に蓄積されたデータの活用の先にあるのは、ファッションビジネスそのものを変えてしまうことだ。
「ファッションの正解を数値化したい。何がかわいいか、かっこいいかを科学的に解明したい」
これまでに蓄積したデータを元にファッションを解析するスタートトゥデイ研究所も、PB発売と同時に発足する。
ユニクロとの差別化
シンプルでベーシックなデザイン、Tシャツ1枚が1200円というリーズナブルな価格帯、世界を視野に入れたブランド展開は、当然ながらユニクロを彷彿とさせる。
前澤はユニクロについて「大先輩として本当にいいものを良心的な価格でイメージ良く、日本はおろか世界中で販売していて、大尊敬している」と、一目を置く。
ただ「全く真似したって仕方ないですし、差別化しなくてはならない。体型をミリ単位で計測し、センチ単位で服を作り上げることで、そこは差別化できている」と、自信をのぞかせた。
無駄を究極に省いた価格
最先端のテクノロジーを投入したPBながら、なぜ手頃な価格で提供できるのか。
「本当はそれぐらい(の価格)で売れるんです。今までのアパレル業界は、店舗の見栄えのために全色作って、売れないと原価ギリギリまでセールして、廃棄もして。あまりに無駄が多かった」
自社PBは「大量の在庫を山積みにする必要もないし、ショールーム的に店舗で商品を見せる必要もない。販売員を抱えることもなく、正直に価格をつけられる。無駄を究極的に省いていくと、この値段でできるんです」。
ZOZOSUITの製造コストや無料配布を考えれば相当の投資に思えるが、「(企業は)アプリの1ダウンロードに500円くらいかけている。eコマースだと会員1人に何千円もかける。そう考えれば、広告を打つのと変わらない」。
まだ誰も見たことのないことをやる
世界中の人の体型計測データを活用し、テクノロジーの力で一人ひとりに合わせた洋服を作る。考えついたとしても、誰もやろうとはしなかった未知の境地に、前澤は踏み込もうとしている。
「僕は、自信があることしかやらない。よくわからないことに手を出さない。自分が心底必要と思って、かつ人も必要と思うこと、まだ誰も見たことのないワクワクすることだと判断したら、やる」
20年前、試着ができないことを理由に、洋服のeコマースは難しいとみなされていた頃から「必要なのに、なぜやらない?絶対売れるじゃん」と考えた。そうしてインターネット上に洋服のセレクトショップを立ち上げた。
ZOZOのブランドイメージ写真には、さまざまな年齢、性別、体型の人たちが集う。前澤本人や友人も登場。
提供:スタートトゥデイ
そして今、ZOZOTOWNは、国内アパレル一人勝ちの巨大プラットフォームに成長。若年層を中心に洋服をインターネット上で購入することは、もはや常識になっている。
店舗で既製品を買わずに、ネットでオーダーメイドの洋服を買うことは「当たり前になると思いますよ」と言い切る。
アートと同じ境地へ
コレクターとして知られ、自宅の壁を埋め尽くすという現代アートも、車も時計も「少年のように集めている」(前澤)ものは全て「たくさんの人が介在する、作り手の思いやこだわり抜いた世界観が好き」という。
だから「思いを1センチ単位に詰めて、全社をあげてやることで、何百億円の絵を描く人と同じところへ、クリエイター、ビジネスマンとして到達したい」。
周囲からは「1000円、2000円の洋服で、顧客がそこまで求めていると思わない」という声も聞こえてくる。
けれど「1000円で1センチ、2センチを刻めることに、価値があると思っている。1年後、2年後を見てろよって、実は思っています」。(敬称略)
(聞き手・滝川麻衣子、浜田敬子、構成・滝川麻衣子、木許はるみ、写真:今村拓馬)
前澤友作(まえざわ・ゆうさく): 早稲田実業学校卒業後、渡米をきっかけに輸入CD・レコードのカタログ販売を開始。1998年、有限会社スタート・トゥデイを設立。2000年にバンド活動は休止し、経営に専念。同年、カタログ販売をオンライン化し、アパレル商材の取扱いを開始。2004年、ファッションを中心としたショッピングサイト「ZOZOTOWN」を開設。2007年、東証マザーズ上場。2012年、東証1部上場。同年11月に現代芸術振興財団を設立。現代芸術を中心としたアートコレクターでもある。