コインチェックは1月30日に「出金再開の予定」というリリースを発表、数日中に見通しを知らせることを明らかにした。しかし再開はいつなのか、出金が相次いだ場合は手続きがスムーズに進むのか。投資家の頭には不安ばかりがよぎる。「お金に振り回されている。ぶっちゃけ、大金をゲットしてからあんまりいいことがない。普通が一番幸せ」と漏らす人もいる。
出典:コインチェック
ピリピリする毎日「普通が一番幸せ」
個人投資家のAさん(30)は1月31日の朝、出金再開予定のリリースを目にした。だが、発表には出金の具体的な日時がなかったため、まだ不安は消えない、と言う。契約社員のAさんは2017年3月、コインチェックで貯金200万円分のリップルを買い、1月26日時点で総資産が1億5000万円相当になっていた。
現在は不正送金されたNEMだけでなく、ビットコインをはじめとして仮想通貨の価値は全体として値下がりしている。Aさんは出金開始前にさらに暴落することも懸念している。
「出金が開始された時が怖いですね。さすがにマイナスになることはないと思うけれど、自由に日本円にできる状況じゃないのが不安です」
コインチェックの記者会見から3日経った、オフィスの前。1月29日撮影。
撮影:木許はるみ
「今、すごくピリピリしていて不安だらけです。お金に振り回されている。ぶっちゃけ、大金をゲットしてからあんまりいいことがない。普通が一番幸せ、そんな感じの心境ですね」
NEMやビットコイン、モナコインなど計9種類の仮想通貨に、コインチェックで1年前から約50万円分を投資していた地方議員のBさん(32)。まだ出金の具体的な日時は決まっていないが、仮にすぐに出金できるようになっても、出金するつもりはないという。
「NEMは最高値で(円換算の手持ち資産が)200万円相当になっていたが、過去に二度暴落した時に手放して、その後に高騰、という経験をしている。今回もまた値上がりするのではないかと思っている。それに、仮想通貨を購入する時点で最悪の場合は資産を失うことも考慮している」
今回の騒動を受けて、ハードウェアウォレット(ネットから切り離した物理的なデバイスに安全に暗号鍵を保存する手段)の購入を検討しており、より安全性に気を遣うようになったという。ただ、ブロックチェーンや仮想通貨自体に可能性を感じており、仮想通貨業界の今後の方が心配だと語る。
「国が担保していない通貨にどれだけの価値があり、どれだけの人が活用するかに非常に興味を持っている。コインチェック自体がどうなるかも気になるが、それよりも金融庁がどのくらい規制するのかに関心がある。今後こうした新しい金融の流れが止まってしまわないか心配」
使いやすかったコインチェック、管理体制改善に期待
コインチェック本社の受付の様子。写真は1月26日撮影。
撮影:西山里緒
2017年6月ごろからコインチェックでNEMやイーサリアムなど4種類を保有している美容業の男性経営者(27)は、海外の取引所を含め、4カ所の取引所で口座を持っているが、資産を入れているのはコインチェックのみ。
「コインチェックはスマホで簡単に操作ができるので資産を入れた。コールドウォレットで保管していると思っていたので、セキュリティ対策には『言っていることが違う』『あり得ない』」とショックを受けたが、「コインチェックがセキュリティを強化して営業を続けるなら、急いで出金はせず将来性を考えて資産を保有しておきたい」
理由は「今回の問題は取引所の問題であって、ブロックチェーンの問題ではない。今後も仮想通貨の市場は加速していくと思うから」と言う。
日本に留学中の中国人大学生(23)は、2017年11月にコインチェックに口座を開き、リップルやNEMを買った。税金が高いことや草コイン(アルトコインの中でもより時価総額が低いもの)も上がり始めたので、草コインの取り扱いが多いニュージーランドの仮想通貨取引所Cryptopiaに大半のお金を移しており、今回は難を逃れた。
「中国のSNS微博でもコインチェックを批判する投稿が拡散している。仮想通貨自体は安全と思っていたが、取引所経由の危うさが分かった。自分の通貨も取引所に置きっぱなしで、動かそうとも思わなかった。世界レベルでもっと魅力的な取引所があり、自分はそちらに資金を移している途中だったので、被害は大きくなかったけど、どちらにしろ運が悪かったとあきらめるしかない」
通常の100倍以上の受注
コインチェックの騒動以降、急速に注目を集めているのがハードウェアウォレットだ。前出のAさんは流出を知ったあと、ハードウェアウォレットの一つ「Ledger Nano S」を購入。公式サイトではすでに売り切れだったため、公式代理店から1月28日に購入した。現在、公式代理店のウェブサイトには「注文殺到」「1月26日(金)〜以降のご注文分の発送は順次対応」の文字が並んでいる。
商品を販売する日本の公式代理店の担当者は、「年末年始に仮想通貨の価格が高騰し、ピーク時で1日100台が売れた。しかし、コインチェックの騒動以降、週末に通常の100倍以上の受注があった」と話す。これまで営業をかけても反応が薄かった、大手量販店からも大口の注文が入っているという。
同社の社員は、海外にある生産拠点を急遽訪問し、「(世界的なニュースにもなっているので)、日本に優先的に出荷してほしい」とお願いしたという。現地の生産体制も4倍にすると言うが、「すぐには対応できないですよね」と担当者。
現在注文を受け付けると、出荷は2月中旬、海外の現地で受け付けた場合も3月下旬の発送になる。
運よく入手できたAさんだが、それでも心配は尽きない。
「出金ができるようになったらすぐ移行したいけれど、ハードウェアウォレットがマルウェアに感染していたらどうしよう、とか考えてしまう。公式代理店から買っているから大丈夫だとは思うけれど、蓋を開けられてないか、などと何度も確認しています」
悪質な商品に注意
メルカリは2018年1月31日、仮想通貨を保管する「ハードウェアウォレット」に対して出品禁止措置をとったと公表した。
上記の公式代理店によると、海外では、ハードウェアウォレットの購入者が初期設定で入力する「パスフレーズ」を悪用するケースがあり、非正規の代理店や転売を通じた商品の購入に注意を呼びかけている。
悪用が疑われるケースは、他人がパスフレーズを設定した商品を転売し、商品の購入者に対し、そのパスフレーズを利用時に入力するように説明する文章を添付するという手口。
代理店の担当者は、「(この手口では)他人のアドレスに資産を送っているようなもの。ハードウェアウォレットを何も知らない人は、そのまま使ってしまう。“ハードウェアウォレットとは何か”を啓発していく必要がある」と注意喚起している。
(取材・西山里緒、室橋祐貴、浦上早苗、木許はるみ、文・木許はるみ)