6時間では足りない。週末寝だめが睡眠不足を習慣化させネガティブ思考に

寒い日が続くと、布団からなかなか出にくいもの。あと30分、いや1時間、2時間眠れたら最高なのに……と思いつつ、布団から出る人も多いのでは。

長期休暇明けにも同じように思うものだが、いつの間にか忙しい日常のリズムを取り戻している。それは人間の感覚の「慣れ」によるもので、眠気という刺激に慣れ、刺激として自覚しなくなるため。嗅覚のように、強い香水も長く嗅いでいるほど慣れるのと同じ理屈だが、その慣れが問題。

「5年、10年と自覚できない睡眠不足が負債のように溜まると、心筋梗塞や脳卒中、肥満、糖尿病などの生活習慣病の発症リスクが上がる」と、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・精神生理研究部の三島和夫部長は警鐘を鳴らす。

睡眠不足の女性

自覚できない睡眠負債は、病気のリスクを上げてしまう。

leungchopan / Shutterstock

睡眠時間が足りているかどうかは、血圧や脈拍のように簡単に測ることはできない。理想的な睡眠時間も年齢や体調などによって異なるため、◯時間と数字で明示するのは難しい。

自覚のない睡眠不足は1時間

ただ、「平日と週末の差が3時間あったら、恒常的な睡眠不足を疑うべき」と三島氏は言う。ベッドに入るとすぐに眠れて寝つきがいい、という人も不足を疑おう。充足した睡眠が取れている人なら、消灯してから寝付くまでに15分程度かかるのが正常だからだ。

三島氏が健康な成人の必要睡眠時間について調べる試験を行なったところ、自覚していない睡眠不足(潜在的睡眠不足)は約1時間あることがわかった。

「試験対象は平均睡眠時間が、現在の日本人の平均睡眠時間である約7.5時間の人たち。参加者たちは、睡眠不足を全く自覚していなかったが、開始直後は気づかないままに溜め込んでいた不足の反動から11時間ほども寝た。それが2日、3日と日を追うごとに減少して安定。その安定した時間が約8時間半だった。ストレスホルモンと言われるコルチゾールの分泌量が減り、食欲を増進するグレリンも減少。逆に、食欲を抑えるレプチンは増加した」(三島氏)

三島先生作成の図

日頃の睡眠時間が平均7時間22分の健康な成人男性15名(平均23.4歳)に、実験室内で9日間、就床時間を12時間に延長して睡眠を充足させる試験を実施。その結果算出された必要睡眠時間は8時間25分。日頃の睡眠時間より約1時間不足していることがわかった。

(データ:国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・精神生理研究部部長、三島和夫)

成人睡眠時間の減少、週末長く寝ている人は要注意

この試験から、「日頃の睡眠時間+1時間」を目標にするといいことが分かる。

それにしても、試験対象者のように7.5時間寝ていても、体にとっては不足というのは驚きだ。ビジネスパーソンの中には、睡眠時間が5、6時間台の人も少なくないだろう。厚生労働省の調べでも、ここ10年で、成人男女の睡眠時間は「6時間以上7時間未満」と回答した人が減るのに対し、「6時間未満(5時間未満と5時間以上6時間未満)」は増え続けている。

三島先生作成の図

平成17〜27年の20歳以上の男女、1日平均睡眠時間の推移。

(データ:平成27年厚生労働省 国民健康・栄養調査)

自分は6時間睡眠で充足されている、という人もいるかもしれないが、週末に平日より多く寝ていたら体は充足されていない証拠だ。週末の寝だめによって眠気は軽減するが、ホルモン分泌や代謝の異常は週末だけでは回復しない。むしろ「眠気が軽減する分、習慣として定着しやすく、ホルモン分泌や代謝の異常も起き続けるという悪循環に陥る」(三島氏)。

この長期化が、生活習慣病の発症リスクを上げるのだ。

睡眠負債でネガティブ思考に

NHKスペシャル「睡眠負債が危ない」により、一気に広まった「睡眠負債」という考え。わずかな睡眠不足がまるで借金のようにじわじわ積み重なることを指す。

こうした負債の状況が続き、健康を害して一時仕事を離れたり休んだりできれば、溜まった睡眠不足=睡眠負債はまとめて“返済”できる。問題は症状が顕在化するまでには至らずに、「なんとか頑張れる」という状態を続けている人。病気の発症リスクを上げるだけではなく、思考がネガティブに傾きやすくなるともいう。

「睡眠不足の人に、ネガティブな感情刺激(他人の不愉快な表情など)を与えると、脳の記憶と情動をつかさどる扁桃体が過活動を起こし、過剰な反応を示すことがわかっている。扁桃体の過活動を抑えるのは前頭葉の働きだが、その機能が利きにくくなるため。つまり、睡眠が充足している人よりも感情ストレスを受け、不安や憂うつ、落ち込みなどの抑うつ症状が生じやすくなると推測できる。最新の研究で、睡眠は認知症の原因になる脳内物質を除去する働きがあることもわかっている」(三島氏)。

ときには、睡眠時間を削って仕事や育児、勉強をしなくではいけない時期がある。人は、寝るために生きているわけではないからだ。しかし、体調を崩したとき、偏った食生活や運動不足、飲酒、喫煙などの健康リスクと同じぐらい、睡眠不足もインパクトがあることを覚えておきたい。

最近はスマホのアプリや腕時計タイプのウエアラブル端末で、睡眠の質を測れるものが増え、利用している人もいるだろう。三島氏によると、それらは一種の遊びとしてやるレベルのもののようだ。

「体動によって測定するものが多いが、身体に密着させるセンサーを使ったかなり高機能のものでも、睡眠の深さまでは判定できない。従ってスマホアプリでは測定不可能。スマホを置くベッドマットの硬さなどで、測定結果が全然変わる」(三島氏)

測定結果の良し悪しが気になるものだが、振り回される必要はないことを補足しておく。

(文・茅島奈緒深)

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