羽田発着枠拡大でドル箱争奪戦再び、JAL新体制で深まる視界不良

1月23日に日本航空(JAL)が社長人事を発表して以降、同社株の株価の下落が止まらない。1月31日終値までの下落率は4.9%で、日経平均株価の下落率(3.5%)よりもきつい。市場が新体制の先行きに不安を抱いているからだろう。

2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、都心上空のルート変更に伴い、羽田空港の国際線発着枠が増える。約50便の配分は2018年末から2019年初めにかけて決まると言われているが、JALとANAホールディングス(ANAHD)にとって当面の経営課題はその枠の獲得。なにせ1枠を新たに取るだけで年間100億円の増収が見込めるとも言われるドル箱だからだ。

しかし、「JALの新経営陣では今後繰り広げられる争奪戦でANAに勝てない」(外資系証券アナリスト)という見立てが、日航株の軟調な値動きの背景にはある。

RTX2YXV2

羽田空港の近くを飛ぶ日航機。果たして発着枠拡大の勝者になれるのか。

REUTERS/Kim Kyung Hoon

JALの手足を縛った国交省の「8.10ペーパー」

アナリストの予想を深く理解するため、少し争奪戦の歴史を振り返ってみよう。

2010年1月、旧民主党政権下でJALは会社更生法の適用を申請した。企業再生支援機構が3500億円の公的資金を投入し、金融機関は5200億円の債権を放棄した。この結果、JALは2011年度から最終黒字に転換。2012年9月には東京証券取引所1部に再上場を果たし、公的資金も返済した。

この再生についてJALは「業績改善は構造改革によるところが大きい」と主張したが、ANAは「借金棒引きで身軽になったこと以外のなにものでもない」というロビイングを展開。自民党が政権に復帰した2012年8月、国土交通省は「日航に対する公的支援で航空会社間の競争環境が不適切にゆがめられることがあってはならない」と記したいわゆる「8・10ペーパー」を出し、新規投資と路線開設を制限する指針を定めた。事実上、ANAに軍配を上げたわけだ。

「8・10ペーパー」はANAに対する発着枠の優遇配分で如実に現れた。2013年3月の国内線増枠ではANA8枠に対してJALは3枠。2014年3月の国際線増枠ではANA11枠に対してJALは5枠。2016年10月の米国路線ではANA4枠に対してJALは2枠といった具合である。

2017年3月末、「8・10ペーパー」の効力は消えた。JALの新規投資と路線開設を制限する国交省の経営監視は終了、今後の増枠をめぐってANAとJALはガチンコ勝負をすることになったのだが、株式市場関係者は「それでもJALはANAに勝てない」とみているのだ。

2018年4月1日付でJALの社長に就く赤坂祐二常務執行役員は、東京大学大学院で航空工学を学び、入社後は一貫して到着した飛行機の点検や整備士の人員管理などを担ってきた整備畑のエリートだ。しかし他の部門をほとんど経験していないため、社内外での知名度が低い。

そんな赤坂氏を引き立てたのは会長に就く植木義晴社長。植木氏は戦前から活躍していた時代劇俳優、片岡千恵蔵の息子ということで、社長就任時に随分話題になった。初のパイロット出身社長ということで経営手腕を不安視する声も大きかった。

今も生きづく「稲盛イズム」の皮肉

植木氏を社長にしたのは、経営破綻後のJALに会長として乗り込んだ京セラの稲盛和夫名誉顧問。「自分が生まれた鹿児島と京セラを創業した京都の出身者を可愛がるクセがある」(京セラ関係者)と言われる。植木氏は京都出身。加えてパイロット出身だったため、「現場こそが企業の生命線」が持論の稲盛氏にとってはうってつけだった。稲盛氏は2013年3月末で取締役を退任しており、今回、赤坂氏を社長にしたのは植木氏だが、植木氏は稲盛氏好みの人事を断行したと言える。

稲盛和夫

会長としてJAL再建にらつ腕をふるった稲盛和夫氏(右)。「稲盛イズム」はまだ継承されている?

REUTERS/Toru Hanai

さて、当面の経営を左右する羽田国際線の増枠について、パイロット出身の植木氏と整備畑の赤坂氏で臨むJALに勝算はあるのか。あるJAL幹部の答えは「非常に心もとない」。発着枠の獲得はつまるところ政治力がものをいうからだ。

稲盛氏は会長就任後、社内で「永田町や霞が関にすり寄るな」と言い続けた。政治や行政に振り回される航空会社のありようを根本的に変えようしたからだ。このスタンスは、支援していた旧民主党の前原誠司氏が国交相だったから当初は通じたが、政権交代後には猛烈な逆風となって吹き付け、その構図は今も続いている。

「安倍晋三首相に疎まれている稲盛さん好みの人を社長に選び、政官とは距離を置く『稲盛流』を貫いて、羽田の国際線増枠を思惑通りに進めるのは至難の業」(前出の日航幹部)なのである。

2017年6月、JALは安倍首相のおひざ元である山口県長門市と「JAL向津具ダブルマラソン」を共催した。実行委員会の名誉顧問には昭恵夫人を据えるなど、一見、政権との距離を縮めたように見えるが、「この程度で安倍さんが籠絡されることはない」(自民党幹部)。JALの成長戦略は視界不良になっている。

(文・悠木亮平)


悠木亮平(ゆうき・りょうへい):ジャーナリスト。新聞社や出版社で政官財の広範囲にまたがって長く経済分野を取材している。

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み