平井一夫社長兼最高経営責任者(左)は会長に、吉田憲一郎副社長は新社長兼CEOに、それぞれ4月1日より就任するトップ人事を発表したソニー。
写真:小林優多郎
ソニーは2月2日、4月1日付で平井一夫社長兼最高経営責任者(CEO)が会長となり、吉田憲一郎副社長が新社長兼CEOに就任するトップ人事を発表した。
平井氏は「ソニーは3年単位で中期経営計画を定めているが、私が就任して、今年度は2回目の中期経営計画の最終年度に当たる。3年前の目標を上回り、このままいけば過去最高を上回る。好業績の時に次にバトンを渡すとともに、私自身も次のライフステージに移るつもりだ」と語った。
吉田氏は、平井氏の右腕、最高財務責任者(CFO)としてこれまでソニー再建に尽力してきた。
吉田氏を新社長に選んだ背景として平井氏は「ソニーが進むべき方向、考え方が私に似ている。強固なリーダーシップがあり、エンタメ、半導体、エレクトロニクスなどの事業をよく勉強し、知見も持っている。最適な後継者ではないか」と明かした。
一方、吉田氏は、今後のソニーについて「お客さまに感動を提供し続ける姿勢は変わらない。感動を届けるには感動を創らないといけない。我々はよりクリエイターに近づいていく。コンシューマーエレクトロニクスの方向性は変わることはない」とした。
2012年4月に平井社長体制となり、さらには2015年4月に吉田氏が副社長として財務面の強化に加わったことで、ソニーの事業再編は一気に加速した。パソコン「VAIO」事業の売却や、テレビ事業の分社化、エレクトロニクス事業の収益改善を進めたことで、営業利益が20年ぶりに過去最高を達成する見込みが立った。
平井氏はソニーの再建の中で「業績が回復するのは見えていたが、数字が達成するだけでは何の面白みも感じない」として、新規事業の開拓にも積極的に関与。新規創出プログラム「SAP(Seed Acceleration Program)」を立ち上げたり、2018年1月には、12年ぶりとなるイヌ型ロボット「aibo」を復活させた。
単に経営的な数字を回復させるだけでなく、ものづくりのソニーで、新しい芽が出るようにタネをまいてきた。
経営陣のキーパーソンに見る「新年度のソニー」
撮影:小林優多郎
4月1日からの新体制では、吉田氏の右腕として、十時裕樹氏が代表執行役 EVP CFOに就任する。十時氏は、現在、ソニーモバイルコミュニケーションズ社長とソニーネットワークコミュニケーションズ社長を兼務している。つまり「Xperia」と「So-net」「Nuro」というモバイルとネットワークの両方に強い右腕というわけだ。
また、十時氏はSAPの立ち上げに関与し、さらにAI・ロボティクスも担当。aiboやXperia Helloなども見ている。つまり、ここ最近、ソニーで目立つ動きのあるプロダクトは、十時氏の傘下で動いているものばかりなのだ。
ちなみに、吉田氏は、So-net、当時の社名でソニーコミュニケーションネットワークの社長を務めていたこともある。今後、コンシューマーエレクトロニクスの世界においても、5GやIoTへの対応は不可欠となってくるはずだ。
そんな中、吉田氏にとって、モバイルやネットワーク、さらにはAI・ロボティクスやスタートアップなど幅広く事業を俯瞰している十時氏は頼もしい存在となるはずだ。
過去最高の営業利益を達成して、新体制にバトンタッチすると聞くと、ソニーはとても安泰のように見える。しかし実際のところ、吉田氏、平井氏ともに強い危機感があるようだ。
吉田氏は「時価総額がすべてではないが、その昔、(世界の)時価総額上位の企業はエネルギーの会社が占めていたが、今はテクノロジーの会社が並ぶ。ソニーもテクノロジーの会社であるだけに、グローバルでの競争力において危機感がある」と語る。
好業績にあぐらをかかず、むしろ危機感を口にした平井社長。
撮影:石川温
確かに世界的な時価総額ランキングを見ると、アップル、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、アマゾン、テンセント、Facebookといった企業が並び、そこにソニーの姿はない(日本企業ではトヨタ自動車が最高)。
平井氏は「営業利益が過去最高になりそうだが、社内のマネジメントを含めて、気を緩めてしまわないかが大きな課題だ。危機感を持ってやらないと、すぐに5年前に戻ってしまう」と語る。
好決算も「安定性」は不透明
撮影:小林優多郎
実際のところ、2017年度第3四半期(9-12月期)の累計連結決算データを見ても、営業利益においては、テレビやデジカメなどのコンシューマー製品は為替の好影響を受けているところがある。また、映画事業などは「ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル」の劇場興行収入の上振れが営業利益に寄与した部分もあるなど、今後も安定して稼いでいけるか不透明なところがある。
ソニーにとって頼みの綱である半導体事業においては、中国のスマホメーカー向けのイメージセンサーの販売台数減少によって、通期の売上高が10月時点の見通しの8800億円から8500億円に下方修正を余儀なくされている。
また、モバイル事業においても、通期で50億円の黒字を見込むものの、売上高自体は、10月見通しの7800億円から7400億円と400億円の下方修正となっている。主にXperiaの販売台数が、1550万台から1400万台に減少することが原因だ。
いまだにソニーにとって、安定的に収益を上げられているのは、PS4のゲーム事業と金融事業という二本柱なのは変わっていない。吉田氏は、他の事業でいかに安定的に稼ぐかが急務となってきそうだ。
(文・石川温)