「GDPに替わる指標を企業からつくっていく」鎌倉資本主義とは何か?

「GDPという指標を追いかければ人は幸せになれる」という考え方に限界が来ていることは多くの人が感じているのではないだろうか。

より人が幸せを感じる資本主義の仕組みを —— そう考えて挑戦している地域がある。鎌倉だ。鎌倉という地域で企業や市民・行政が一体となって新たな経済圏をつくるこの試みを「鎌倉資本主義」と名付けたのは、鎌倉に本社を置く企業「面白法人カヤック」だ。

鎌倉資本主義とは何か。どんな挑戦なのか。提唱者のカヤック代表取締役の柳澤大輔さん、経済学者の柳川範之さん、鎌倉在住で『FREE』『SHARE』『限界費用ゼロ社会』などの翻訳出版も手がけたNHK出版編集長の松島倫明さんの3人にプロジェクトの詳細について語ってもらった。

鎌倉の風景

海と山が近い。この自然こそが鎌倉の財産という人は多い。

kenstockphoto / Shutterstock

GDP以外の価値観を指標化したい

Business Insider Japan(以下、BI):そもそも「鎌倉資本主義」はどのようにして始まったのですか。

柳澤大輔(以下、柳澤):経済的な指標を追いかけていくことも、もちろん面白いと思っています。ただ、それだけを追求していては物足りない時代になった、それは今、みんなが感じていることだと思います。上場した企業だからこそ取り組めることがあるんじゃないか、と思うようになりました。

僕なりに調べた結果は、GDPという分かりやすい指標が豊かさと直結するとされてきたけれど、そこに限界が来ている。GDP以外の指標が必要なんじゃないかという大きな問題意識がまずありました。

柳澤大輔

「地域に埋もれているGDP以外の価値観を指標化して、それを企業が応援すると豊かになるのでは」(柳澤さん)

僕は鎌倉でカマコン(ITを使って地元の鎌倉を盛り上げていく取り組み)という地域活動を約5年やっていて、その中でどうもローカルの中のつながりというのは人を豊かにするようだと。ローカルだからこそ人と人のつながりが強かったり、時には経済活動にカウントされない物々交換も行われていたり。豊かな社会関係資本を生かして、地方だからこそ新しい豊かさを考える指標のヒントがあるのではないかなと思ったんです。

地域に埋もれているGDP以外の価値観を指標化して、それを企業が応援すると豊かになるのではと思い、最初は地域資本主義という言葉を作りました。企業が資本主義を推し進めてきた結果、限界が来ているのなら企業がやる意味がある。かつ地域だと企業が行政や市民を巻き込んで一体化できる、と。

そこまで決めて、2017年10月、有識者の方に集まってもらって一緒に考えてもらった。

さらにブロックチェーンの技術もこのタイミングで登場しました。そもそもGDPに代わる指標といったところで、経済的価値に換算した瞬間に、そんなに(今までと)大差がなくなってしまう。だから新たな指標を作る際に、これまでの貨幣に変わる指標化のためのツールは必要だなと。そこにブロックチェーン技術が使えないかなと考えています。

BI:具体的にはどんなことから始めるのですか?

「まちの保育園」の完成予想図

「まちの保育園」の完成予想図。鎌倉で働く人・暮らす人の子どもを対象としており、鎌倉の環境・文化を生かしたカリキュラムなどが組み込まれる予定。

提供:カヤック

柳澤:その有識者の会議で話した取り組みを鎌倉で今後実践するにあたって、鎌倉の企業でみんなで協力してやっていく必要があるので、まずは鎌倉の地元企業で、一緒になってさまざまなプロジェクトをスタートしています。

まずは「まちの保育園 鎌倉」を作ります。鎌倉の企業や行政、各種団体が会員企業になって、地元の飲食店が週替わりでメニューを提供する「まちの社員食堂」も動き出しました。

まちの保育園 鎌倉」:鎌倉で働く人・暮らす人の子どもを対象とした地域に根ざした保育園。設置はカヤックと「鳩サブレー」の株式会社豊島屋、運営は一般社団法人Telacoya921が担う。

まちの社員食堂」:鎌倉で働く人を対象とした、地元レストランが提供する定食を安価で食べられるサービス。すでに十数企業が加盟を決定し、準備中。

信頼や共感、つながりに根ざした経済

まちの社員食堂のメニュー

4月16日にオープン予定の「まちの社員食堂」。メニューは地元レストランが週替わりで提供する。価格は、朝:500円、昼:800円、夜:900円(全て会員価格)。

提供:カヤック

BI:柳川さんはこのテーマを相談されたときにどういう印象を持たれましたか?

柳川範之(以下、柳川):経済学者として、資本主義という不十分なメカニズムをどういう風に変えていくかは課題としてあり、その中で「地域性」に根付いた資本主義のメカニズムは大事だなと漠然と思っていました。

(参加してみて)二つの点で面白かった。一つは、GDPやROEを前提にしたのでは考えられない「本質的に何が大事なのか」を根本から問いかけることができたこと。もう一つは、鎌倉という場所が(新しい資本主義を作るために)もたらしてくれる雰囲気を肌で感じられたこと。

BI:松島さんはこの構想を聞いたときに、どう感じられましたか?

松島倫明(以下、松島):僕もカマコンのメンバーなので、柳澤さんがついにぶち上げたなとすごくワクワクしました。

いろいろと本を手がける中で、資本主義とは別の軸としての無料経済とかシェアリングエコノミーのようなものが何かありそうだと思っていて。つまりそれは、資本主義が根ざす貨幣資本ではなくて、信用や信頼、共感やつながりのような社会関係資本に根ざした経済だと思うんですね。

鎌倉

「鎌倉は人口が17万人とコンパクトで、つながりの経済圏がある」(松島さん)

鎌倉って人口が17万人とコンパクトで、そこには確かにつながりの経済圏がある。例えばカマコンでのプロジェクトからつながりが生まれビジネスや大きなイベントに発展したりとか、目に見えない社会関係資本がこの鎌倉にはものすごくたまっているんです。

そういう意味で、鎌倉資本主義はGDPと別に新たな指標を作ってこの社会関係資本を可視化しようというところが面白いと思うんですね。今、地域通貨もどんどん生まれてきて、地方自治体がICOする時代に「地域の豊かさ」をどう指標に落とし込んでいくのか。ブロックチェーン技術の可能性も含めてとても興味があるところですね。

人間にとっての幸せって何だっけ?

BI:こうした地域資本主義的な挑戦は鎌倉でしかできないんでしょうか?

柳川:半分イエスで半分ノーですね。どこでも同じことが成立するわけではないんだけど、鎌倉でしか同じことが起きないかというとそうではないと思っています。社会科学者としてはその事例を普遍的なものにしていくところに関心があります。

松島:人的ネットワークや信頼関係のような、地域に根付いた目に見えない資産自体が価値を生み出していく、ということだと思うんです。ただ、地方にはそういうところはたくさんあると思うのですが、鎌倉は東京から1時間かからず、ヒトもお金も文化も濃密な交流がありながらも、地元では顔の見える関係が築きやすいというユニークさがありますね。

柳澤:鎌倉が海と山と文化的資本がありコンパクトシティでコミュニティーが密ということはあるかもしれないですね。僕は鎌倉出身じゃないのですが、カヤックを3人で起業したときに場所も重要だということで、鎌倉を選んだんです。

こうした試みにはリーダーとして引っ張る役割としての企業は必要だと思いますが、行政なども乗れるような指標を作ることが重要だと思います。産業を集積させるなどの工夫も必要でしょう。それをしつつ行政と企業でつながるコミュニティーをつくり、行政のリーダーも巻き込みながら今までのGDPと違う指標を一緒につくっていく。

BI:指標というのは例えばどんなものが考えられますか。

鎌倉資本主義の公式ウェブサイト。

鎌倉資本主義の公式ウェブサイト。いくつかのプロジェクトが同時進行中だ。

提供:カヤック

柳川:蓄積できる信頼関係やアイデア出し、知恵の出し合いの大きさということなのだと思いますが、客観的に指標化するのはなかなか難しい。それを地域通貨のようなものを用いて、可視化していこうというのが、現在のイメージなのでしょうね。

柳澤:「地域資本」をはっきりと定義して、例えば「自然」という地域資本があるとすれば、それへの影響力、という指標もあると思うし。今いろいろアイデアは出ているところですね。

松島:自然や身体性とLiterature(文芸/文学)を再接続するというコンセプトで「鎌倉Lit.(カマクラリット)」というプロジェクトを最近立ち上げたんです。もともと鎌倉では100年ほど前に「鎌倉文士」と呼ばれる作家たちが活躍していました。でも鎌倉という海も山もある場だったら、身体性とクリエイティビティ―を接続することで、新しい今の時代のクリエイティビティーを生み出せるんじゃないか、と。

AIの時代になって、おそらくどんどん仕事もなくなっていく中で、僕たち人間にとっての幸せってところで何だっけ、とこれからずっと問い続けていかなくてはならない。言うなればウェルビーイングがますます問われる中で、それをしっかり可視化できるプロジェクトがどれだけ生まれてくるかというのが、地域においてすごく大切だと思っていて。

鎌倉は寺社仏閣などの観光スポットがあり、観光客が来てお店で消費して帰っていくというサイクルができあがっている。でも去年、鎌倉の建長寺さんで開催された「Zen2.0」というイベントのように、もっとソフト面の社会資本を可視化していく動きがどんどん生まれている。10年後ぐらいには、鎌倉という街のイメージがガラッと変わっている可能性もありますね。

ウェルビーイング」:心身および社会的にも良好な状態であること

左から、柳川範之さん、柳澤大輔さん、松島倫明さん。

左から、柳川範之さん、柳澤大輔さん、松島倫明さん。

UberやAirbnbではない「シェアエコ」

BI:今のシェアリングエコノミーって、使う人を選んでいると感じます。例えばAirbnbを高齢者が使えるかというとなかなか難しい。信用経済の恩恵を被る人と被れない人の格差が広がってきていませんか?新しい資本主義といった場合、限られた人のものになるという恐れはないでしょうか?

柳川:何かの仕組みを作る側の人と利用する人とでは、理解できることは違っていいと思うんです。テレビだってそうでしょう。なぜテレビが映るかを知っている人はあまりいませんが、皆テレビは見ますよね。実際ブロックチェーンなども全然知らなくても使えることも必要だろうし。

UberとAirbnb

大企業が推進する「シェアリングエコノミー」に限界がきている?

easy camera / Shutterstock

シェアリングエコノミーも流れとしてはその方向で、名前も知らない人の車にも乗れるし、名前も知らない人の家にも泊まれる。それは匿名性があってもうまくいく仕組みってことなんですね。

それに対して、今回の鎌倉資本主義というのは逆の動き。完全な匿名性ではなく、ある程度顔が見えて名前が分かる関係性の中でやっていきましょうと。とはいえ昔の村のように全員が全員のことをよく知っているという世界には戻れないので、技術を使う。技術を活用することで、顔が見える範囲でできることを広げていきましょうというのが特徴です。

そのメリットは理念の共有ができること。そうなるとある種のサイズ感は必要です。昔の村社会よりは広がるんだけれども、誰でもという広がりがあるわけではなく、部分的に閉じられている。だからこそ深いつながりでできる。

松島:シェアリングエコノミーで言うと、世界には二つの潮流があって、一つはアメリカ型のUberとかAirbnbみたいに、結局は中間業者が入って、眠っていた個人資産を売るプラットフォームを作るもの。ある日本のクラウドファンディングの社長も言っていたんですが、それはシェアリングエコノミーじゃなくてセラブル(Sell-able)エコノミーだと。

一方で、そういった巨大テック企業に懐疑的なヨーロッパはちょっと違っていて、地域コミュニティーや人々の生活におけるウェルビーイングにいかにシェアリングエコノミーを使えるかという動きが地方自治レベルで始まっていく。そこには補完性原理がしっかり働いています。「鎌倉資本主義」はどちらかといえば、ヨーロッパ型なのかなと。

補完性原理」:まずは地域など小さな単位で自治や決定を行ない、それで不十分な場合により大きな単位(地方や国など)でそれを補完する、という原則

松島倫明

「匿名性が生み出す格差に対するカウンターを作らなければならない」(松島さん)

先日たまたま調べたのですが、2014年の時点で世界の富の半分が人口の2%に集中していた。それが2015年には1%になって、そして2016年にはそれが80人になり、去年(2017年)はついに8人で世界の富の半分を独占するまでになったんですよ。それでよく資本主義って回るものだと、ある意味で乾いた驚きすら覚えます。

そういう意味ではどうやらこのゲームも最終局面みたいだし、グーグルやアマゾンが社会のインフラとして公共事業をやってもらわないと困る段階になっている。だから僕らが資本主義をどうこうするというよりも、別の軸を作って、まさに匿名性が生み出す格差に対するカウンターを作らなければならないのだと思います。

僕はキーワードは、ジェレミー・リフキンが『限界費用ゼロ社会』で語っている現代の「コモンズ(共有地)」だと思っています。もともとコモンズって村の共同牧草地のようなもの。自分の牛ばかりに全部の牧草を食べさせずに共同で土地を維持管理する。これを何百年も人はやってきた。今のGDPの限界や格差という問題について僕らが自分ゴト化してコミットしていくためには、ある種のコモンズ的なサイズ感が必要なのかなって思っているんです。

柳川:鎌倉のコモンズとは何かを見える化して指標を考えるのもこのコミュニティの役割だと思いますね。

ビジネスに社会問題解決を取り込んでいく

柳澤:指標については昨年10月に集まってくれたメンバーでもう一度集まって決めて、1年経ってからお披露目しようと思っています。今は「鎌倉資本主義」という言葉が先行して、まだ指標も決まっていない。ただ活動しやすくするためのアクションが出始めたぐらいなんです。その段階で発信するというのは、ある意味見切り発車というか、インターネット的なんですが、僕はまず言葉を発信することが大事だと思って「鎌倉資本主義」という言葉をバンと出しました。

でもその状態で発信しても、意外と興味を持ってくれる人がいる。中身がないのにね、まだ(笑)。

BI:他の企業にもこういう動きがあってもいいのでは、と思いますが、なかなか出てこない。

柳川範之

「より多くの企業が、長期的な視点で社会を考えていくことが必要」(柳川さん)

柳川:短期的な利益を追い求めるあまり、長期的なビジョンで考えなければならないことがやりづらくなってきている状況はあると思う。でも大企業の中でも、そういうことを考える企業も少しずつは出てきている。より多くの企業が、少し長期的な視点で社会を考えていくことも必要でしょう。

松島:今の資本主義の中では、そもそもお金自体がコモディティ化している面もありますよね。お金を回して成り立たせる経済の隣に、お金ではない社会関係資本で交換できる価値がどんどん増えていっていると思います。企業も、そこを取り込んでいかないと全体としての価値の最大化はできないと気づいてきている。

世界の大きなトレンドとしても、SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)のような社会問題解決とビジネスの距離がどんどん近くなっているのは確かで、大企業が公共政策的なビジネスを始めたり、シリコンバレーのシンギュラリティ大学なんかもまさに社会起業のハイパーテクノロジー版みたいなものです。つまり、資本主義とそのオルタナティブがますますかい離する中で、それを資本の側にもう一度取り込もうとする企業の動きも大きくなっている。

だから鎌倉資本主義という試みは、株主にも地域の人々にも分かりやすい指標を作ってそれをけん引していくという意味で、ハイブリッドな新しい動きを日本でいち早く始めたものなんだと思います。

柳澤:利益を追求することは、会社である以上、当然果たしていくべきです。ただ、それに加えた活動として、自分たちなりの使命で取り組んでいるというだけなんです。

柳川:根本から何かを変えたり、見直すっていうのはやっぱりリスクが高い。今までやってきたことを少しでも変えるって方向性の方が現実だと考える風潮があります。もちろん現実な部分も必要だとは思いますが、その比率が大きすぎちゃう。

今は時代の転換期なので、面白いことにチャレンジする企業も、もう少し増えてくるのではないでしょうか。

(聞き手・浜田敬子、西山里緒、構成・西山里緒、写真・今村拓馬)

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