エリート就活生でじわじわ進む大手サイト離れ。学生売り手市場で採用激化

大手就職情報サイトを通じて、学生は大量にエントリーし、企業は膨大なエントリーシートの選考に追われる —— そんな就職活動の風景にここ数年で変化が起きている。

若手社員不足が深刻になる中、企業は待っていてもいい人材は来ないとばかりに、学生に直接声を掛ける「逆求人型」や社員のツテをたどる「リファラル採用」などに力を入れる動きが加速。

企業にアクセスする手段が増えたことも手伝い、リクナビやマイナビといった大手就活サイトに登録はしても「使わない就活」が、一部の学生の間でスタンダードになりつつある。 学生にとって究極の売り手市場が、長く続いた大量エントリー型就活を変えつつある。

うつむく就活生。

構造的な若手不足が、新卒人材争奪戦を生んでいる。

YuyaShino/Reuters

「情報が多過ぎる」

「正直、リクナビやマイナビは全く使わなかったですね」

慶應義塾大学商学部4年の男性(23)は、屈託無くそう話す。

この春には、大手外資金融に就職が決まっている。就活に使ったのは、留学中にボストンで催された海外留学生向けの就活フォーラムと、外資系企業に絞ったベンチャーの就活サイト。 周囲でも、大手就職情報サイトを使った就活は、あまり見なかったという。

「慶應特有なのかもれませんが」と前置きはしつつ、「OBOG訪問がいろいろあるし、商社や外銀(外資系の投資銀行)希望みたいに志望業界が決まっていれば、大手就活サイトは、必要ない情報が多過ぎる」と、感じている。

「(大手就活サイトを使うと)すごい量のメールが来て、何が何だか分からなくなるので、使わなくなりました。その代わり、大学のOBが就活体験を話す説明会とか、友達伝いに入って来た説明会には行きました。時期はわりと早くて3年生の春ぐらいから。行きたい会社には直接エントリーしました」

東京大学文学部3年で、メディア志望という女性(21)もそう言う。 友人からの情報網は大切だ。

採用コスパを重視

企業側にも変化が起きている。

「大手就職情報サイトを通じた採用は、減らしていく方向です。そこに充てる費用も年々、減らしています」

合同就職説明会

Yuya Shino/ Reuters

そう話すのは、大手外資IT企業の人事担当者だ。

同社では2年前から、会ってみたい学生に企業側から声をかけるダイレクトリクルーティングの採用を取り入れた。学生がプロフィールを入力したデータベースから、必要な人材を企業が検索して会いたいと「オファー」するプラットフォームサービス「OfferBox」を使っている。

当初は「あと2人だけ採用目標に足りない」といった人数調整のために使い始めたのだが、年々、直接オファーする形式の採用比重は高まっているという。

「会社としての考え方が、大勢の候補者から100人選ぶのではなく、100人の候補者全員にオファー(内定)を出して、全ての方に受諾してもらう方向にシフトしてきた」と、担当者は話す。

同社は世界的な再編を経て、組織のスリム化を図って来た。

「採用にかけられる人数や予算も限られる中で、効率的な採用プロセスにかじを切れた」

プレミアム体験を提供

企業側から学生に声を掛けるダイレクトリクルーティングのような「逆求人型」のサービスは実際、種類もユーザーも増えている。

「この2年間では、利用企業が毎年1000社ずつ増えています」

「OfferBox」を提供するアイプラグは2014年にサービスを開始し、登録企業3400社、登録学生6万8000人と利用者を伸ばしている。

パーソルキャリアも2017年に、ダイレクトリクルーティングサービスの「DODAキャンパス」を立ち上げ、すでに4000社が登録している。「学生から見ても『その他大勢のうちの一人ではない』という意識につながり、内定承諾の意向の確率を上げているようです」(担当者)と、強調する。

ビズリーチも、学生の登録プロフィールを基に企業が「スカウト」する「ニクリーチ」を2015年に開始。単なる声がけではなく、肉料理ランチやディナー、「いきなり社長に会える」など「特別な体験」というプレミアムを企業側が提供する。

就職説明会議

一律で大量エントリーの時代から、就活自体が多様化している。

YurikoNakao/Reuters

大半は王道タイプだが

大手就職情報サイト離れを彷彿(ほうふつ)とさせる動きが相次ぐが、「使われなくなったというよりは、就活のタイプが分かれて来たという印象です」と、ビズリーチ新卒事業部長の小出毅さんは言う。 「長年、新卒領域に携わってきた肌感覚」とした上で、就活生のパターンをこう分類する。

1.自走タイプ…一を聞いて十を知るように、情報を得ると自分で考えて決断し、最短ルートで内定を取る。全体の5%ぐらい。

2.フォロワータイプ…意欲があって行動量がとんでもなくある。これだ!と思った内定者や新入社員についていく傾向がある。全体の10〜15%くらい。

3.王道タイプ…大手就職情報サイトを使って、従来の就活をやる。就活解禁に合わせて動く。全体の60〜70%くらい。

(残りは全く活動しないなどその他)

優秀層の自走タイプや、就活に熱心なフォロワータイプは、独自に情報を集めて早期に行動するので、大手就職情報サイトに頼らない傾向があるという。「大半の学生は王道タイプで、従来通りの大手就活サイトを使っている。ただ、就活が多様化しているのは事実」(小出さん)と、“ナビ頼み”だった就活からの変化を感じている。

氷河期時代に拡大した就活ナビサイト

「リクナビ」により、就活の一時代を切り開いたリクルートはどうみるのか。 ナビ離れについては「実際の学生や企業の就職サイト利用の過去5年分のデータを見ると(就活チャネルの中で)学生・企業の利用率はむしろ上がっています。とくに顕著なのが中小企業の参入です。人口構造的に今後も若年層が増える見込みはなく、新卒採用に対する企業の危機感は、むしろ強くなっている。企業は(大手就職情報サイトという)オーソドックスな手法を手放さないと見ています」。

リクルートキャリアの就職みらい研究所の岡崎仁美所長はそう指摘する。

ただし、同じく若手採用難を理由に「ナビ『頼り』ではなくなりつつあるのも事実。採用市場の戦いが激しい分、他の手法も考えるので(採用方式が)複線化していると捉えています。一本足だとしんどい、ということだと思います

リクナビ、マイナビのような大手就職情報サイトが台頭したのは、インターネットの普及が進んだ2000年代前半だ。

「当時は超氷河期で、学生は就職活動に熱心に取り組む必要に迫られ、企業には採用をよりシンプルにしたいというニーズがあった。多様化のインセンティブは働かなかったのでしょう」(岡崎さん)

求人総数と求人倍率の推移

リクルートの調査による、求人総数と民間企業就職希望者数の推移。

出典:リクルートワークス研究所

しかし今、日本の人口に占める30歳未満の割合は、1990年時点で4割だったのが、2014年で27.6%と3割を切った。2050年の年少人口(0〜14歳)は2005年比で900万人減少することが推計されており(国立社会保障・人口問題研究所の調べ)、構造的な若手不足は明白だ。

「時代環境に最適化した結果が、採用手段の多様化」と、岡崎さんはみる。

現実はさらに、シビアだ。前述のビズリーチ小出さんは言う。

「(ニクリーチなどを使って)学生に会える確率は高いですが、実際にそこから採用できるかは別。あらゆる手段を使ってそこから魅力を伝えましょうと、企業には伝えています」

人口減少社会の新卒人材は、金の卵どころか、プラチナ級の希少価値の様相を帯びている。

(文・滝川麻衣子)


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