ダイバーシティという言葉は浸透しているものの、個人でできることはまだまだ少ない —— 。そう感じている人に大きな気づきを与えてくれるのがHeForSheだ。HeForSheとはUN Womenによるジェンダー平等のための連帯ムーブメント。日本では2018年3月の国際女性デーに合わせて、2回目となるイベントを開催する。今回のテーマは「マインドセット・チェンジ」。なぜこのテーマなのか、どんな人に何を伝えたいのか、イベントを企画するPwC Japanグループの梅木典子さんとユニリーバの島田由香さんに思いを聞く。
東京・大手町の皇居を望むPwC Japanグループのオフィスで対談を行った。社内イベントなどを行うラウンジには常に「HeForShe」のパネルが掛けられている。
「ダイバーシティをやらない会社は死ぬ」のショック
梅木典子さん(以下、梅木):2017年3月に初めて行ったイベントは大盛況でした。「いろんな気づきを得ました」とか、「勇気をもらいました」という声をたくさんいただいています。HeForSheの基本的な考え方は、「ジェンダー平等のためには、女性だけでなく男性の理解とサポートが必要」「ジェンダー平等は女性のためだけでなく、すべての人々のためになる」というものですが、この考え方を皆さんが理解してくれて、「ダイバーシティを浸透させていくには、一人一人がアクションを取ることが大事だと思った」という声が多かったですね。
—— 「ダイバーシティ」という言葉は浸透してきていますが、まだまだ実際に何をやればいいかわからないところがありますよね。
梅木:それは実感しています。イベントから1年経ったけれど、状況はそれほど変わっていない。イベントに参加した直後は気分が高揚しても、日常生活に戻ると、その時の気持ちを忘れてしまうでしょう。だから繰り返し伝える必要がある。継続することが必要だと思います。
島田由香さん(以下、島田):第1回はカルビーの会長兼CEOの松本晃さんやpeople first社長の八木洋介さん、カゴメの人事最高責任者である有沢正人さんの3人が登壇してくださったのですが、あのパートの反響が特に大きかった。おそらく企業の経営者や幹部である男性が、「ダイバーシティのない会社はこれから生き残れない」と断言したのが良かったと思いますね。
梅木:鮮明に覚えています。八木さんは「ダイバーシティをやらない会社は死ぬ」とはっきりおっしゃったんです(笑)。
島田:意外に男性からの反応が多かった。「自分ではダイバーシティについてわかっているつもりでいたけれど、改めて考えされられた」という意見をたくさんもらいました。今回のテーマは「マインドセットは自分で決める」ですが、そもそも誰かのマインドセットを変えることなんてできないんです。ただ、ある条件の下では変わる。それは「変わろう、変えよう」と本人が思った時。私たちにできることは、そう思えるための刺激を与えることです。
PwC Japanグループでは社内で月1回「インクルージョンカフェ」と題してダイバーシティを考えるセッションを開催。「社内の男性が変わってきている」と社内の男性が変わってきている」と同グループ ダイバーシティ推進リーダーの梅木典子さん。
すべての人が無意識のバイアスを持っている
—— そもそもなぜ、PwCとユニリーバがHeForSheに関わることになったのですか?
島田:UN Womenでは、ジェンダー平等を推進している10人の企業経営者、10人の各国首脳、10人の大学学長を世界中から選んで、「インパクトチャンピオン」としています。この10人の経営者の中に、PwCのグローバル会長とユニリーバのグローバルCEOが選出されていました。そして日本の安倍首相も名古屋大学の松尾総長も選ばれていた。それなのに、HeForSheはあまり日本で知られていませんでした。そこで(いまロンドンにいる)PwCの唐木明子さんから「企業側から何かやらない?」と声をかけてもらって、そこからプロジェクトが始まったんです。
梅木:そして、UN Womenの日本事務所にも文字通り突撃(笑)。同事務所があり、ジェンダー平等への取り組みで知られる文京区も協力してくださることになり、どんどん仲間が増えて4者共催になりました。
—— 面白い座組みですよね。企業2社と、行政と、しかも国際機関。違う文化を背負っている人たちが一緒に仕事をするというのも、ある種のダイバーシティの実験ですよね。
島田:本当にそうです。だからプロジェクトを進めていると、正直に言ってお互いに「えっ」と思うことも少なくないと思う。でもそれは当たり前です。組織によってルールは違うし、そこでいいとされていることが違うわけだから。でもイベントを素晴らしいものにしようという気持ちは皆同じだから、「コンフリクト大歓迎」といって、準備を進めてきました。
梅木:ダイバーシティに関するイベントに登壇する人は、決まった分野の方々が多いと思います。でも私たちは前回、「未来の働き方」というテーマで脳科学やAIの専門家にもお話ししていただいて大好評でした。今回のイベントは業種という意味でも、「えっ」という驚きがあるはずです。
島田:誰もが持っている「思い込み」に気づいてほしい。そういう思いでゲストをお招きしています。南谷真鈴さんはまだ大学3年生なのに七大陸最高峰日本人最年少登頂記録を持っているし、坪内知佳さんはまったく知り合いのいない漁業の世界、しかも山口県の萩市に一人で飛び込んで、漁師たちを束ねていらっしゃいます。ダイバーシティでの思い込みというと、「男とは」「女とは」というジェンダーが問題になることが多いけれど、年齢や仕事の内容、職業に対しても思い込みがあります。たとえばオフィスワークのほうが何となく偉い、というような。でもそんなことはなく、漁業や農業がなければ日本はやっていけない、大事な産業なんです。
一方、“日本のおじさん”は変わらないと言われているけれど、そうではないことも伝えたい。自身や周囲に変化を起こしている代表として、people firstの八木洋介さんと、文京区長の成澤廣修さんに、どのように周りを変えてきたのかをお聞きします。
梅木:確かに「思い込み」ってありますよね。男性管理職の女性に対するアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)ばかりが問題視されていますが、実は女性の側にもそれはあります。私自身も「男の人はこうだ」というバイアスを持っていると気付かされました。女性自身がそれを自覚することも大切です。
ユニリーバ・ジャパンで人事担当の取締役を務める島田由香さん。働く時間・場所を社員が自由に選べる新しい働き方「WAA」を、社内外に広める活動もしている。
あなたも小さな一歩を踏み出せる
—— ダイバーシティというと、特に企業の管理職には「義務」としてとらえられがちです。だからこの手のイベントにはどちらかというと行きたくない、というムードもあります。そんな中でどうしたら自分の体験として持ち帰ってもらえるかがポイントですね。
島田:そうですね。だから企業の大小にかかわらず経営者や、人を育成する立場の人に、男女問わず来ていただきたいと思っています。とにかく来ていただければ、このテーマでこのスピーカーなら、絶対に持ち帰るものがあるから。そしてできれば、「こんな話を聞いてきたよ」と人に話してシェアしてほしい。
梅木:学生さんのような若い人にも、自分の中に可能性を閉じ込めていることに気づいてほしいと思っています。人生100年と言われている時代、わくわくした生活を送っていくには、自分がアクションを起こすこと。自分への投資だと思って、半日時間を取ってぜひイベントに来てください。わくわくしながら輝いている人たちの話を聞けば、自分も何かしたいと思える。そこから小さな一歩を踏み出せるんじゃないかな。そうしたらそれを見た人たちも「じゃあ自分も」となる。そんなふうにどんどん広まっていってほしいなと思いますね。
島田:社会を変えていくために、企業にも役割と責任があると思っています。まずは個人に、一人一人が重要な存在であることに気付いてもらうこと。国や学校だけに任せず、企業も一緒にそれをやっていく。だからHeForSheの活動は、世界中から日本に注目が集まる2020年までは少なくとも続けていきます!
HeForSheとは? (UN Women日本事務所代表 石川雅恵さん)
UN Womenによるジェンダー平等のための連帯ムーブメント。
かつてジェンダー平等は「女性による女性のための取り組み」と認識されていましたが、現在では全ての人の参画なくして達成できないという理解が浸透しつつあります。
HeForSheは「女性だけでなく男性の理解と参加、そして自らも声を上げ行動することが必要」「女性だけでなく、すべての人々のためになる」という考え方に基づいて、これに賛同する方に署名をいただいています。
その数は世界中で160万人、日本では安倍晋三首相をはじめ、5100人以上(2018年1月現在)が署名をしています。
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PwC Japanグループは、2018年3月16日(金)に開催される名古屋大学HeForSheセミナー(入場無料)に協賛しています。世界の10大学に選ばれた大学 を中心に産学官の代表が集まり、ジェンダー平等を実現させるためのベスト・プラクティスを発信します。
島田由香(しまだ・ゆか):ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長。慶応義塾大学卒業後、株式会社パソナに入社。米国コロンビア大学大学院修了。日本GE株式会社を経て2008年ユニリーバに入社。HRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー等を経験。2014年より現職。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLP®トレーナー。日本の人事部HRアワード2016 個人の部最優秀賞受賞。
梅木典子(うめき・のりこ):PwC Japanグループ ダイバーシティ推進リーダー。1995年公認会計士登録。金融機関の財務諸表監査に数多く従事。2009年から財務報告アドバイザリー部にて金融機関向けにアドバイザリー業務を提供。日本公認会計士協会の女性活躍促進協議会の専門委員長、広報委員会の委員長を務める。2011年よりPwC Japanグループのダイバーシティ推進リーダーを務める。