食品廃棄率1/20、農家の取り分1.5倍 —— 食材流通テックが挑む非効率ただす「中抜き革命」

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店頭に並ぶも、口に運ばれることなく廃棄された大量の恵方巻きの「食品ロス」が世の中を騒がせている。

恵方巻きの一件はわかりやすい例だが、実は私たちがほぼ目にすることがない業務用青果流通でも、日々大量の食品ロス(廃棄)が発生している。例えば、レストランなどへのB2B流通にまつわる廃棄だ。一般的に、青果の流通段階での廃棄率は20%前後もあるとされる。

これをテクノロジーで限りなくゼロに近づけ、それによって食材価格を下げて、農家の取り分も多くできないか?

「流通の仕組みを変える」という難題に挑むスタートアップが現れている。

レストラン需要を予測して農家と「直結」、ロス率0.88%

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現在、国産の青果流通の8割以上が、卸売市場を介して行われている。その基本的な流れは、農協などの集荷組織に農産物を出荷すると、ほかの生産者の品物と混ぜられ、その時の相場で販売されるというもの。

農家から見ると、自分の生産物がどう消費されたかは、ほぼ何もわからない。農家の収入は、平均で小売販売価格の5割弱。こうした情報の非対称性を抱えた流通形態は長年続いてきた。

農産物流プラットフォーム「SEND」を運営するスタートアップ企業、プラネット・テーブルの菊池紳社長(38)は、「どうすれば農業を、自分たち世代でも継ぎたい職業にできるのか」を考えて起業した。

SENDを運営するプラネット・テーブルの菊池社長

SENDを運営するプラネット・テーブルの菊池紳社長。「SEND」は2015年8月にサービス開始。現在は社員42人、アルバイトなど含め約100人の組織になった。

撮影:山口亮子

SENDを運営するプラネット・テーブルの菊池社長

生産者の畑にも頻繁に訪問しているという。

プラネット・テーブル

「生産と消費の間にある流通非効率や情報の壁の解消」を掲げ、2015年8月にサービス開始。現在、全国4500以上の生産者と、都心部を中心とする4100軒のレストランとを直接結ぶ。

菊池さんは、外資系金融機関、コンサル、投資ファンドという異色の経歴を持つ。そんな彼が農業の世界にどっぷり飛び込んだのは、「実家の農家を継がないか」と声をかけられたのがきっかけだった。

「ほかの人と違うことをして頑張って作っても、既存の仕組みではエンドユーザーからの評価がフィードバックされない。それに見合う対価も得られるとは限りません。“評価”と“対価”がきちんと得られる、努力がきちんと報われてモチベーションが維持できる世界があってもいいと思ったんです」

起業時の心境を菊池さんはそう振り返る。

一般的に農家から買い取った生鮮食材の流通時の廃棄率は20%前後と言われる。それをSENDでは20分の1の「0.88%」(菊池さん)という低廃棄率に抑えた。

一体どうやって実現したのか?

SENDでは、農家への生産発注を、レストランのオーダーの履歴などから生成した、独自の需要予測システムに基づき行なっている。農家は、発注された野菜を「トマトなら完熟」「リンゴなどフルーツは樹上完熟」など、最も良い状態のときに収穫し、都内にあるプラネット・テーブルのハブとなる倉庫に発送することで、同社に全量を買い取ってもらう。

つまり、あらかじめ必要な数だけを農家に発注することで、「作物の作り過ぎを防ぎ、廃棄率を圧縮」する。これがポイントだ。

一方のレストランは、朝の6時までに、ほしい品物をスマートフォンなどの専用ページから注文する。すると、ハブで仕分けが行われ、専門の配送員がその日のうちに注文の品を一個から送料無料で届けるという仕組みだ。ハブがあることで、生産者は一定量をまとめて出荷でき、シェフは少量多品種の「新鮮な野菜」を手軽に入手できる。

販売額の8割が農家の収入、全量買取で経営も安定

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プラネット・テーブルによると、SENDの需要予測システムでは、レストランごとの注文履歴、立地、客層、席数、女性客の割合、近隣のイベントや天候といったデータを収集・分析しているという。こうしたデータは、SENDのサービス開始から2年半の蓄積を経て、さらに確度の高い予測を可能にしている。

将来的には深層学習などの機械学習の手法を使って、より精度の高い予測のできるシステムを完成させたいと意気込む。

こうした仕組み化のおかげ、農家取り分(=生産性)は大幅に改善する。実に、販売額の8割が生産者の収入になるという。

SENDのマッシュルーム

マッシュルームは傷つきやすく、通常の流通だと正品率が低く高値になってしまう。だが、ソース用なら多少の傷は問題がないので、SENDなら写真のような簡易な梱包でリーズナブルに提供できる。

プラネット・テーブル

「以前は大田市場の仲卸からの野菜の購入がメインだったが、市場流通の野菜は形がそろっていても、味はいまいちというものも多かった。それに対してSENDは新鮮で、生産者がこだわって作っている美味しいものが多いし、値段も安い」

2017年まで渋谷のレストランでシェフを務め、今は六本木のイタリアンレストランの開店に向けて準備している小久保隆彦さん(34)は、サービス開始当初からSENDを使ってきた。新しくオープンするレストランでも「必ず使う」と断言する。

千葉市の農家で、農業コンサルタント「スカイアグリ」代表の大久保昇さん(41)も、当初からのユーザーだ。「コールラビ」や「サヴォイキャベツ」といったマイナー野菜などをSENDに出荷している。地元の直売所でも販売するが、売れた分しか収入にならないので売り上げの変動が大きい。その点、全量買い取ってくれるSENDは売上の予測が立つので、経営の安定化につながるという。

SENDは2018年春、従来のハブの8倍の広さの倉庫を都内に完成予定だ。サービス対象エリアも東京23区全域に広げ、さらに横浜市、川崎市、千葉市、さいたま市近辺まで拡大するという。

農家と買い手がリクエストし合う、別の流通プラットフォームも登場

飲食店と農家を結ぶ既存のプラットフォームを、大きく様変わりさせようとしているスタートアップもある。鈴木輝代表(41)が2014年に立ち上げたサービス「ツナグproject1×2×3」の運営元のブレイン(静岡・富士宮市)だ。ツナグでは、農家側の青果の販売価格1.5倍、買い手側の購入コスト圧縮30%をうたう。

「ツナグproject1×2×3」

「ツナグproject1×2×3」のWebサイトより。

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ブレインの運営するプラットフォーム「ツナグproject1×2×3」。買い手から農家に作物をリクエストするほか、農家から公開される作付け情報や収穫情報に買い手が応札することもできる。手数料は取引高に対し、農家と買い手からそれぞれ1割を受け取る。

SENDとは少し違い、「生産者が作付けの計画を公開し、ほしい飲食店が注文する」、あるいは「飲食店側からほしい野菜のリクエストを出し生産者が応える」という双方向のプラットフォームであることが特徴。全国の500超の農家と500超の飲食店が直接取引に利用している。

ブレインは創業した2003年から2016年まで、メーカーと組んで農業用資材の通信販売のマーケティングを手掛けていた。北は網走から南は石垣島まで、3万戸を超える農家とつながりがある。「農家が作っても売れない、コスト割れする」といった問題に苦しんでいるのを目の当たりにしてきた。

生産物の出口を何とかしなければ農家は幸せになれないという思いから、「ツナグproject1×2×3」を立ち上げ、現在はこの事業にピボットしている。

ブレインは2018年、買い手の主力をこれまでの飲食の個店から、食品加工会社や、チェーン店のセントラルキッチンにシフトしようと動いている。

「農家にとっては一定の出荷量と単価が重要。業務用に大量の青果を使う(加工会社などの)業態と、直接契約を結んで栽培し、販売できるようにしたい。これまでのB2Bは、『こだわりの野菜』とか『有機』といった修飾語が付くものがほとんど。そうではなく、ジャガイモやキャベツといった定番野菜の量を出せて、なおかつ市場よりも農家がもうかる仕組みをつくりたい」と鈴木さんは意気込む。

完全なマーケットイン(需要に基づいた生産)にすることでロスを抑え、かつ経営を安定させる。決済には第三者が取引の安全を担保するエスクローシステムを導入しており、農家は買い手の不払いの心配をしなくて済む。

ブレインは今後、新たな事業領域として全農家の生産履歴管理も手がけていく方針だ。自前でサービスを完結させるのではなく、他社の生産履歴管理システムを取り入れるなど、外部と柔軟に連携しながら、サービスをブラッシュアップしていくという。

変わるべきは、生産者とエンドユーザーの「中間」構造

「SEND」と「ツナグ」の2つのサービスで起こっているのは、ある意味では既存流通の「中抜き」だ。けれども、生産者と顧客の間に入る流通網が、そもそものロスの原因になっているのなら、その改善には大きな意味がある。

何より、美味しい野菜が安価に手に入ることで、飲食店も農家も儲かり、客も喜ぶ。サプライチェーン全体の活性化にもつながる「イノベーション」と言えるのではないか。

(文・山口亮子)

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