ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長の孫正義氏。
孫正義氏が通信子会社ソフトバンクの株式上場を準備すると正式に発表した。約20年前の自身のプレゼン映像を引き合いに「(20年かけて意図して作りにいったのは)一言で言うとNo.1の会社の群」だと孫氏は語る。しかし、国内通信ビジネスにおいて同社が首位に躍り出ることはそう簡単ではないだろう。
株式上場により、ソフトバンクはより自律的な経営視点と成長戦略を持ち、機動的に事業を展開することで、強固な経営基盤を持つことが可能になる —— ソフトバンクグループ(SBG)は2018年2月7日、発表文で上場の理由を述べた。
同日に開かれた第3四半期(2017年4月〜12月期)の決算説明会で、孫氏は「SBGは世界を俯瞰してNo.1グループをつくっていく。オペレーティングカンパニー(子会社ソフトバンクなどの事業会社)のCEOはそれぞれのオペレーションに特化して事業を行っていく」と話した。
累計契約数では「No.3」
ソフトバンクのキャリア(通信会社)としての国内シェアは相対的に高いとは言えない。
2017年12月までの累計契約数(モバイル+光回線)では、ソフトバンクが3299万6000件に対し、ドコモはその倍以上の7567万8000件。KDDIが3925万8000件。国内で起きている「格安SIM需要」に対して、サブブランドの「ワイモバイル」で一定の効果は上げているものの、ソフトバンクは仮想通信事業者(MVNO)に回線を提供するドコモらにおくれをとっている。
また、SBGの営業利益は連結ベースで、過去最高となる1兆1488億2900万円を計上したが、モバイル通信や固定回線を含む通信事業全体の営業利益は、6127億円と前年同期比約6%減少した。
ソフトバンクの国内通信事業は今期わずかだが減益だった。
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通信事業における減益に関して、同社は自社ユーザー向けのクーポン施策「SUPER FRIDAY」や、グループ会社ヤフーでのポイント10倍キャンペーンなどを理由をあげた。孫氏は「今期は顧客基盤拡大に向けた先行投資で、来期は増益に向かう」と話すが、ライバル2社も同様の施策を行っており、今後も苦戦を強いられるのではとの見方がある。
鍵は「LINE提携」と「SVFの新ビジネスモデル」
今後、ソフトバンクの収益拡大に向けて鍵を握るのが「LINE」との提携と、SBGの投資会社「SoftBank Vision Fund(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)」だ。
ソフトバンクとLINEの戦略的提携が実現すれば、LINEモバイルの筆頭株主はソフトバンクとなる。
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LINEモバイルに期待を寄せるソフトバンクの宮内謙CEO。
ソフトバンクは1月31日、LINEが運営する格安SIM事業社「LINEモバイル」との戦略的提携を発表している。提携はまだ基本合意の段階だが、実現すれば第三者割当増資によりLINEモバイルの出資比率はソフトバンクが51%、LINEが49%となる。
LINEモバイルは現在、ドコモの通信回線を活用している形だが、将来的にソフトバンク回線へ変わる可能性も十分考えられる。とくにLINEモバイルは、その出自から比較的若いユーザーの支持を得ている。
ソフトバンク・代表取締役社長兼CEOの宮内謙氏は、LINEモバイルに対し「(ソフトバンク、ワイモバイルに加え)3つ目のポジショニングが狙える」と期待を示している。
SBGはビジョン・ファンドでパートナーシップを結んだ各企業などのビジネスモデルを、今後ソフトバンクやヤフーで活かす。
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もうひとつの柱であるビジョン・ファンドは、SBGの利益拡大に貢献した半導体のNVIDIAや、Slack、WeWorkを含む26社に投資を行っている。これら投資先企業との日本における合弁事業の受け皿的な役割を、ソフトバンクやヤフーに担わせたいと、孫氏は述べている。かつて、ヤフーが米Yahoo!の事業を日本国内で展開したように、さまざまな新しいビジネスモデルやノウハウを、ソフトバンクやヤフーに当てはめていこうというわけだ。
孫氏の目論見通り、まずはソフトバンクの上場、LINEとの提携、ビジョン・ファンドのシナジーはうまくいくのか。
孫氏は、上場の時期について「できれば1年以内には行いたい」と述べたが、詳細に関するコメントは控えた。
(文・撮影、小林優多郎)