冷戦時代の再来? トランプ大統領が軍事パレードを指示

トランプ大統領

アメリカのトランプ大統領は、軍事パレードとより多くの核兵器を求め、大国としてロシアや中国と競おうとしている。

Kevin C. Cox/Getty Images

  • アメリカのトランプ大統領は、米軍による大規模な軍事パレードを実施するよう指示した。民主党議員やコメンテーターらは、独裁者のようだと批判している。
  • だが、アメリカでは過去、多くの軍事パレードが行われている。ソ連との緊張が高まっていた冷戦期には、パレードにしばしば核兵器が登場した。
  • トランプ大統領の軍事・外交政策は、大国が競い合う冷戦へと回帰するかのようだ。
  • 米軍は、台頭するロシアや中国と対立する姿勢を見せている。

トランプ大統領は国防総省に対し、ワシントンD.C.での大規模な軍事パレードを準備するよう指示した。その受け止めは、全般的にネガティブなものだ。

民主党議員の反応は早かった。6日夜(現地時間)、CNNのインタビューに応じたジャッキー・スペアー(Jackie Speier)下院議員は、「ナポレオンが生まれようとしている」と指摘、こうしたアイデアには「誰もが腹を立てるべきだ」と語った。

「オー・マイ・ゴッド……彼は金正恩になりたがっている」MSNBCのパーソナリティを務めるジョイ・リード(Joy Reid)氏は、大統領が軍事パレードを指示したとのニュースを聞いて、そうツイートした

国防総省はこうしたパレードをいつ実施すべきか、検討中だと言われている。だが、もしこれが実現しても、トランプ大統領は、ワシントンD.C.で軍事パレードを行った初のアメリカ大統領にはならない。

アメリカの軍事パレードには長い歴史があるが、直近では、北朝鮮が核を持つずっと前、冷戦期に行われたのが最後だ。

軍事パレードと核兵器をめぐる、アメリカの最近の歴史

1953年と1957年には、アイゼンハワー大統領の就任式の一部として、核兵器の搭載可能なミサイルが、ワシントンD.C.のメインストリートであるペンシルベニア大通りを進んだ。

1961年、ジョン・F・ケネディ大統領の就任パレードには、4タイプの核ミサイルが含まれていたと、核の歴史に詳しいステファン・シュワルツ氏はツイッターで指摘する

ケネディ氏とアイゼンハワー氏が大統領を務めた時期は、冷戦期の中でもソ連との核兵器をめぐる競争が最も激しい時期だった。

ケネディ政権が誕生する頃、アメリカは、人類初となる人工衛星スプートニクを打ち上げに成功したソ連を恐れを持って見ていた。アメリカの子どもたちは核攻撃に備え、机の下にもぐって身を守る避難訓練を繰り返していた。人工衛星を打ち上げて全世界の上空を飛ばすことができるなら、ソ連は爆弾を打ち上げることもできるだろうと考えられていた。

そして、アメリカが湾岸戦争で事実上の勝利を収め、冷戦が終わる頃、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領は、別のタイプのパレードを行った。

アメリカの軍事力の前に、当時は世界で3番目に大きいと言われたイラク軍が屈したことで、アメリカの勝利は決定的なものになった。化学兵器が多くの民間人の犠牲者を生んだこの戦争では当初、アメリカ側に2~3万人の犠牲者が出ると考えられていたが、実際は300人以下にとどまった。

この兵士たちの帰還を祝うパレードが1991年6月に行われたのだ。これにより、ブッシュ大統領の支持率は急上昇した。

同じ年の終わりに、クレムリンは鎌と槌の描かれた共産党の旗を降ろした。ソ連が崩壊し、冷戦が終わった。

冷戦の再来?

戦車の上に立つ米兵

破壊された戦車の上に立つ米兵。湾岸戦争の最中に撮影された。

Renee L. Sitler/U.S. Army

冷戦の終結以来、アメリカはヨーロッパから兵を引き揚げ、駐留先と核兵器の備蓄量を減らすべく、手段を講じてきた。オバマ政権はロシアをライバルというよりパートナーとして扱うようになった。

だが、オバマ大統領の任期が終わりに近付くと、潮目が変わり始めた。ロシアは2014年、アメリカやNATOの消極的な反応を尻目に、クリミアを併合した。

翌年にはシリアの内戦に介入し、すぐにアメリカが支援する反政府勢力を攻撃し始めた。加えて、ロシアは冷戦期と同じような量の核兵器をヨーロッパに配備、アメリカとの軍縮合意に違反していると非難されている。

同時期に、中国も大規模かつ野心的な軍の再建に乗り出し、南シナ海で勢力を強めた。年間数百兆円相当の貨物が行き交うこの海域で、中国は国際法を無視して人工の島を建設している

東側諸国との冷戦への回帰は、トランプ大統領の狙いではない。だが、21世紀の新冷戦を明らかに受け入れるものだ。

武力には武力で

ロシア兵

赤の広場で行われた、第二次世界大戦でのナチスドイツへの勝利を祝う、ロシア軍によるパレード(2016年、モスクワ)。

REUTERS/Grigory Dukor

トランプ政権は最近、アメリカの外交と軍の方針をまとめた文書をいくつか公開した。国家防衛戦略(NDS: National Defense Strategy)、国家安全保障戦略(NSS: National Security Strategy)、核態勢の見直し(NPR: Nuclear Posture Review) で、一貫してその最大の課題は、ロシアと中国の台頭をいかに抑えるかだとしている。

トランプ大統領の新たな核態勢は、軍縮ではなく軍拡へ向かっているように見える

ロシアでは軍事パレードが定期的に行われている。北朝鮮も同じだ。民主国家を含め、アメリカの多くの同盟国も行っている。

トランプ大統領が求める軍事パレードにはかなりの費用がかかるだろう。軍にとってはさらなる負担となるかもしれない。だが、軍事パレードは、大国が競い合う冷戦時代へ向かっていることを示している。

[原文:Trump is bringing back the Cold War with nukes, an arms race, and a military parade]

(翻訳/編集:山口佳美)

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