アウシュビッツ強制収容所。
Scott Barbour/Getty Images
- ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領は、ユダヤ人などの大虐殺(ホロコースト)というナチス・ドイツの戦争犯罪に、ポーランドが加担していたと批判することを禁じる法案に署名した。違反した場合、最長で3年の禁固刑が科される。
- この法律は、ポーランド領内にあった強制収容所を「ポーランドの死のキャンプ」と呼ぶことも、違法行為とみなす。
- イスラエルとアメリカはこの法律を非難してきた。
- ポーランドでは、多くの人々が国内で広がる人種差別主義や反ユダヤ感情を懸念している。今回の法案は、こうした状況の中で生まれた。
ポーランドでは、ホロコーストというナチス・ドイツの戦争犯罪にポーランドが加担していたと批判すれば、最長3年の禁固刑が科される。
2月6日(現地時間)にアンジェイ・ドゥダ大統領が署名したこの新しい法律は、ポーランド領内にあった強制収容所を「ポーランドの死のキャンプ」と呼ぶことも、違法行為とみなす。
法務省のパトリク・ヤキ副大臣は、「ポーランドの死のキャンプ」という単語は今も世界中で「日々」使用されており、この言葉の存在によって、批判の矛先がナチス・ドイツではなく、ポーランドの人々に向けられているのだと、国会で語った。
「言い換えるなら、ナチス・ドイツによる犯罪がポーランド人によるものだと見られている。そして、国に対するこの類の侮辱に対して、我々はこれまで適切に立ち向かうことができていなかった」とヤキ副大臣は述べた。
またこの法は、第二次世界大戦中にウクライナのナショナリストに殺害された約10万のポーランド人の死を否定することも、違法としている。この問題をめぐり、両国は常に対立してきた。
法律に違反すると、ポーランド国民だけでなく、外国人も罰される。だが、芸術家や研究者には適用されない。
ドゥダ大統領はこの後、ポーランドの憲法裁判所で、この法案が言論の自由を侵害していないかどうか、審査を受けると言う。そこで修正案が盛り込まれる可能性もある。
ホロコーストをめぐる批判に敏感なポーランド
Flickr/Marion Doss
ポーランドは、最大600万のユダヤ人が殺害されたホロコーストで、自国が果たした役割に対する批判に敏感だ。
ナチス・ドイツの占領下で、ポーランド領では少なくとも300万人のユダヤ系市民と、190万人の非ユダヤ系市民がナチスによって殺害されたと見られている。
11月にはポーランド名誉毀損防止同盟(RDI)が、国外で暮らすポーランド人に対して、第二次世界大戦中のナチス・ドイツの戦争犯罪にポーランドが加担していたとする報道を追い、それに反対することで、「ポーランドの評判を守る」べく支援を呼びかけた。
このとき、当時の副首相で現在は首相となったマテウシュ・モラヴィエツキ氏は、「ポーランドの死のキャンプ」といった言葉を「使用し続ける影響力の大きい海外メディアに対して、ポーランドは法的措置を講じるべきだ」と発言している。
この言葉の使用はメディアに限らない。
2012年、アメリカのバラク・オバマ大統領(当時)は、ナチス・ドイツに抵抗したポーランド人に大統領自由勲章を授与する式典で、「ポーランドの死のキャンプ」というフレーズを使い、物議を醸した。後日、大統領は「ナチスの死のキャンプ」とすべきだったと謝罪した。
ポーランドで広がる極右感情
ポーランドの国旗や炎を手に集う人々。極右のナショナリストたちが、ポーランドの独立99周年を記念して集会を開いた(2017年11月11日、ワルシャワ)。
Agencja Gazeta/Adam Stepien via REUTERS
ホロコーストに関する言葉を犯罪とみなすかどうかをめぐる議論は、ポーランドで広がる人種差別主義や反ユダヤ感情を多くの人々が懸念する中で出てきたものだ。
11月には右派グループによる大規模な抗議活動が行われ、6万のポーランド人が大衆主義的な与党を批判した。
多くの参加者は看板を手に、「白いヨーロッパ」や「血の浄化」といった人種差別的なスローガンを唱えた。
国際社会は反発
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、アウシュビッツ強制収容所の解放65年を記念した式典で、ろうそくを捧げた(2010年1月27日、アウシュビッツ・ビルケナウ)。
REUTERS/Peter Andrews
イスラエルとアメリカは、ポーランドのこの新しい法案を非難している。
両国は、ポーランドがその領内で行われたホロコーストの残虐行為に対する責任から免れようとしているだけでなく、この問題について自由に発言する権利を制限するものだと見ている。
多くのイスラエルの批評家は、この法律は、第二次世界大戦中に300万人前後のユダヤ系ポーランド人を拘束、殺害した一部ポーランド人の役割をごまかそうとするものだと主張している。
中でも、法案がポーランドの議会を通過したのが、国際ホロコースト記念日の前日にあたる1月26日であったことから、多くがこれを無神経だと見ており、特にイスラエルでは怒りの声が大きかった。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、これを「歴史の書き換えを試みる行為」だと批判した。
「この法案は、歴史的事実の更なる究明を助けるものではなく、研究の自由を害する可能性もある」イスラエルの外務省は1月に公表した声明文の中で述べた。
また、議会で採決を行う前に、法案について2国間で協議することを約束していたにも関わらず、それを行うことなく議会で可決されたことに対しても、イスラエルは憤慨している。
アメリカのティラーソン国務長官は、「ポーランドの死のキャンプ」といった言葉が「痛みを伴うものであり、誤解を生む」こともあると認めた上で、ポーランドの決断には「失望した」と述べた。
そして、こう加えた。「最良の対策は、開かれた議論、研究、教育だ」
(翻訳:まいるす・ゑびす/編集:山口佳美)