バレンタイン間近!大量生産にはない味を「クラフトチョコレート」ブームの仕掛け人に聞く

今年もバレンタインデーの季節がやって来た!チョコレートといえばここ数年注目されるのは「ビーン・トゥ・バー」というキーワード。ビーン・トゥ・バーとは、カカオ豆の選別・仕入れから加工・製造・販売までの工程を全て一貫して手がけるチョコレート作りのこと。手作りの良さを大切にするクラフトチョコレートの最新トレンドとは?

クラフトチョコレートマーケット

2018年1月に清澄白河で開催された「Craft Chocolate Market 2018」の様子。

写真:Dandelion Chocolate Japan

時代の反逆者がスタンダードをつくる

山下貴嗣さん

Minimalの山下貴嗣さん。元はコンサルタントという経歴を持つ。

写真:岡田清孝

「(この場所を選んだのは)今思うとちょっと冷や汗モノだなあと。素人ゆえの無知さが、結果として(成功につながった)」

そう言って笑うのは、ビーン・トゥ・バーチョコレート専門店「Minimal -Bean to Bar Chocolate- (ミニマル)」を展開する株式会社βaceの代表取締役、山下貴嗣(33)さんだ。山下さんは慶応義塾大学を卒業後、リンクアンドモチベーションでコンサルタントとして働いた後2014年にクラフトチョコレートの世界へ飛び込んだ。

中小ベンチャーから日本を代表する大手企業まで、さまざまな経営者と仕事をしていた山下さん。グローバル人材の育成などについて話す際、日本人の強みとは何かを考えるようになった。

そんな中、素材にこだわった丁寧なものづくりというクラフトのカルチャーに出合う。日本人ならではのきめ細やかさはクラフトとの相性がいいのではと考え、自身で挑戦したいと思うようになった。当時はワインやコーヒーもクラフトブームが始まっていたが、相対的に誰にでも味がはっきりと分かりやすいとの理由から、チョコレートへ照準を定めた。

Minimalの外観

Minimalは、喧騒から離れた住宅街にたたずんでいる。

写真:岡田清孝

店を構えたのは、渋谷駅から徒歩で約25分のところにある富ヶ谷。イメージしたのは、ブルックリン、東ベルリン、コペンハーゲンといった、尖ったカルチャーの発信地だ。住宅街近くという一見不便な立地に、周囲は反対した。

「街からちょっと外れた奥まったところに、ある意味時代の反逆者みたいな人たちが集まって面白いことをやりだして。それが時代のスタンダードになっていく。感度の高い、個性的な人たちが集まっているこの街が僕自身好きで。計算して(この場所に)出しました、と言えたらカッコいいんですけど、最後は感覚ですよね」

「自分が一番働けるときに、やりたいこと、そしてちょっと日本のためになることをできたら」とも考えた。

目標は「クラフトチョコレートを日本人的に再解釈して、世界で戦える日本のブランドをつくる」こと。チョコの原料であるカカオは農作物。季節の移ろいや産地、作り方によって味が変わる。香りや味わいの違いの繊細さを楽しめるところが日本人的だ、という。手作りならではだが、チョコの味は同じ種類でも微妙に変わる。

「言い訳でもあるんですけど、大量生産のために人工的に無理やり同じ味を作るより、味が変わる方がいいかな、と思っています」

朝と夜に食べるオランジェット

チョコレート

Minimalの板チョコレート。食べる箇所によっておすすめの食べ方が違う。

写真:岡田清孝

Minimalの板チョコレートは、箱や銀紙ではなくつるんとした密封のビニールパッケージに包まれている。取り出してみると、いくつもの区切れ目。それぞれに「舌触りの違いを楽しむ」「割ってひとくちで食べる」「シェアする」など、おすすめの食べ方が紹介されている。一口あたりのサイズは3グラムから4グラム。口に入れたときに一番香りが感じられる大きさを試行錯誤して導き出したという。

2018年のバレンタインに合わせて新発売した「Minimal Orangette “Morning&Night”」も、ふとした気づきから始まった。

オランジェットといえば、オレンジピールをチョコレートで包んだチョコレート菓子の定番。だが、「これっていつ食べるものなんだっけ?と分からなくなった」(山下さん)。考えた末に思いついたのが「朝と夜に食べる」オランジェットだ。

「Minimal Orangette “Morning&Night”」。

「朝食と夜のデザートに楽しむ」をコンセプトにした「Minimal Orangette “Morning&Night”」。

写真:岡田清孝

「朝はエネルギーが出るように、甘みと酸味が強いオレンジをわざと採用して。夜はお酒が進むように、オレンジ自体を赤ワインやクローブ・スパイスなどで煮てチョコレートも少し焦がして」。味の違いもはっきりと分かるように工夫した。

2017年8月に創業3年を迎えた。現在は富ヶ谷のほか、銀座・白金高輪・池袋にも店をオープン。生産体制が追いつかないほどの人気だという。

次のトレンドは「製造工程の“中”」

松室和海さん

MAGIE DU CHOCOLATのオーナーシェフ、松室和海さん。

写真:西山里緒

根っからの職人気質の「仕掛け人」もいる。2016年に自由が丘にオープンした「MAGIE DU CHOCOLAT(マジドゥショコラ)」の松室和海さん(30)だ。

あまりトレンドは気にせず、ただ自分が作りたいものを作ってきただけ、とクールに話す松室さん。だがそのこだわりはスタッフが、「なんでも自分でやらないと気が済まない。『実験くん』と呼ばれています」と舌を巻くほど。繁忙期であるバレンタインシーズンはほぼ不眠不休で商品作りに当たっている。

松室さんは専門学校を卒業後、街の菓子屋を経て、横浜・みなとみらいにあるチョコレート店「バニラビーンズ」で働き、工場長まで務めた。その実績が広まり出資のオファーを受け、2016年に自らの店をオープン。瞬く間に人気店になった。

人気商品「ナンバーフォー」。

人気商品「ナンバーフォー」。塩気のあるキャラメルのような味わいだという。

写真:西山里緒

ヒット商品は、ダーク・ホワイト・ミルクに続く「第4のチョコ」として脚光を浴びたブロンドチョコレート、「ナンバーフォー」だ。フランスのチョコレートメーカーがホワイトチョコを誤って焦がしてしまい、たまたまキャラメルのような色と風味が出来上がったという偶然が生み出したチョコレート。難しいとされていた商品化を、日本でいち早く実現した。

松室さんによると、ビーン・トゥ・バーの次のトレンドは「製造工程の“中”」に工夫を凝らすこと。例えばカカオ豆を燻製して風味をつけてからチョコレートにしたり、抹茶を製造過程で練りこんだり、チョコレートになってから材料を混ぜて味をつくるのではなく、プロセスの中でもたらされる味に注目が集まるのでは、と考えている。

大企業も参入、クラフト文化は根付くか?

クラフトチョコレートマーケット

クラフトカルチャーは、人と人とのつながりを大切にする。

写真:Dandelion Chocolate Japan

クラフトブームは今、大手菓子メーカーからも熱い視線を集める。そのブームの“重鎮”にも話を聞いた。

2015年にサードウェーブコーヒーの代表格である「ブルーボトルコーヒー」の日本展開を仕掛け、2016年にはビーン・トゥ・バーチョコレート店「ダンデライオン・チョコレート」を蔵前にオープンさせた堀淵清治さん(66)だ。

堀淵さんの経歴も異色だ。早稲田大学卒業後、そのまま渡米。9年ほどヒッピーや放浪などをしていた。1986年に小学館から出資を受け、米最大のマンガ・アニメ企業VIZ MEDIAの前身となるビズ・コミュニケーションズを創業。その後、日本のポップカルチャーを伝えるエンタメコンプレックス、NEW PEOPLEをサンフランシスコにつくった。1階ロビーに入るカフェを探していた時、出合ったのがブルーボトルコーヒーだった。

ダンデライオン・チョコレートも、クラフトというコンセプト、サンフランシスコ発、ファクトリーとカフェが併設、作っている工程が見える、と多くの共通点がある。「これはいい」とオーナーを探し、「まだオープンしたてで海外展開は考えられない」というオーナーを説得して日本進出へこぎつけた。

クラフトチョコレートマーケット

「Craft Chocolate Market 2018」では、国内外から29のクラフトチョコレートブランドが出展。

写真:Dandelion Chocolate Japan

クラフトは広がりを続けている。ダンデライオン・チョコレート主催で2018年1月に清澄白河で開催された「Craft Chocolate Market 2018」は、1日あたりの来場者数が前年の約1.4倍に伸びたという。2016年9月には明治がビーン・トゥ・バーをコンセプトにした「meiji THE Chocolate」をリニューアル発売し、累計販売個数が4000万を超える大ヒット商品になった。

「(大企業によるクラフトブランドの展開について)思うところはあるけれど、クラフトという文脈がカルチャーとして当たり前のように人々の意識に根付いていく、とポジティブに捉えたいね」(堀淵さん)

2018年3月、ダンデライオン・チョコレートは蔵前・伊勢外宮・鎌倉に次ぐ国内4店目の店を京都にオープンする。

バレンタインでチョコレートを買うとしたら、こんな新しい潮流に乗ってみてもいいかもしれない。

(文・西山里緒)

編集部より:初出時、「Minimal(ミニマル)」としておりました店名ですが、正しくは「Minimal -Bean to Bar Chocolate- (ミニマル)」です。お詫びして訂正致します。 2017年2月10日 16:20

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